その一 隠し事
見えない、君の心----
ネオンが瞬く歌舞伎町のスナック【すまいる】。ココこそが、新八の姉お妙が働いている場所だ。そこになぜかの姿も・・・。実を言うと、万事屋の経営難のせいで旅で貯めていた貯金が少なくなってきたからだ。何か良いバイトは無いかと探していた時、偶然街で出会ったお妙に紹介してもらったすまいるの仕事。万事屋で働いてる為、日雇いと言う事で時々手伝う条件だったのだがの美しい容姿、人当たりの良い話し方、気が利く性格を店の店長に気に入られてしまい毎日でも出て欲しいと頼まれ、断るのに一苦労してしまった。お妙がいなければ押し切られていたかもしれない。勿論、万事屋の皆にはこの事は内緒にした。心配させるよりも、あの人達には何時もの様に変わらず過ごして欲しいから。それに銀時が知ったら決して許さないだろう----
???「どーせ俺なんてケツ毛ボーボーだしさァ、女にモテるわけないんだよ」
お妙「そんなことないですよ、男らしくて素敵じゃありませんか」
「そうですね、見た目何て気にしません。心が強い男性が私は素敵だと思います」
項垂れる様に話す男にを中央に、両脇にとお妙が座る。何があったかなんて分からないけれど、男の気の落ちようは可哀想なくらいだ。
???「じゃあ聞くけどさァ、もしさんとお妙さんの彼氏がさァ、ケツ毛だるまだったらどーするよ?」
お妙「ケツ毛ごと愛します」
「好きになるのにそんな些細な事は関係ありませんよ。私もきっとお妙さんの様に、その人の全てを愛しますね」
人を好きになる事、愛する事、正直私にはまだ分からない。幼い頃大好きな人は居た、けれどそれは家族としてだ。新八や神楽へと感じる思いに似ている。けれど銀時は・・・?家族の好きとは違う、銀時を想うと安心感と、寂しさと・・・。そして胸が切なく疼くのだ。こんな感情初めてで、何て言う名前なのかも分からない----
男「・・・」
今まで、こんな事言ってくれる女性なんて居なかった。それも2人もだ。歳は大分下だろうか、けれど何処か落ち着いていてそんな気配を微塵も感じさせないお妙。紺色の着物にスミレの絵柄がとても似合っている。反対側に座るには最初驚いた。お妙も相当の美人だが、の場合は浮世離れした美しさだ。けれど決してそれを自慢する訳ではなく、穏やかで優しい微笑みに惹きつけられずには居られない。薄紫色の着物に彼女の紫の瞳がとても似合っていて、なお彼女の美しさを引き立ててる。凛とした雰囲気は、どこか武芸を嗜んでる様に感じた。
菩薩・・・。全ての不浄を包み込むまるで菩薩だ----
新八「何ィィィ!!結婚申し込まれたって!?」
場所は変わってココは新八の実家である恒道館。新八の叫び声が辺りに響き渡った。
新八「マジでございますか、姉上!!」
お妙「マジですよ」
信じられない姉の言葉に、新八の顔は驚きに満ちている。しかしお妙の表情は何時もと変わらない、落ち着きを払った微笑だ。
お妙「お店のお客さんに、昨日突然ね」
新八「で・・・何て?」
お妙「フフ・・・勿論丁重にお断りしたけど、びっくりしたわ〜。初めて会ったのにあんなにしつこく迫ってくるなんて。あんまりしつこいから鼻にストレートキメて逃げてきたの」
言葉は至って穏やかなのだが、話す内容はハタから見れば恐ろしい。新八は流れる冷たい汗を止められない。
新八「そ・・・そーですか。・・・どんな人か僕も見たか----」
この姉に求愛するなんて一体どんな男なのだろうか?確かに綺麗で気が利くお妙は、姉として自慢出来る存在だ。しかし、何分この穏やかな笑顔の下に隠された凶悪な一面を新八は嫌と言うほど知っている。同じ、綺麗で気が利いて温厚なを思うと本当に同じ女性なのだろうかと時々新八は思わずにはいられないのだ・・・。そんな事を考えながら、茶の間から見える外の景色へと視線を逸らせば----
