貴方の為に出来る事、君の為に出来る事 



その三 家族の絆

私が見つけた、この居場所----






男「----そうか、おめぇがお通のマネージャーやってたなんてな。親子二人でここまでのし上がったわけか、たいしたもんだ」


女性「アナタに言われても何も嬉しくないわ。今さら良く平然と顔を出せたわね」


あのあと会場を抜け出し、会場のロビーへと場所を移した2人。ライブの喧騒が嘘の様に静かだった。


女性「それにアナタ、まだ服役中じゃなかったの。何でこんな所にいるのよ」


男「・・・」


タバコを取り出し吸い始める女性。どこか拒絶を含む言葉に何も言えず黙る男。


女性「あきれた・・・十三年前から何も成長してないのね。アナタが好き勝手生きるのは結構だけど、私達親子のようにその影で泣きを見る者が居るのを考えたことがある?」


女性の目が男を射抜くようにきつく見つめる。男はただ黙るばかりだ。


女性「消えてちょうだい、そして二度と私達の前に現れないで。あの娘に嫌なこと思い出させないでちょうだい。父親が人殺しなんて」


そう言い残すと、女性は再びライブ会場に歩いて行った。その時、男の両脇に座る人物二人----


「お父さんだったんですね・・・。お通さんの」


銀時
「ガム食べる?」


そう言って風船ガムを男に差し出す銀時。銀時なりの優しさなのだろうと思う。


男「んな、ガキみてーなもん食えるか」


銀時「人生を楽しく生きるコツは、童心を忘れねー事だよ」


「ふふふっ、私もそう思います」


子供の頃、どんなに早く大人になりたいと願っただろうか?あの頃は少しでも早く大人になって大好きな人の役に立ちたかった。けれど、いざ大人になってみると子供の頃描いていた未来の自分なんて何処にも居なくて・・・。大人というしがらみに、子供の頃に想像した夢なんて脆くも砕けた。毎日、忙しなく働いて1日が終わる、そんな毎日の繰り返しだ。けれど坂田 銀時と言う男の居る万事屋は、そんな毎日が懐かしく思える様なバタバタとして、だけどそれは嫌な忙しなさでは無くて、何時も笑顔が絶えない様な不思議な場所なのだから----


銀時「まぁ、娘の晴れ舞台見るために脱獄なんざガキみてーなバカじゃないとできねーか?」


「・・・そんなんじゃねェ、バカヤロー。昔、約束しちまったんだよ----」




決して裕福とはいえない家屋の庭で、お世辞にも旨いとは言えない子供の歌声が響いていた。


  男「
ワハハハハ、やっぱりお前も俺の娘だな。

                        音痴にも程があるぞ」


  お通
「フン、今に見てな。練習して旨くなって

        いつか絶対歌手になってやる!」


 男「お前が歌手になれるなら

               キリギリスでも歌手になれるわ」


  お通
「うるさいわボケ!なるっつったら、なるっ

                   て言ってんだろ」



  男「面白ぇじゃねーか、もしお前が歌手になれたらよォ


        百万本のバラ持っていの一番に見に行ってやるよ」


  お通
「絶対だな」


  男
「あぁ、約束だ」


懐かしむ様に、男は遠くを見つめて独り言の様に銀時とに聞かせた男。脱獄してまでココに来た理由が漸く分かった。お通は努力して自分の夢を叶えたのだ。その晴れ舞台に父親が来たくないと思うはずが無い。親子とは、誰よりも、何よりも【絆】が深いはずだから・・・。


銀時・「・・・」


男「覚えてるわけねーよな、十三年も前の話だ。いや、覚えてても思い出したくねーわな。人を殺めちまったヤクザな親父のことなんかよォ。俺のおかげでアイツがどれだけ苦労したかしれねーんだから、顔も見たくねーはずだ」


「そんな事ないですよ」


男「ん・・・?」


「例え、貴方が犯罪を犯してしまって辛い思いをお通さんがしたとしてもお通さんがここまで頑張れたのは、その約束のせいなのでは無いですか・・・?必死にお父さんの為にココまで頑張ってきたのではないでしょうか・・・?」


