貴方の為に出来る事、君の為に出来る事 



その三 護りたいもの

傷ついて欲しくなんてないのに・・・




沖田「いっちゃいましたよ、どーしやす多串君」


土方「誰が多串君だ」


そう言って総悟の頭を鷲掴む土方。


土方「あの野郎、わずか二、三話で人のこと忘れやがって。総悟ちょっと刀貸せ」


沖田「?」



と銀髪の関係が気になるが、思い出せないなら思い出させてやる。俺流のやり方で----





場所は変わって、帰りの道を歩いていた。ふと手元の風呂敷を覗くと----



「あっ・・・!いけない・・・。水筒持って帰るの忘れてしまいました・・・」


心地良い銀時との時間のせいで、すっかり弁当箱と風呂敷は持って来たもののやけに軽いと思えば水筒を銀時の場所に忘れてしまった。銀時の事だから、仕事が終われば持って来てくれるかもしれないが、重労働の後の疲れているだろう彼に荷物を持たせるなんて気が重い。そう思ったは来た道を戻り始めた。先程銀時と別れる時はなぜか物悲しい気持ちになったと言うのに、また逢えると思うと不思議と気持ちが弾む。万事屋に帰ればまた逢えるのに・・・。




親方「バカヤロー、金槌はもっと魂こめてうつんだよ」


が丁度忘れ物を取りに戻ろうとしていた頃、黒髪の男達と別れて再び仕事に戻った銀時。依頼主である親方の激が飛ぶ。


銀時「おめーの頭にだったら、魂こめてうちこんでやるよハゲ」


親方「コノヤロー、人材不足じゃなかったらてめーなんて使わねーのによォ。それにしても、さっき来てたお嬢ちゃんベッピンだったなぁ・・・。おめーのコレか」


そう言ってニヤニヤと小指を立てる親方。


銀時「ばっ・・・!そんなんじゃねーよ!余計な勘繰りしてんじゃねーよハゲ」


親方「ワハハハ、おめーみたいなのがあんなベッピンさんと釣り合うわきゃねーか!そこ、ちゃんとやっとけよ」


銀時「ちっ・・・。オメーもなハゲ」


親方の言葉に舌打ちをする銀時、なぜだか胸がざわつく・・・。そのざわつきの理由を考えていた時、ふと後ろから声がした。


???「爆弾処理の次は、屋根の修理か?」


銀時「?」


声がした方を振り向いてみれば、先程別れた黒髪の男が屋根に登り終えた所だった。


土方「節操のねェ野郎だ、一体何がしてーんだてめェは」


銀時「
爆弾!?あ・・・お前あん時の」


鋭い殺気にあの時を庇った銀時。あの攻撃を避けなかったら今頃彼女は大怪我ではすまなかったかもしれない・・・。


土方「やっと思い出したか、あれ以来どうにもおまえのことがひっかかってた。あんな無茶する奴ァ、真選組(うち)にもいないんでね」


あの時、池田屋で爆発しようとしていた爆弾と共に窓に投げ出された(神楽が吹っ飛ばしたのだが)銀時は空中と言う不安定な状態にも関わらず、空に爆弾を投げたのだ。ああしなければ池田屋に居た者達はおろか、周りにも被害が出ていたかもしれない・・・。


土方「近藤さんを負かす奴がいるなんざ信じられなかったが、てめーならありえない話でもねェ」


銀時「近藤さん?」


土方「女取り合った仲なんだろ。そんなイイ女なのか、俺にも紹介してくれよ」


そう言って刀を銀時に投げて寄越す土方。ストーカー事件の全貌は当の本人達しかしらないけれど、そこにが関わっていた等とは土方も知らず、みたいな女だったら取り合う男がいるかもしれねェと土方は一瞬思った。


銀時「お前、あのゴリラの知り合いかよ」


確かに、あの男がストーカーしていたのはお妙だし露骨に好意を示していたのもお妙になのだが、あの男がにも何処かしら好意を感じているのは何となく分かる。それが面白くない銀時。


銀時「・・・にしても何の真似だこりゃ・・・。!!」


銀時が言い終わる前に、刀を抜いた土方が銀時に向かって中段の構えで斬りかかる。銀時は咄嗟に鞘の付いたままの先程渡された刀でその一撃を防いだ。しかし、屋根の上と言う不安定な場所と突然の渾身の一撃に踏み止れず、大きく吹き飛ぶ銀時。


銀時
「ぬおっ!!」


ガタガタ、ゴトゴトと大きな音を立てながら屋根の上を下へ滑り落ちていく銀時。


銀時
「あだっ!!あだっ!!あだっ!!」


危うく、屋根の端すれすれで何とか体勢を整えた銀時は足を踏ん張り何とか屋根の上からの降下を踏みとどまる。大工仕事で足袋を履いていたのが幸いだった。特に高い場所の屋根と言う訳では無いけれど、体勢が不安定なまま落ちれば命に関わるだろう。運が良く落ちたとしても大怪我は免れない。


銀時「何しやがんだてめェ」


土方「ゴリラだろーがなァ、真選組(おれたち)にとっちゃ大事な大将なんだよ。剣(こいつ)一本で一緒に真選組をつくりあげてきた、俺の戦友なんだよ。誰にも俺達の真選組は汚させねェ」


