その二 不器用な選択
たった一人の言葉が、何より嬉しくて----
お妙「余計なウソつかなきゃよかったわ。何だか、返って大変な状況になってる気が・・・」
結局、男の言うがままお妙(と?)をかけて男と決闘する事になった銀時。普段の彼なら、一文の特にもならない様な厄介事は断固として避ける所なのだが・・・。あれから結局、と男との関係が分かるはずも無く理由の分からない苛立ちもあり、男に促されるまま河原に行く事になった。河原には男が一人、少し離れた橋の上で、お妙、新八、神楽が見守る形だ。なぜか銀時の姿が見えない。
お妙「それにあの人、多分強い・・・。決闘の前にあの落ち着きぶりは、何度も死線を潜り抜けた証拠よ」
お妙の言う通り、男はこれから決闘だと言うのにやけに落ち着いている。このご時世に帯刀していると言う事は、少なからず刀を使って生活していると言う事だ。余程の腕が無ければ、それも叶わない。は武士として、男と出会った時から何となくそう感じていた。男も自分と同じ武士として生きる者なのだと。
神楽「心配いらないヨ、銀ちゃんピンチの時は私の傘が火を吹くネ」
お妙「なんなのこの娘は」
お妙の心配をよそに傘を構える神楽。お妙の言う事も分からなくないが、銀時は強い・・・。多分、今まで出逢った侍達より遥かに。自分も女とは言え、武士を名乗る身ゆえそれなりの腕はあると思っている。けれど銀時には敵わないだろうと思う。侍の感がそう言っているのだ。【今の】自分では勝てないと----
男「おいッ!!アイツはどーした!?」
なかなか現れない銀時に痺れを切らし、橋の上の新八に訪ねる男。
新八「あー、何か厠行ってくるって言ってました」
決闘前だというのに、我らが万事屋の責任者は何とものんきなものだと思うのは私だけだろうか・・・。でもそれが銀時らしいと微かに笑う。武士とは常に命をかける場面に居合わせるせいか、中々銀時の様に心にゆとりを持てる事は難しい。それは酷く簡単な様に見えるかもしれないけれど、武士が持っている【刀】とは人の命を簡単に奪える武器だ。一歩間違えれば己の命を落とす事にもなるだろう。緊迫した状況の中で確実に冷静に状況を見極められる事が何よりも大事だ。銀時のマイペースさと心の強さ、それは彼の強さなのだろうと思う。
河原の砂利を踏みしめる音に目を向けてみれば、ようやく銀時が姿を現した。
男「来たっ!!遅いぞ、大の方か!!」
銀時「ヒーローが大なんてするわけねーだろ。糖の方だ」
男「糖尿に侵されたヒーローなんて、聞いた事ねーよ!!」
これから命をかけた決闘が行われると言うのに、まるで漫才でも始めそうな銀時と男。
男「得物はどーする?真剣の方が使いたければ貸すぞ、お前の好きにしろ」
銀時「俺ァ、木刀(コイツ)で充分だ。このまま闘(や)ろうや」
そう返事を返すと、木刀に手を添える銀時。
男「なめてるのか、貴様」
銀時「ワリーが人の人生賭けて勝負できる程、大層な人間じゃないんでね。代わりと言っちゃ何だが、俺の命を賭けよう。お妙の代わりに俺の命を賭ける、てめーが勝ってもお妙はお前のモンにならねーが邪魔な俺は消える。後は口説くなりなんなり好きにすりゃいい。勿論、俺が勝ったらお妙からは手ェ引いてもらう。あ、けどからは手ェ引いてもらうぜ?」
お妙「自分の命を白刃の元にさらして、負けても私には危害を及ぼさない様にするつもり!?ちょっ、止めなさい!!銀さん!!」
