その一 謎の僧侶
ドキドキと、高鳴る心臓の理由----
銀時「俺が以前から買いだめていた、大量のチョコが姿を消した。食べた奴は正直に手ェ挙げろ。今なら4分の3殺しで許してやる」
お登勢のスナックの事件から数日、神楽も万事屋に馴染んで(最初から馴染んでいた気もする)昼時も過ぎた頃、銀時が物騒な事を言い出したのが切っ掛けだった。
「チョコですか・・・?うーん、私は心当たりが無いですね・・・」
銀時「は甘い物別に好きじゃねーだろ?それにお前ェが勝手に人のモンに手ェ出す奴じゃ無いくらい知ってるさ」
新八「4分の3って殆ど死んでんじゃないスか。って言うかアンタ、好い加減にしないとホント糖尿になりますよ」
「銀さん、甘い物大好きですものね・・・。私も、もう少しお料理の勉強して甘さ控えめのデザート研究しておきますね」
銀時の甘いものに対する情熱は強い事は知っていたけれど、流石に少し心配をしていた。でも、嬉しそうに食べる銀時を見ていると強くも言えなくて・・・。
新八「さん、あんまりこの人甘やかさないほうが良いですよ」
銀時「新八ィ、オメーはもう少し年長者を労わるって事を勉強しろ!!を見習え!を!」
新八「じゃあ、僕らに年長者らしい尊敬できる姿見せて下さいよ・・・」
神楽「またも狙われた大使館。連続爆破テロ、凶行続く・・・。物騒な世の中アルな〜。私怖いヨ、パピー、マミー、〜」
銀時と新八が言い争う中、珍しく静かだった神楽が自分はチョコの事なんて知りませんよと言う様に、最近世の中を騒がしている一面を声を出して読む。言っている事はもっともなのだが、新聞を読む彼女はなぜか鼻血を大量に流している。
「か、神楽ちゃん!?」
は慌ててティッシュを持ち、神楽の隣に座り血を拭う。
銀時「怖いのはオメーだよ、幸せそうに鼻血だしやがって。うまかったか、俺のチョコは」
その姿に全てを察した銀時は、と神楽を挟む様に座り神楽の顔を無造作に掴む。
神楽「チョコ食べて鼻血なんて、そんなベタな〜」
銀時「とぼけんなァァ!!鼻血から糖分の匂いがプンプンすんぞ!!」
神楽「バカ言うな、ちょっと鼻クソ深追いしただけヨ」
銀時「年頃の娘がそんなに深追いするわけねーだろ。定年間際の刑事(デカ)かお前は!!」
「お、落ち着いて下さい!!銀さん!!」
今にも神楽に殴りかかりそうな銀時に、慌てて着物の裾を掴んで止めるだが食べ物の恨みは怖いのだ。の非力な力では銀時を止められない。
新八「例えがわかんねーよ!!って言うかさんの言う通り落ち着け!!」
新八が一緒に止めてくれたお陰で何とか、殴りかかりそうな銀時は止められたが突然外から大きな何かがぶつかる音が響いた。
銀時「なんだなんだ、オイ」
窓際へ向かって音の原因を探してみれば、どうやら1階にあるお登勢の店にバイクが突っ込んだ音のようだ。
銀時「事故か・・・」
「た、大変!!あの人怪我してるかもしれません!!」
倒れたバイクの近くに、同じ様に倒れている男。は慌てて薬箱を持って男の下へ急ぐ。3人も同じ様に続く。
お登勢「くらああああ!!」
4人が降りてくるなり、お登勢が外に飛び出して来て大声で怒鳴る。その形相はまさに【鬼】である。
お登勢「ワレェェェェ!!人の店に何してくれとんじゃアア!!死ぬ覚悟はできてんだろーな!!」
「お、お登勢さん!!お、落ち着いて下さい!!」
お登勢の恐ろしい形相のせいで、倒れてた男は気を失う事も忘れて怯えている。
男「ス・・・スイマセン。昨日からあんまり寝てなかったもんで」
お登勢「よっしゃ!!今、永遠に眠らしたらァァ!!」
新八「お登勢さん、怪我人相手にそんな!!」
と新八の必死の宥めのお陰で取り合えず、この場所を殺人現場にする事は避けられた。怪我をした男はぐったりと横たわったままだ。
「いけない・・・結構怪我が酷いです・・・」
新八「確かに・・・こりゃひどいや。神楽ちゃん救急車呼んで」
と新八が倒れている男の傍に寄り、怪我の状態を確かめる。
神楽「救急車ャャァアア!!」
