その二 黒髪の男との再会
こんな小さな事に、幸せを感じる日々----
温かな日差しの下で、美味しい弁当を食べる。言葉は無かったけれど一緒に居ると言うだけで、心に広がるこの心地良い波紋。お互い言葉にして言わないけれど、こんな時間がずっと続けば良いのにと心の中で想う。
「何時までも、お仕事のお邪魔する訳には行かないので私は帰りますね」
本当は手伝って行きたいのだけど、置手紙だけで万事屋を出て来てしまって、もう帰っているだろう新八や神楽を心配させてしまうだろう。名残惜しいと想うこの気持ちはひっそり隠す。
銀時「わざわざ、ありがとな」
俺が食べた弁当箱を片付けるにそう言うと、言葉の代わりに温かい笑顔で返してくれる。そんな些細な彼女の行動なのに、幸せを感じるのはなぜなのだろう。
銀時とが丁度別れた頃、屯所の騒ぎを抜け出し見回りに来ていた土方と総悟。
「白髪の侍へ!!
てめェ、コノヤロー。すぐに真選組屯所に出頭してこい
コラ!一族根絶やしにすんぞ」
何やら物騒な内容の張り紙が、街中の電信柱に貼ってある。勿論、真選組局長をぶっ飛ばした銀時に当てたものだ。当の本人が気付く事は勿論無い。
沖田「なんですって?斬る!?」
土方「ああ、斬る」
そう言ってタバコの箱を音を立てながら開ける土方。
沖田「件(くだん)の、白髪の侍ですかィ」
土方「真選組(うち)の面子ってのもあるが、あれ以来隊士どもが近藤さんの敵をとるって殺気立ってる。でけー事になる前に俺で始末する」
そう言うとタバコに火を付ける土方。
沖田「土方さんは二言目には【斬る】で困りまさァ。古来、暗殺で大事を成した人はいませんぜ」
土方「暗殺じゃねェ、堂々と行って斬ってくる」
沖田「そこまでせんでも、適当に白髪頭の侍見繕って連れて帰りゃ隊士達も納得しますぜ」
そう言うと、丁度近くに居た浮浪者のおじさんを捕まえる総悟。
沖田「これなんてどーです、ホラ、ちゃんと木刀もちな」
土方「ジーさん、その木刀でそいつの頭かち割ってくれ」
沖田「パッと見さえないですが、眼鏡とったらホラ武蔵じゃん」
土方「何その無駄なカッコよさ!!」
ぐるぐる眼鏡をはずすと以外にも凛々しいおじさんの顔。
沖田「マジで殺(や)る気ですかィ?白髪って情報しかこっちにはないのに」
そう言って浮浪者のおじさんに手を振って別れる総悟。おじさんも振り返している。
土方「近藤さん負かすからには、タダ者じゃねェ。見ればすぐわかるさ」
普段はストーカー等と情けない事をしている局長のあの人だが、真選組を束ねる人望も危険な真選組と言う仕事も今まで一緒に乗り越えて来たのだ。生半可な腕では生き残れない。あの人だから着いて行こうと思った、退屈な日常から救ってくれたあの人だから・・・。
???「おーい、兄ちゃん危ないよ」
少し物思いにふけっていたせいで、声に気付くのに数瞬掛かってしまった。声がする上を見上げると何と大量の木材が自分の上から降ってくるではないか。
土方「うぉァアアアアァ」
ガシャンと辺りに木材が落ちる音が大きく響く。何時もクールな土方だが、この時ばかりは情けない声をあげてしまった。
土方「あっ・・・危ねーだろーがァァ!!」
???「だから危ねーってつったろ」
土方「もっとテンションあげて言えや!!わかるか!!」
???「うるせーな、他人からテンションのダメ出しまでされる覚えはねーよ」
そう言って屋根の上から梯子を降りて来た、ヘルメットを被った職人らしき男。
土方「あ”あ”あ”あ”あ”!!てめーは・・・池田屋の時の・・・」
銀時「?」
土方を危うく亡き者にしようとした木材を落としたのは、何を隠そう銀時だった。
あれからが帰ってしまい、心に広がっていた謎の温かさの理由を考えていたせいでボーッとしていた。彼女と居ると不思議と穏やかに、けれど少し騒ぎ出す己の心臓。だけど決して嫌な感じではない。
土方「そぉか・・・そういやてめーも銀髪だったな」
池田屋の事件の時、己が繰り出した剣戟の殺気を逸早く察知し避けたこの銀髪の男。相当の腕がなければ避ける事などできはしないだろう。そう言えばが「そんなの当たり前ですよ。3人は、私にとって大事な仲間ですから」と言っていた。あの美しい紫の瞳をした彼女とこの男の関係がふっと気になる。
銀時「・・・えーと君、誰?あ・・・もしかし多串君か?アララすっかり立派になっちゃって。なに?またあの金魚デカくなってんの?」
親方「オ−−−−−イ!!銀さん早くこっち頼むって」
銀時「はいよ、じゃ多串くん、俺仕事だから」
そう言って唖然とする土方と総悟を残し降りて来た、梯子を再び登って行く銀時。
この時、俺は考えもつかなかった。黒髪との再会があんな面倒な事になるなんて・・・。
心を占めるのは、君の事ばかり