男「ははは・・・。ありがとうよお嬢さん。そう言ってくれるだけで十分だ・・・。・・・帰るわ、バラ買ってくんのも忘れちまったし・・・。迷惑かけたな」


どうすれば伝わるだろう、子供にとって親と言う存在がどれ程大きなものなのかという事を。どんなにけなされても、どんなに冷たくされても、子供は親の背中を追うしか無いのだから。何時かこの背中の様に、大きな大人になりたいと願うのだと。それを旨く言葉にする術をは残念ながら持ち合わせていない。けれど銀時なら・・・そう思い銀時を見つめるとロビーの通路から神楽がこちらに走ってくるのが見えた。


神楽
「銀ちゃーん!!!!」


銀時「どした?」


神楽
「会場が大変アル。お客さんの一人が暴れだして、ポドン発射」


「ポドン・・・?」


銀時
「普通にしゃべれ、訳わかんねーよ」


お通の影響か、理解不可能な例えを話す神楽。そんな神楽の頬を片手で挟みこみながら、苛立ちげに話す銀時。


神楽「いや、あの会場にですね天人がいたらしくて。これがまた厄介な事に食恋族(しょくれんぞく)・・・。興奮すると好きな相手を捕食するという変態天人なんです」


「っ・・・・!?銀さん!!」


銀時「あぁ・・・。、悪ィけど先行っててくれや。銀さんもすぐ追いつくから」


「はい、お待ちしてます」


銀時が何を考えてるのかはには分からない。けれど彼と合った瞳が自分を信頼してくれてるのは良く分かる。言葉にこそしないけれど、俺が行くまでお前に任せたと言われてる様で嬉しかった。だから何の疑問も持たず、笑顔でそう答えると神楽と共に会場に走り出した----




食恋族
「お通ちゃ〜ん、僕と一つになろう胃袋で」


親衛隊
「隊長ォォォ!!会員ナンバー49が暴走しました!!」


新八
「アレも会員だったのか・・・。マスコット人形かと思ってた。イカン、お通ちゃんが!!」


既に食恋族の暴走のせいで会場に残るのは、新八が率いてる親衛隊とお通と女性。大きな体の食恋族の着ている黒い半被のお腹からは、大きな口が今にもお通を飲み込もうと大きく口を開けていた。


女性
「早く逃げるわよ、お通!!」


お通「いや・・・腰がぬけちゃって・・・どーしよ」


ステージに座り込むお通の手を引き、必死に逃げようとする女性。けれど女の腕ではお通を抱えて走るわけにもいかず・・・。食恋族が座り込むお通に手を伸ばした----


食恋族
「お通ちゃ〜ん!!」


お通「!!」


その手がお通に触れ様としたその刹那、お通をかばう様に自分の後ろに突き飛ばす人物が現れた。


新八
「だっ・・・誰だアレェェェェ!?」


???
「お通ううう!!早く逃げろォォ!!」


そう叫んだ人物は、ビニールを被って顔を隠した不可思議な格好をしていた。ちゃっかり目の部分は切り抜いて前が見えるようにしてある。しかし、大きな食恋族にかなうはずも無く吹き飛ばされる男。


お通「!!」


新八
「いけェェ、僕らもお通ちゃんを護れェ!!」


新八と親衛隊が食恋族に向かおうとしたその時----


「何とか間に合いましたね」


新八
さん!!」


倒れた男に歩み寄ろうとしていた食恋族の前に、男を庇う様に立ちはだかる。食恋族はその見た目から、力がすごい。しかし、非力なはそれを見切った様に素早く避ける。新八や親衛隊も必死に応戦する。


お通
「しっかり、しっかりして下さい!!」


倒れた男の肩を揺さぶるお通。食恋族の大きな手に吹っ飛ばされた男が、その声に目を覚ます。


お通「あ・・・気が付いた」


女性「無茶するねェ、アンタ。こんなバカな真似して・・・何者だい?」


???
「・・・ただのファンさ、あんたの」


「くっ・・・」


そんなやり取りをお通と男がしてる頃、食恋族の無尽蔵の様な疲れを知らない体力に、が疲れを見せ始め食恋族の大きな手を刀で受け止めた。気を抜けば吹き飛ばされそうだ・・・。しかし、その時----