男「お妙さァァァん!!結婚してくれェェェ!!」
茶の間から見える路上に立つ一本の電柱に、男がよじ登ってお妙めがけて叫んでいる。鼻の頭にはバンソコウが貼られている・・・。そう言えばお妙がしつこさのあまり男に鼻にストレートを決めてきたと言っていたっけ・・・。あっけに取られる新八をよそに、男はなおも言葉を続ける。
男「一度や二度フラれたくらいじゃ、俺は倒れんよ!!女はさァァ、愛するより愛される方が幸せなんだよ!!って母ちゃんが言ってた」
役人「こらァァァ、何やってたんだ近所迷惑だ、降りてこいコノヤロー!!」
騒ぎを聞きつけて電柱の下には、何事かと集まる人々。不振人物だと思われても仕方ないであろう男に役人が声をかける。
男「お巡りさん、落ち着けェェ!!俺は泥棒は泥棒でも、恋泥棒さ!!」
役人「何、満ち足りた顔してんだ!!全然うまくねーんだよ!!降りて来い!!」
男「お妙さァァん!!顔だけでも出してくれないかな〜!!」
役人の言葉なんて聞いては居ない。近所迷惑なんて考えても居ない男はなおも大声で叫ぶ。そんな男に、さっきまで穏やかだったお妙の表情がいっぺんし、男の要求どおり電柱によじ登る男の目の前に立つお妙。お妙の手には----
男「お妙さん!!」
漸く見せてくれたお妙の姿に、喜びを見せる男。しかしそれもつかの間、物凄いスピードで男の顔に向けて投げられた「何か」によって電柱から落ちる男。お妙が投げつけたのは、何と灰皿である。喫煙者の居ないこの家になぜ灰皿が置いてあるのかは謎だが見事灰皿に当たった男が気を失ったのは言うまでも無い。
銀時「よかったじゃねーか、嫁の貰い手があってよォ」
「・・・」
ココは中国風なファミレス。銀時は大好きなパフェを、神楽は大きなどんぶりのラーメンをすすっている。お妙と新八はお茶を、は水を各自並べていた。と言うのも、先程起きた事件について万事屋に手を借りようと新八が提案したせいだ。
銀時「帯刀してたってこたァ、幕臣かなんかか?玉の輿じゃねーか、本性がバレないうちに籍いれとけ、籍!」
お妙「それ、どーゆー意味」
パリンとガラスが砕ける音がする。失礼な事を言う銀時に対して、お妙が銀時の頭を机に倒し、目の前にあったパフェに見事にぶち当たる音だ。
お妙「最初はね、そのうち諦めるだろうと思ってたいして気にしてなかったんだけど」
「・・・」
お妙の深刻な顔に黙り込み続ける。お妙には少なからずは好感を持っている。バイトの事でも世話になっているしお妙の為に何かしてあげたいとは思うのだが・・・。
お妙「・・・気が付いたら、何処に行ってもあの男の姿がある事に気づいて。ああ、異常だって」
「!?」
お妙の言葉に驚きを隠せない。
「お、お妙さ---」
店員「ハイ、あと30秒」
が話そうとしたその時、店員の声がそれをかき消してしまう。の様子に誰も気づかない・・・。
銀時「ハイハイ、ラストスパート。噛まないで飲み込め神楽。頼むぞ、金持ってきてねーんだから。にも余計な出費出させたくねーから」
新八「きーてんのアンタら!!」
どうやら神楽が食べている大きなラーメンは、この店で言う特製メニューで3分以内に食べきれれば食事代が無料になると言うもの。
銀時「んだよ、俺にどーしろっての。仕事の依頼なら出すもん出してもらわにゃ」
新八「銀さん、僕もう二ヶ月も給料貰ってないんスけど。出るとこ出てもいいんですよ」
銀時「ストーカーめェェ!!どこだァァァ!!成敗してくれるわっ!!」
家計の苦しい新八の家。しかし万事屋はそれに負けないくらい苦しい状況だ。銀時の甘味の摂取量の半端なさに加えて、ブラックホールの胃を持つ神楽の存在。二人ともに対して気を使っているモノの、やはり苦しいのは変わらない。だからこそ、内緒でがバイトをしているのであるが・・・。
