その一 玉子焼き
ずっと笑って居てくれ----
隊士「副長ォォォォ!!」
お妙のストーカー事件が無事?解決し、穏やかな午後の日になるはずのこの日、何時もは静かな真選組屯所に男達の大きな叫び声が響き渡った。
隊士「局長が女にフラれたうえ、女を賭けた決闘で汚い手使われて負けたってホントかァァ!!女にフラれるのは何時もの事だが、喧嘩で負けたって信じられねーよ!!銀髪の侍って言うのは何者なんだよ!!」
土方「会議中にやかましーんだよ。あの近藤さんが負けるわけねーだろうが。誰だ、くだらねェ噂たれ流してんのは」
隊士「沖田隊長が。スピーカーでふれ回ってたぜ!!」
そう言って隊士が指差す方向には、呑気にお茶を飲む総悟が・・・。
沖田「俺は、土方さんに聞きやした」
土方「コイツにしゃべった俺がバカだった・・・」
そう言って頭を抱える土方。
隊士A「なんだよ、結局アンタが火種じゃねェか!!」
隊士B「偉そうな顔して、ふざけんじゃないわよ!!」
隊士C「って事は何?マジなのあの噂!?」
再び騒ぎ出す隊士達。
土方「うるせェェェェェぁぁ!!」
騒々しい騒ぎについに限界が来たのか、座っていた椅子から立ち上がると大声をあげながら机を蹴り飛ばす土方。
土方「会議中に私語した奴ァ、切腹だ。俺が介錯してやる、山崎・・・お前からだ」
山崎「え”え”え”!?俺・・・何にもしゃべってな・・・」
なぜか一言もしゃべっていない山崎と呼ばれる青年に、腰から下げていた刀を抜き放ち恐ろしい形相で山崎に詰め寄る土方。
隊士「しゃべってんだろーが、現在進行形で」
周りの隊士達は庇う所か、己の安全のため可哀想な山崎を生贄に・・・。
???「ウィース。おお、何時に無く白熱した会議だな」
まさに山崎が土方の刀によって本当に介錯されようとしたその時、天の助け?なのか会議室に入って来た一人の男。当然室内に居た隊士達や土方、山崎、総悟の視線は一斉にそちらに向く。
近藤「よ〜〜し、今日も元気に市中見回りにいこうか。ん?どーしたの?」
部屋に入って来たのは噂の当人、近藤 勲(こんどう いさお)。お妙のストーカー事件で銀時によって張り倒された頬は、痛々しい程腫れ上がっている。
土方「ハァ」
きっと、この場に居た全員が土方の様に溜息をつきたいと思ったに違いない・・・。
銀時「はぁ・・・、かったりぃ・・・」
場所は変わってココは歌舞伎町のとある家の屋根の上。トントンと屋根の修理を金槌でする銀時の相変わらずだるそうな声。と言うのも、久しぶりに万事屋に来たのが大工の手伝いであった。何でも職人達が一斉に風邪を引いたとかで、人手が足らず困っているのだと言う。何時もの銀時なら面倒この上ない依頼は新八や神楽に任せるかするのだが、そうもいかない事情があった。前回のストーカー事件であらわになった、万事屋の逼迫した家計状況。それを今までに甘え過ごしていた自分。そのせいでストーカー男ととの関係にイラついて・・・。あんな思いは2度とごめんだ。未だになぜ、あんなにイラついたのか理由は分からないけれど・・・。そうゆう思いもあって彼女だけに、負担をかけたくないので頑張ろうと思っていた矢先に、依頼がきたせいで断る訳にはいかないし、人に任せるのも何だか嫌だった。何て少しカッコイイ事思いながらも、やっぱり元来の怠け癖がそう簡単に直るわけも無く銀時の台詞だ。
「ふふっ、銀さんお疲れ様です」
耳に心地よい声が、屋根の下から聞こえる。銀時は作業を中断して下を覗き込むと何やら風呂敷包みを下げたの姿が見える。下からこちらを見上げて、綺麗な笑顔で小さく手を振っている。
