激しいバイクのエンジン音にスナックに居るメンバーがみな振り返る。
キャサリン「アバヨ、腐レババア」
お登勢「キャ・・・キャサリン!!」
バイクの音の原因はどうやら、警察との話の間に銀時の愛車のスクーターに跨っていたキャサリンだった。スクーターの後部座席にはいつの間にか持ってきたのか、店のレジや----
お登勢「まさか、キャサリンが・・・」
新八「お登勢さん、店の金レジごと無くなってますよ!!」
銀時「あれ、オレの原チャリもねーじゃねーか」
神楽「あ・・・そう言えば私の傘も無いヨ」
口々に無くなった自分の大事な物を探す3人に、は嫌な予感を感じて慌てて席の傍らに立てかけていた自分の愛刀を探す。
「っ!?ぎ、銀さん・・・」
銀時「ん?どーした・・・ってお前!?」
に呼ばれた銀時は振り返ると、涙を僅かに瞳に溜めて下を向いている彼女。そんなに銀時は慌てて何があったのか尋ねる。
銀時「おまっ!?お、落ち着け!!どうしたんだ?銀さんに話してみ?」
「な、無いんです・・・」
銀時「無い・・・?」
「大切な・・・大切な私の刀が・・・」
その時バーカと大声で言い残しながら、銀時のスクーターに乗って走り去るキャサリン。その後ろ姿を見送りながら、漸く犯人がキャサリンだったのだと気づく面々。
銀時「あんの、ブス女(アマ)ァァァァァ!!」
神楽「血祭りじゃァァァ!!」
理由は分からない。けどが何時も大切そうにしている刀。出会ったばかりの神楽にもそれは分かった。を泣かせ、あまつや自分の愛車と夜兎の神楽には必需品の傘を盗んだキャサリンへの怒りが爆発する。
銀時は近くに止めてあった警察の車へ乗り込もうとする。
警察「ちょっ・・・何やってんの!?どこへいくの!?」
警察の男がそう叫ぶ中、銀時、神楽、新八が車に乗り込む。
「銀さん・・・」
銀時「心配すんな、。お前ェの大切なモンは必ず取り戻してやる」
不安そうに呟くに優しげに声をかけ、彼女の頭に大きな手を置く銀時。理由は分からないけれどを泣かす奴が気に入らない。腹のそこからムカムカする。助手席に座った銀時は警察が言う事を無視して車を走しらせた。
警察「おいィィィ、ちょっと待ってェェ!!それ、俺達の車なんですけど!!ちょっとォォォ!!おい、行っちゃったよォ!!どーすんの!?」
走り去る車を見送るとお登勢。
「お登勢さん、後ろに乗って下さい」
お登勢「・・・?」
店の裏に止めていた自転車を持って来て、呆然と立ち尽くすお登勢に声をかける。彼女の真意が分からなくて名前を呼ぶとはさっきまでの不安そうな顔は何処へいったのか、にっこり微笑んでお登勢に言った。
「銀さんが心配するなって言ってくれたから大丈夫ですよ。お登勢さん、知りたいんじゃないですか・・・?キャサリンさんがあんな事した理由」
愛刀の雪月花はが大切にしているのは理由がある。彼女にとって大切な、大切な人の名前が入ったがとして居る【理由】。なににも変えがたい物を失って、不安で不安で泣きそうな自分に心配するなと銀時が言ってくれた。不思議とさっきまで不安だった心は大丈夫だと思える様になる。銀時の言葉は本当に不思議だ。彼が持つ独特の雰囲気やさっきに頭を撫でながら見せた、強い光が宿った瞳の強さ故か----
新八「ねェ!とりあえず落ち着こうよ二人とも。僕らの出る幕じゃないですってコレ。たかが原チャリや傘で、そんなにムキならんでもいいでしょ」
猛烈なスピードでキャサリンを追いかける銀時、神楽、新八を乗せたパトカー。なぜか運転席には【神楽】が・・・。
銀時「新八、俺ぁ原チャリなんてホントはどーでもいいんだ」
新八「!」
銀時「お前、の様子気にならなかったのか?普段は大抵の事は微笑んで許すようながあんなに不安そうに俺を見たんだ・・・。それにお前、を泣かされて黙ってられんのか?付き合いは短けェけど、お前にとっての大切な物は【たかが】で済まされんのか・・・?」
新八「っ・・・」