銀時の言葉に橋から身を乗り出し叫ぶお妙。今にも飛び降りそうな勢いだ。
「お妙さん、落ち着いて下さい!大丈夫です、銀さんなら」
お妙の肩に優しく触れ微笑む。銀時と言う男を心から信頼し、信じていなければ出来ないであろう彼女の微笑みは女の自分から見ても綺麗で、心臓がドキドキする。
男「クク・・・」
銀時「?」
男「い〜男だな、お前。お妙さんが惚れるはずだ。いや・・・女子より男にもてる男とみた」
そう言うと己の真剣を地面に投げつける男。
男「小僧、お前の木刀を貸せ」
新八「?」
突然の男の言葉に、意図が分からず疑問に思う新八。そんな時、男の傍へ木刀が投げられた。
銀時「てめーもいい男じゃねーか。使えよ、俺の自慢の愛刀だ」
新八「銀さん」
男が銀時の木刀を構え、銀時は新八から木刀を受け取る。
銀時「勝っても負けても、お互い遺恨はなさそーだな」
男「ああ、純粋に男として勝負しよう。いざ!!」
銀時「尋常に」
銀時・男「勝負!!」
どうか、どうか怪我だけはしないで欲しい・・・。橋の上からはただ、祈った。
男が大きく木刀を振り上げたその時----
男「あれ?」
まさに、銀時と男の木刀が火花を散らそうとした時突然男の木刀が折れる。
男「あれェェェェェェェ!?ちょっと待って、先っちょが・・・」
大きく木刀を振り上げる銀時。
男「ねェェェェェェェェェェェ!!」
言葉と共に顔面を木刀に直撃され吹っ飛ぶ男。唖然とする橋の上に居る4人。
銀時「甘ェ・・・天津甘栗より甘ェ。敵から得物借りるなんざよォ〜。厠で削っといた、ブン回しただけで折れる位にな」
男「貴様ァ、そこまでやるか!」
銀時「こんなことのために誰かが何かを失うのはバカげてるぜ。全て丸くおさめるにゃコイツが一番だろ」
そう言って勝ち誇った笑みを浮かべる銀時。
男「コレ・・・、丸いか?・・・」
そう言って力尽き気を失う男。
銀時「よォ〜、どうだい、この鮮やかな手ぐ・・・ちゃぶァ!!」
銀時が言い終わる前に、橋へと歩み寄った銀時に神楽と新八は橋から飛び降り、銀時へと着地する。
新八「あんなことして勝って、嬉しいんですかこの卑怯者!!」
神楽「見損なったヨ!!侍の風上にも置けないネ!!」
そう言い、銀時へと容赦ない蹴りをお見舞いする二人。
銀時「お前、姉ちゃん護ってやったのにそりゃないんじゃないの!!」
神楽「もう帰る、二度と私の前に現れないで」
新八「しばらく、休暇もらいます」
そう言い残すとさっさと帰る二人。
銀時「なんでこんな惨めな気分?ん・・・?」
ヨロヨロ立ち上がろうとする銀時の腕にそっと触れる温もりに目を向けてみれば、銀時が立とうとするのを支えるの姿が目に入る。
銀時「・・・。、お前も呆れてんだろ・・・?神楽と新八と一緒に行かなくていいの?」
自分でもわかってんだ、親しそうに男と話すの姿を見てなぜかイライラとしていた自分。お妙を賭けての決闘なんてどうでも良くて、イライラを男にただぶつけただけだって事は・・・。けど、だからと言ってイライラしたまんま命の取り合いなんざする気は最初から無かった。例え罵られ様とも自分があの短い時間で考え付いたのは・・・。
「やり方はおいて置いて、お疲れ様でした銀さん」
笑顔で労いの言葉を言う。
「神楽ちゃんも新八君も、あんな事言ってたけれどちゃんと分かってます。銀さんが誰も悲しまず、誰も傷つかず(あの人は少し可哀想ですけど・・・)とった行動だって」
銀時「・・・」