???「良く頑張った、


「銀さん!」


に気を取られていた食尽族に痛恨の一撃を見舞い、見事気絶させる銀時。は勿論の事、新八や親衛隊もホッと息を吐く。


神楽「、大丈夫アル?怪我してないアルか?」


新八「さん大丈夫ですか?」


「ふふふ、有難う神楽ちゃん、新八君。私は平気です」


少し疲れの見えるに駆け寄り心配そうに見つめる神楽と新八に、安心させる様に微笑む。銀時は少し離れた場所から同じ様に見つめて来たから、私は大丈夫ですと視線を返して言った。


銀時
「おっさん」


そう言って何かを男に投げつける銀時。それをうまくキャッチする男。それは何処にでも咲いてる雑草と言っても良い様な花だったけれど、ちゃんと包装がしてあった小さな花束。


銀時「そんなもんしか、見つからなかった。百万本には及ばねーが、後は愛情でごまかして」


そう言うと会場を後にする銀時。そんな銀時に微笑みながら後を追う。新八も神楽もそれに続く。


バカやろう・・・。あんな約束・・・覚えてるわけねーだろうが


そう思いつつも銀時に感謝して、お通にそれを差し出す男。ビニールを被った男こそ、お通の父親である。


お通「?」


疑問に思いながらも、男の差し出す花束を受け取るお通。


だが、この際覚えてよーが忘れてよーが関係ねーや。俺は俺の約束を護ろう。


そう心の中で決意した男は、お通を背に去ろうとする。


お通・・・しっかりやれよ----


言葉にすることは出来ない。だから心の中で必死に願った。例えヤクザな親父でも、お通は可愛い自分の大事な【娘】だから----


お通「あの」


お通の一言に、去ろうと足を進め会場の扉を開いた男の足が止まる。


お通「・・・今度はちゃんとバラ持ってきてよね。私それまで舞台でずっと待ってるからさ、お父ちゃん!」


会場の扉が閉まる音がする。それを待っていたかのように声をかける銀時。


銀時「よォ、涙のお別れはすんだか?」


男「バカヤロー、お別れなんかじゃねェ。また必ず会いに来るさ。・・・今度は胸張ってな」


憎まれ口を叩くも涙を滝の様に流す男。どんなに姿を偽ろうと、子供は親が分かるのだ。それは例え離れていても、とても強い絆があるから-----




「銀さん、花束作っていたんですね」


銀時「まぁなー」


神楽「銀ちゃん、偶には粋なことするアル」


新八「銀さんにも気を使うことあるんですね」


銀時「おィおィ、【偶には】は余計だろーが!!新八、俺ァ何時も禿げる位気ィつかってんだっつーの!!だからこんな頭に----」


「ふふふ」


既に日が沈み薄闇が辺りを包み込む頃、万事屋へと帰る為歩く4人。皆、疲れているだろうに相変わらずだ。


銀時「そういえばよ・・・。あんま無理すんなよ」


「えっ・・・?」


銀時「銀さん、確かにお前に先に行く様に頼んだけどよォ。お前ェが怪我すんの見たくねーからさ。だから一人で何とかしようとするな、お前ェは一人じゃねーんだからよ」


僅かに前を歩く銀時の表情はには見る事は出来ない。けれど新八も神楽も頷くようにに笑いかける。そんな銀時や2人の気持ちが嬉しくて・・・。


「はいっ・・・」


ほんの少しだけ、嬉しさで浮かんだ涙を拭いながら笑顔で返事を返す。護っていこうと思う、銀時も、新八も、神楽も。この温かさを自分にくれる【大切な場所】を----




長い旅路の果てに、辿り着いた江戸で出逢った【万事屋】と言う場所。孤独を癒す様に温かなこの場所は、とっては掛け替えの無い居場所となった。沈み始めた夕日に照らされた4人の影は、まるで手を繋いでる様に見えた・・・。




護りたい、温かなこの場所を