???「なんだァァァ!!やれるものならやってみろ!!」
銀時の言葉に返す様に聞こえた男の声に、全員が振り向けばテーブルの下から這い出てくる男。
「っ!?」
新八「ホントに居たよ」
銀時「ストーカーと呼ばれて出てくるとは、バカな野郎だ。己がストーカーである事を認めたか?」
男「人は皆、愛を求める追い続けるストーカーよ」
言っている事はカッコイイが、やっている事がそれを全て台無しにしている。
男「時に貴様、先程よりお妙さんと・・・さんと親しげに話しているが一体どーゆー関係だ。うらやましい事山の如しだ」
銀時「何でそこでの名前が出てくんだ・・・?」
新八「さん、この人と知り合いなんですか?」
「えっ!?あ、はい・・・」
男と会ったのは【すまいる】でだ。その事を話せばバイトの事が銀時に知られてしまう。どう説明しようかと悩んでいると男がに近寄る。
男「いやぁ、さん今日もお美しいですね」
に笑顔を向ける男。その表情を見ていると決して悪い人間には見えない・・・。むしろ好感が持てるのだが・・・
銀時「・・・ん?今日も?」
お妙の話を聞いている時がずっと黙っていた理由・・・。それは何を隠そうこの男の事だ。お妙の様に求婚されている訳ではないのだが、すまいるで男と出会ってから何かと男に会う機会が増えたのだ。まるで偶然を装うかの様に。話は簡単だ、男にとってお妙と同様に菩薩の様に見えた。最初は店以外の彼女を知りたくてお妙と同様ストーカー?行為をしていたのだが、ふとみせる笑顔や優しさを知って惹かれていった。けれどお妙に対しての様に好意を直接伝えるのがなぜか出来なかった。
銀時「ちゃ〜ん・・・?俺に何か隠してる?」
「っ・・・」
お妙「そ、そう言えば私と銀さんの関係について聞きたかったのよね!?彼とはその・・・許婚ですぅ」
銀時・・男「!?」
何かを隠しているに対して、銀時が近寄ろうとした時、見かねたお妙が助け舟をよこしてくれた。がなぜ、頑なにバイトの理由を隠すのか分からなかったが大体の予想はつく。万事屋のメンバーに心配かけない為だろうと思う。
お妙「私、この人と春に結婚するの」
銀時「・・・そーなの?」
不自然にならない様に、銀時に腕を絡めるお妙。
お妙「もう、あんな事もこんな事もしちゃってるんです。だから私の事は諦めて」
男「あ・・・あんな事もこんな事も、そんな事もだとォォォ!!」
新八「いや、そんな事はしてないですよ」
お妙の機転のお陰で銀時からの追求を何とか逃れただったが・・・。なぜだろう、銀時と腕を絡めるお妙を見ていると騒ぐこの胸の痛み。今まで感じた事の無いそれは、剣で身体を傷つけるより痛い。
男「いやっ!!いいんだお妙さん!!君がどんな人生を歩んでいようと、俺はありのままの君を受け止めるよ。君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように」
お妙「愛してねーよ」
勘違いを続ける男にお妙の声は届いていない。
男「オイ、白髪パーマ!!お前がお妙さんの許婚だろうとさんと知り合いだろうと関係ない!!お前なんかより俺のほうがずっとお妙さん(とさん)を愛してる!!決闘しろ!!お妙さん(とさん)をかけて!!」
銀時「なーんか言葉の端々にの名前が出てる気がすんのは気のせーか?気にいらねーな・・・」
どうやらこの男と知り合いの。理由を問いただそうとした所で、お妙にうまく邪魔されてしまった。男の口調から、会ったのは一度や二度ではないだろう。自分の知らない所でこの男と話しているを想像するとなぜかイライラする。そして俺になにか隠し事をしている彼女・・・。
君の見えない心に、苛立つ気持ちと心をさらしてくれない寂しさ。どうして俺はこんなにも君に心を奪われるのだろう----
二人の心、それぞれの想い