の言葉に黙り込む銀時。たった一人、自分の事を分かってくれている人が居る、たったそれだけの事がなぜか無性に嬉しくて・・・。心が温かくなる。
「今日は銀さんの大好きな物作ってあげますね」
不器用な彼なりに、今日は頑張ったと思う。だからそんな彼にせめて自分が出来る事と言えばこれくらいだ。
銀時「マジデか!!」
「はい」
嬉しそうな銀時の表情を見れば、何だかこっちまで嬉しくなるのが不思議だ。何を作ろうかと、が頭の中でレシピを考え始めた時おもむろに銀時が言葉を紡いだ。
銀時「あ、そういえば銀さんちゃんに聞きたい事あんだけど」
「何ですか?」
銀時「あの男と何処で知り合ったの?」
「っ・・・」
銀時の言葉に答えが詰まる。
銀時「お妙がさァ、あいつとはすいまいるで出会ったって言ってたんだよねェ〜。って事はアイツ客だろ?ちゃんとの接点がわかんないんだわ」
「そ、それは・・・」
普段の銀時なら、一々人の人間関係など気にも留めないはずなのだが自分の知らない所でが男と話していると考えただけでイライラは募るばかりだ。困った顔で必死に何か言葉を返そうとする。けれど良い言い訳など見つかるはずも無く・・・。銀時も追求を止める気配は無い様で、仕方なく男と知り合った経緯を話す事にした。勿論、万事屋の生活費が底をつきそう等とは言わずお妙の手伝いだと話した。
銀時「ふ〜ん」
どうやら納得してくれた様子の銀時にホッとする。銀時が立ち上がるのを手伝い、銀時の腕を自分の肩に回し歩き出す。はたから見れば、恋人同士が肩を組んで歩いてる様に見えなくは無いけれどボロボロの銀時の格好が違うと物語っている。長身の銀時と肩を並べるのはにとって少し辛い体勢ではあったけれど、銀時の大仕事?を思えば我慢出来た。
仕事をほっぽり出して、どこかで昼寝でもしているだろう総悟を探して街を見回りしていた土方。今日はやけに橋の上に人だかりが出来ていた。橋の下を見ている男二人組みに声をかける。
土方「オイオイ、何の騒ぎだ?」
男「エエ、女取り合って決闘らしいでさァ」
土方「女だァ?」
取り合う程の良い女なのかと土方が呆れた時、ふとこないだ出会った万事屋の女侍の姿が脳裏に過ぎった。印象深い紫色の瞳が未だに頭から離れなかった。
土方「くだらねェ、どこのバカが・・・」
慌てて頭の中の彼女を消し去り、橋の下を見ると----
土方「あ」
特徴的な黒い逆立った髪、大柄な身体。可哀想な事に銀時に殴り飛ばされた時に乱れてしまった着物からはふんどしが丸見えである。
土方「近藤局長・・・」
自分の腕を支えてくれる細いの腕の感触と彼女から香るどこかで嗅いだ様な華の香りに高鳴る心臓。イライラしていた気持ちが嘘みたいに消えてゆく。彼女はお妙の手伝いだと言っていたが、俺が追求した時に見せた慌てぶりを見れば何か隠している様に見える。だから今回は知らない振りをしてやる事にした。まぁ何となく想像はつくんだけどな・・・。仕事の無い万事屋に転がり込んで来た胃拡張娘の食費を考えればすぐに分かる。金と言う物は湯水の様に溢れて出て来るものでは勿論無い。の好意に甘えて今までを過ごして来てしまったけれど・・・。
銀時「ありがとうな・・・」
「?銀さん今何か言いましたか?」
銀時「何でもねェーよ」
「?」
ドキドキする心臓の音は彼女に伝わりません様に、感謝の気持ちは照れくさいけど届けば良いなと思う。明日からは、ほんの少しだけ頑張ろうと思った銀時であった。
君から香る華の香り、今は想い出せぬ遠い記憶