確かに普段、余程の事が無い限り決して人を頼ろうとしない。それは頑なな訳じゃなくて、何でも卒無くこなしてしまう彼女の器用さのせいだろう。そして彼女は何に対しても優しい。それはお人好しな訳では無くて、人の奥底に誰でも持っている人間の良心と言うのだろうか?隠している部分を見抜いている様に新八には思えた。そして、ハタ皇子のペットのペスに食べられそうになった自分を彼女は見捨てるどころか、大事な仲間だと言ってくれた。銀時や神楽にダメガネやツッコミしか能が無い等と、良くけなされるけどは決してそんな事はせず、むしろ新八の良い所ですよと微笑んでくれたのだ。そんな彼女を助けてあげたいと思う・・・。
銀時「それになァ、シートに昨日借りたビデオ入れっぱなしなんだ。このままじゃ延滞料金がとんでもない事になる、どうしよう」
新八「アンタの行く末がどうしようだよ!!」
良い事を言ったと思えばコレだ・・・。ジャンプアニメの【宿命】という奴だろう。カッコイイだけでは終わらない(笑)
神楽「の事は好きアル。だから助けるのに理由何ていらないヨ。それに延滞料金なんて心配いらないネ。もうすぐレジの金が丸々手に入るんだから」
新八「お前は、そのキレイな瞳のどこに汚い心隠してんだ!!そもそも神楽ちゃん、免許もってんの!なんか普通に運転してるけど」
神楽「人、はねるのに免許なんて必要ないアル」
新八「オィぃぃぃ!!ぶつけるつもりかァァ!!」
銀時「お前、勘弁しろよ。ビデオが粉々になるだろーが」
新八「ビデオから頭離せ!!」
そんなやり取りの中、漸く銀時のスクーターで走り去ったキャサリンの後姿が見える。後ろから追いかけてくるパトカーに気づいたキャサリンは、慌てて細い路地へと方向転換する。
銀時「あっ、路地入りやがったぞアイツ!!」
神楽「ほァちゃああああ!!」
パトカーを運転する神楽も、キャサリンの入り込んだ路地へと大きくハンドルを回す。車1台がやっと通れる路地へと入り込んだパトカーは、軒先にある鉢植えやゴミ箱やらを遠慮せず薙ぎ倒して進んで行く。
銀時「オイオイオイオイ」
新八「なんか、キャサリンより悪い事してるんじゃないの僕ら!!」
神楽「死ねェェェアル、キャサルィィィン!!」
が一緒じゃなくて本当に良かったと思う。自分と同じ常識人の彼女がこの光景を見ていたら、きっと顔を蒼くするだろうから・・・。ふうっと小さく溜息を吐く新八。その時開けた場所に出たと思えば----
銀時・新八・神楽「あれ?」
目の前に広がる川。車は止まる事無く突っ込んでゆく。
銀時・新八・神楽「あれェェェェェ!!」
大きな音と共に川へと飲み込まれるパトカー。その様子をスクーターを止めて眺めるキャサリン。それを一瞥して再び走り去ろうとした時----
???「そこまでだよ、キャサリン」
突然の声に驚いて振り向けば、スナックに居た筈のお登勢と。
お登勢「残念だよ。あたしゃアンタの事、嫌いじゃ無かったんだけどねェ」
自転車から降りたお登勢は、キャサリンにゆっくり近づきながら言う。
お登勢「でも、ありゃあ偽りの姿だったんだねェ。家族の為に働いてるってアレ、アレもウソかい」
キャサリン「・・・お登勢サン・・・アナタ馬鹿ネ。世話好キ結構、デモ度ガ過ギル。私ノヨウナ奴ニツケコマレルネ」
「貴女は・・・貴女はそのお登勢さんの気持ち踏みにじるんですか・・・?」
キャサリン「・・・」
お登勢の後に続いてが悲しそうな顔でキャサリンに言う。
お登勢「良いよ、。こいつは性分さね、もう直らんよ。でも、おかげで面白い連中とも会えたがねェ」
タバコを取り出したお登勢は懐かしそうに、キャサリンに昔話をし始めた。
お登勢「ある男はこうさ、ありゃ雪の降った寒い日だったねェ」
その日は、たまたま気まぐれに死んだ旦那の墓参りに出かけたんだ。お供え物を置いて立ち去ろうとしたら、墓石が口をききやがったんだ。
???「オーイ、ババー。
それまんじゅうか?食べていい?