銀時「誰がそんな原始的な呼び方しろっつったよ」
神楽の【やる気】はともかくとして、救急車は周りに居た人が携帯で呼んでくれる事になった。そんな時、銀時は男の周りに大量にばら撒かれている紙の束を一つ拾う。
銀時「飛脚かアンタ、届け物エライ事になってんぞ」
バイクで突っ込んだ時に、男が運んでいた荷物が散らばったのだろう。手紙は勿論、小さい小包も散らばっている。
男「こ・・・これ・・・。これを・・・俺の代わりに届けてください・・・お願い」
怪我のせいか、男の声は弱弱しい。
「あんまり喋っちゃ駄目ですよ!!怪我に障ります」
男「あ・・・有難うお嬢さん。だけどなんか大事な届け物らしくて、届け損なったら俺・・・クビになっちゃうかも。お願いしまっ・・・」
言い終わる前に気を失う男。その時ようやくやって来た救急車に男が運ばれる。男から受け取った小包を見ながら顔を見合わせる銀時達。
「銀さん・・・あの、私・・・」
銀時「あ〜・・・言うな。言いたい事は銀さんも分かっから」
優しい彼女の事だ、頼まれれば断る様な事はしないだろう。面倒だと思いながらも一人に行かせる訳にもいかず溜息をつく銀時。また厄介な事になりそうだと嫌な予感が頭を過ぎた。
銀時「ここであってんだよな」
神楽「うん」
「ここは・・・」
新八「大使館・・・これは戌威星(いぬいせい)の大使館ですよ」
小包に書いてある住所を辿って来てみたら、どうやら目的地に着いたらしい。洋風のいかにも高そうな外観が目立つ。
新八「戌威族って言ったら、地球に最初に来た天人ですよね」
「そうなんですか?」
銀時「ああ、江戸城に大砲ブチ込んで無理矢理開国しちまったおっかねー奴らだよ。嫌なトコ来ちゃったなオイ」
地球に天人が割拠する様になった切っ掛けを作ったらしい戌威族。と【あの人】が出会う切っ掛けとなった大きな戦争。天人の襲来を良しとしない【攘夷派】と地球を開国しようとする天人の戦いは十数年にも及んだと聞く。まだ年若い新八や神楽は知らないかもしれないけど、も銀時もその戦争を経験している。後に【攘夷戦争】と呼ばれるこの戦いは、一見攘夷派と天人だけの戦いの様に感じるがそんな事は無い。今でこそ大分治安が良くなったが、当時天人達は無差別に人々を襲撃した。それにより小さな村々がいくつ無くなったか分からない。戦争とはそうなのだ、戦う本人達のみならず周りの戦争を望まない人々もおのずと巻き込まれていく。沢山の人が死に沢山の天人が死んだ。昔を思い出し、知らずに手を握り締めてしまった。あの悲しい時代を忘れる事なんて出来るはずが無かった・・・。
???「オイ」
色々考えていて近づいて来た声の主に気づかなかった。声の主に振り返る万事屋のメンバー。
???「こんな所でなにやってんだ、てめーら。食われてーのか、ああ?」
戌威族と言うからにはやはり犬の顔をしてるのかなっとは思っていたけれど、そんなに可愛らしい外見では無かった。犬と言うよりはオオカミに近い顔。口からは見るからに鋭い牙が除いている。警備をしていたのか、手には棒(警察署の入り口に立っている人が持っている様な身長ぐらい長い棒)を持って銀時達を威嚇して来た。
「あ、怪しい者じゃないんです・・・!」
新八「そ、そうです。僕ら届け物頼まれただけで」
今に本当にとって食べられそうな雰囲気に、慌てると新八。
銀時「オラ、神楽早く渡・・・」
神楽「チッチッチッ、おいでワンちゃん。酢昆布あげるヨ」
場の空気を読まない神楽に銀時の鋭い平手が頭に飛ぶ。その速さにが注意する暇すらなかった。
戌威族「届け物くるなんて話きいてねーな。最近はただでさえ爆弾テロ警戒して、厳戒態勢なんだ。帰れ」
銀時「ドッグフードかもしんねーぞ、もらっとけって」
戌威族「そんなもん食うか」
神楽に対する平手は何だったのかと思えるような、銀時の台詞。小包を神楽から受け取り、戌威族に渡すが小包をいらないと払った。軽い小包は宙を舞い大使館の中へと舞い落ちる。
銀時「あ」
その途端、激しい爆発音と共に辺りが吹き飛んだ。戌威族は勿論万事屋メンバーも唖然とする。