そう言って転がり落ちて距離が開いた銀時へと近寄る土方。


土方「その道を遮るものがあるならば剣(こいつ)で・・・」


そう言って再び刀を構える土方。


土方
「叩き斬るのみよォォ!!」


そう言って渾身の力を込め銀時へ刀を振り下ろす土方。あまりの威力に瓦が吹き飛び砂埃が舞う。


銀時
「刃物プラプラふり回すんじゃねェェ!!」


土方の渾身の一撃を、距離をとって避けた銀時は間を置かず土方へととび蹴りをくらわした。とび蹴りは丁度土方のコメカミ部分にヒットし、体勢を崩す土方だがすかさず刀を振り下ろし銀時の肩を切り裂く。


銀時「!!」


親方「なんだ?
オイ、銀さーんてめっ遊んでたらギャラ払わねーぞ


大きな音に屋根の反対側に居る親方が銀時に声をかける。丁度親方の場所からでは銀時達のやり取りは見えない。


銀時
「うるせェ、ハゲェェ!!警察呼べ警察!!」


出血した銀時の肩から血が流れ出す。

ギャラが払われなくては困る。何の為にこんな退屈でダルイ仕事を引き受けたと思うんだ。の笑顔がタダ見たい、彼女だけに万事屋を背負わしたくないからなのに・・・。



土方「俺が警察だよ」


銀時の蹴りによって体勢を崩していた土方が起き上がる。


銀時「あ・・・そうだった。・・・世も末だなオイ」


土方「ククク、そーだな」


・・・・何だか読めねェ野郎だな。近藤さんの時は汚ねェ手使ったってきいたが、そんな素振りも見せねェ。それどころか、貸した刀さえ使おうとしやがらねェとは。まさか、コイツ自分(てめー)が命狙われてるにも拘らず俺に気づかってるってのか。


銀時も肩を押えながら起き上がると、左腕の様子を確かめる。決して浅い傷ではないけれど使えないほどの大きな物ではない。漸く渡された刀を抜き放つ銀時。


フン・・・いよいよくるかよ。命のやりとりといこうや!!


刀を横向きに構える銀時へ素早く踏み込む土方。


土方
「うらァァァァ!!」


斬る刀に手ごたえがある。


斬った!!


土方「!!」


しかし切り裂いたのは銀時では無く、銀時が首に下げていたタオルだった。


なに!?かわされた、斬られ・・・


ザンと大きな音が響く。斬られたのは土方ではなく土方が持っていた刀だ。真っ二つに見事に折れた土方の刀。


銀時「はァい、終了ォ」


唖然とする土方にニヤリと笑う銀時。


銀時「いだだ、
おいハゲェェ!!俺ちょっと病院行ってくるわ!!


そう言うと屋根から離れようとする銀時。


土方「
待てェ!!・・・てめェ情けでもかけたつもりか」


銀時「情けだァ?そんなもんお前にかけるくらいなら、ご飯にかけるわ。喧嘩ってのはよォ、何か護るためにやるもんだろうが。お前が真選組を護ろうとしたようによ」


土方「・・・護るって。お前は、何護ったってんだ?」


背中を見せる銀時に問いかける土方。


銀時「
俺の武士道(ルール)だ。じゃーな」


そう言って一瞬だけ土方に振り向き、再び歩んだ銀時。


きっともそれを望んでるはずだ。優しい彼女はきっと人を傷つける事を極力しないはずだから。彼女が悲しむ姿を見るのは俺も嫌だから・・・。だから土方を叩きのめすのではなく、戦う術を叩き折った。




沖田「・・・フフ面白ェ人だ、俺も一戦交えたくなりましたぜ」


丁度、銀時と土方が戦う屋根を見下ろせる位置で戦いの行方を見ていた総悟。真選組の副長の土方を負かせるなんて興味が沸く。


近藤「やめておけ、お前でもキツいぞ総悟」


そう言って総悟が隣を見上げると近藤の姿が。


近藤「アイツは目の前で刃を合わせていても、全然別の所で勝手に戦ってるよーな男なんだよ。勝ち負けも浄も不浄も超えたところでな」



銀時が行った後、タバコを取り出し屋根に寝転ぶ土方。


土方「ワリぃ、近藤さん。俺も負けちまったよ」


負けたのになぜか清清しい気分だった。剣だけでなく、気持ちで既に負けていたんだな・・・。




銀時「イテテテ、あの野郎本気で斬りやがって・・・」


「銀さん・・・?っ!!!」


後ろを振り向けば帰ったはずのが居た。銀時が振り返ると穏やかだった彼女の表情が途端に強張る。


「怪我・・・!怪我したんですか・・・!?」


銀時「あ〜・・・ちっと足滑らせて・・・」


真選組とやり合った等と言ったら心配するだろうと、苦し紛れの嘘をついた銀時。走りよって来たは慌てて銀時の傷の具合を見る。


これは・・・刀傷・・・?
足を滑らせて出来る様な怪我では決して無い。は一人旅をしていたせいもあり、ある程度の怪我や病気の知識はある。ましてやは侍だ、刀傷は見れば分かる。けれど怪我の理由を銀時が隠しているなら強く聞き出す事は出来ない・・・。持っていたハンカチを傷に巻きつける。


銀時「ありがとな・・・。そう言えばちゃん帰ったんじゃねーの?」


「あっ・・・えっと、水筒忘れちゃって取りに来たんです」


銀時「なーるほど」


怪我なんて日常茶飯事の様に見ている筈なのに、なぜだか銀時の傷を見ていると気持ちが重く沈む・・・。あの時、無理にでも手伝っていれば銀時が怪我などしないですんだかもしれないのに・・・。なぜ彼が怪我をしただけでこんなにも胸が痛むのか理由は分からない。
銀時に見えない様に、己の着物の裾をギュッと握り締める。



こんなにも痛い胸の奥・・・。理由は未だに分からぬまま----