銀時「アレ?ちゃん、出掛けてたんじゃなかったの?」
依頼主から電話がかかって来た時、銀時は一人で万事屋に居た。新八は買出しに出て居たし、神楽は遊びに行ったのか朝から姿が見えない。も用事があるからと出掛けていた。勿論、銀時達には内緒でアルバイトを探していたのだが心配をかけさせたくなくて、その事は黙っていたけれど。朝から出掛けていたは、お腹を空かせているだろう銀時達の為に一度帰ったのだが姿が見えない。お登勢に聞いてみれば、どうやらが居ない間に依頼が来て出掛けたと教えてもらった。どうやら依頼主とお登勢が知り合いらしく、困っていた依頼主に万事屋を紹介してくれたのがお登勢だと言う。
「帰ったら、銀さん達居なくてお登勢さんにココに居るって聞いたんです。銀さん、今少しだけ休憩取れますか?」
銀時「?ちょっと待ってて〜」
がなぜこんな事を聞くのか分からなかったが、彼女が理由も無くそんな事を聞いてくるはずも無く、疑問に思ったが銀時は依頼主の親方に事情を話した。
銀時「、今降りっから」
親方に休憩を貰い、下で待つ彼女の元へ降りようと銀時が声をかける。
「あっ、銀さん私が上に行っちゃいけませんか?」
銀時「気ィつけて登れよ」
銀時がそう言うと、予め屋根に向けてかけてあった梯子で銀時が居る屋根に登って来た。
「お仕事の邪魔してすいません」
銀時「良いって良いって、どうせ対した仕事じゃないから」
銀時の言葉に苦笑したは銀時が座っている隣へ腰掛ける。
「結構高いですね〜。良い眺めです」
上を見上げれば、視界一杯に広がる青い空。視線を少しずらせば歌舞伎町が一望出来る。それを嬉しそうに眺めるにつられて笑顔になる銀時。さっきまでのかったるさなんてもう微塵も無い。
銀時「この街が好きか?」
「はい、色々旅して来ましたがココは活気があって沢山の人達が生活していて・・・」
そして何より、【銀時達と出逢えた場所】。居心地が良いと思える場所を見つけた街だから・・・。
銀時「そういや、俺に何か用事あったんじゃねェの?」
「あっ!銀さんにコレ持って来たんです」
そう言って自分の脇に置いていた、風呂敷包みを銀時に差し出す。目で開けて良いのかと銀時が訴えると、笑顔で答える彼女。少し重たい包みを開けると、何やら四角い箱が。何やら良い匂いがするその箱の蓋を開けると、中には食欲を誘う色とりどりのおかずが----
「銀さん、何も食べてないんじゃないかと思って。お口に合うか分かりませんけど・・・」
そう言って舌をペロッと可愛らしく見せる。彼女が持ってきた風呂敷の中身は、2段に重ねたお弁当だった。ちゃんと水筒も入っている事から、彼女の心遣いが感じられる。の言う通り、今は昼を過ぎた頃だ。丁度腹が減っていた所だった。
銀時「食べて良い?」
「ふふっ、勿論です。銀さんの為に作ったんですから」
とは言うものの、銀時の弁当を作るかたわらちゃんと新八や神楽の分まで作って置いて来た。
銀時「うめェ」
「良かった・・・」
おいしい何て今さらかもしれない。だって彼女が万事屋に来てからと言うもの、万事屋の食卓には彼女の手作りが並ぶ事はもう当たり前だ。そのが作る弁当がまずい訳が無い。形良く作られた黄色い玉子焼きを頬張る。糖分を控えめにした代わりに、牛乳を入れたせいでまろやかでいて甘い。糖尿病予備軍の俺の為に、彼女が考えてくれた物だ。屋根の上何てお世辞にもロマンテックの欠片も無いかもしれないけれど、穏やかな風と君の笑顔。それだけで心に温かな何かが心地よく広がっていく----
心地よい温もりは、きっと君の笑顔