銀時「・・・なんかよくわかんねーけど、するべき事は良くわかるよ」
銀時は唖然としているの手を引っ張り来た道を走り出す。
銀時「逃げろォォ!!」
しかし、世の中そう旨くはいかないもんだ。逸早く正気に戻った戌威族が一番最後に走り出す新八の手を掴んだ。
戌威族「待てェェ、テロリストォォ!!」
新八「!!」
新八は慌てて前を走るの手を握る。の前を走っていた銀時も前を走る神楽の手を掴む。
銀時「新八ィィィ!!てめっ、の手握りやがってどーゆーつもりだ、離しやがれっ」
新八「さんごめんなさい!!でも嫌だ!!一人で捕まるのは!!」
銀時「俺たちの事は構わず行け・・・とか言えねーのかお前」
「ぎ、銀さん手離して下さい!き、きっと事情を話せば・・・」
銀時「バカヤロー!お前ェだけ残せるか!!」
神楽「、私と逃げるネ。私に構わず逝って二人(銀時と新八)とも」
銀時「はともかく、ふざけんな。お前も道連れだ」
ミシッミシッと引っ張り合う腕と手が音を立てる。そんなやり取りの中状況は悪くなる一方だ・・・。
新八「ぬわぁぁぁ!!ワン公一杯来たァァ!!」
新八が後ろを振り向くと、大使館の中から大量の戌威族達。銀時達が取り囲まれ様としたその時----
???「手間のかかる奴だ」
そんな声を聞いたと思えば僧の格好をしていた男が、銀時達を取り囲もうとした戌威族達の頭上を飛び越えたと思えば銀時達の近くに降り立つ。
???「逃げるぞ銀時」
「貴方は・・・」
そう言えば、大使館に辿り付いた時に入り口に座り込んでいる僧が居た。大きめの笠を被っていたので顔は分からなかったけど、大使館の前に居るなんて珍しいなと思っていた。
銀時「おまっ・・・ズラ小太郎か!?」
銀時達に笠をとって顔を見せれば、どうやら知り合いの様だ。
桂「ズラじゃない、桂だァァ!!」
再会の余韻もどこやら、ズラ呼ばわりした銀時に強烈なアッパーを食らわせる桂。
銀時「ぶふォ!!」
・新八・神楽「・・・」
2人のやり取りに唖然とする3人。
銀時「てっ・・・てめっ。久しぶりに会ったのにアッパーカットは無いんじゃないの!?」
桂「そのニックネームで呼ぶのは止めろと、何度も言った筈だ」
銀時「つーか、お前なんでこんな所に・・・」
その時踏みつけられて伸びていた戌威族が正気に戻り、こちらに向かってこようとしていた。
桂「話は後だ、銀時。行くぞ!!」
銀時「チッ」
訳が分からないまま、再び銀時に手をとられ走り出す。そんな5人を望遠鏡で覗く謎の男が居た。
???「とうとう尻尾出しやがった。山崎、何としても奴等の拠点押えて来い」
山崎「はいよっ」
部下らしい黒服を着た男に指示を出す男。タバコを吹かしながら手元にあるチラシを見る。
???「天人との戦で活躍した、かつての英雄も天人様様の今の世の中じゃただの反乱分子か。この御時世に天人追い払おうなんざ、たいした夢想家だよ」
そう言って手に持っていた【桂 小太郎】と書かれた手配書をクシャッと握りつぶした。
???「オイ、沖田起きろ」
丸めた紙を近くで寝ている男に投げつける。
???「お前、良くあの爆音の中寝てられるな」
起き上がった男・・・っと言ってもまだ少年と言って良いだろう。不思議なアイマスクを外すと端正な顔に栗色の髪が覗く。
沖田「爆音って・・・またテロ防げなかったんですかィ?何やってだィ、土方さん。真面目に働けよ」
土方「もう一回寝るか、コラ」
どうやら銀時達を望遠鏡で覗いた黒髪のタバコを吸っていた青年が【土方】。寝ていた少年が【沖田】と言うらしい。
土方「天人の館がいくら吹っ飛ぼうがしったこっちゃねェよ。連中泳がして、雁首(がんくび)揃った所をまとめて叩き斬ってやる」
そう物騒な事を言った土方は、腰に下げていた日本刀を抜き放つ。
土方「真選組の晴れ舞台だぜ。楽しい喧嘩になりそうだ」
銀時達の前に現れた、桂という男との出会い。その桂を追う真選組と言う組織。新たな事件の予感が達を飲み込もうとしていた----
繋がれた手に、早めた心臓の音