腹減って死にそうなんだ」
お登勢「こりゃ、私の旦那のもんだ。旦那に聞きな」
そう男に言ったら、間髪いれずそいつはまんじゅうを食い始めたんだ。墓石に後ろにいる男を見れば、体中傷だらけでだった。
お登勢「なんつってた?私の旦那」
お登勢「そう聞いたらそいつ何て答えたと思う、死人が口聞くかって。だから一方的に約束してきたんだって言うんだ」
お登勢の話に痺れを切らしたのか、キャサリンはスクーターをお登勢に向けるとエンジンをふかし始めた。その様子に慌ててお登勢を護ろうとが前に躍り出る。
???「この恩は忘れねェ。アンタのバーさん・・・
老い先短いだろうが----
この先は、あんたの代わりに俺が護ってやるってさ。
迫るキャサリンのスクーターには鞘の付けたままの刀を構えようとするが、何かに気づいて構えを解く。その顔には微笑が浮かんでいる。後ろに居たお登勢も同じく笑う。
銀時「仕事くれてやった恩を仇で返すたァよ、仁義を解さない奴ってのは男も女も醜いねェ、ババァ」
警察に手錠をかけられ車に向かうキャサリン。あの時、達に迫るキャサリンの前に川に沈んでいたはずの銀時が飛び出して来て、見事にキャサリンを捕まえた。もお登勢も川から飛び出す銀時が見え、笑ったのだ。
お登勢「家賃も払わずに、人ん家の二階に住み着いてる奴は醜くないのかィ?」
「うっ・・・。面目ありません・・・」
日雇いの仕事や、店の手伝いで少しづつ返しているとは言え全額家賃を支払えている訳でもない。が居なかったらそれさえも出来ていないのだけれど、それを口にする事無く項垂れてしまう彼女に銀時は言う。
銀時「ババァ、人間なんてみんな醜い生き物さ。(は違うけどよ)」
お登勢「言ってる事メチャクチャだよアンタ!は返そうと頑張ってくれてるんだから良いのさ。ちっとはこの天パーに見習って欲しいわ!まァいいさ、今日は世話になったからね。今月の家賃くらいはチャラにしてやるよ」
「本当ですか!?お登勢さん!?」
お登勢「あぁ、もご苦労だったね」
スクーターを自転車で追いかけるのは相当きつかっただろう。しかも後ろにお登勢を乗せた状態では尚更だ。労ってくれるお登勢に、これくらいしか出来ませんでしたと舌を出して可愛く笑う。そんな彼女を優しげな瞳で銀時とお登勢が見る。
銀時「マジでか?有難うババァ。再来月は必ず払うから」
「頑張ります!」
お登勢「はあんま無理すんじゃないよ。それより銀時!何、さり気無く来月スッ飛ばしてんだ!!」
そんな2人のやり取りを笑いながら聞いてる。お登勢も何だかんだ言っているけど、銀時に甘いんだと思う。そうでなければ私達はとっくに追い出されてるはずだから・・・。漸く取り戻した愛刀に手に触れた。本当に戻って来て良かったと思う。
「銀さん」
銀時「ん〜?」
「取り戻してくれて、有難うございます」
そう言って銀時に微笑みを向ける。僅かに見惚れていた銀時は、慌てて話を逸らそうと疑問に思っていた事を口に出そうとするけれど・・・。
銀時「な、なァ。その刀----」
「?」
銀時「・・・いや、やっぱり何でもねェ。戻って来て良かったな」
「はいっ!」
その刀どうしてそんなに大切にしてんだ?と聞くつもりだった。刀を失くした時のの落ち込みようが尋常ではなかったから・・・。きっと何か深い訳があるのだろうと思う。なぜか聞きづらくてつい話を逸らしてしまった。
「さぁ、お腹も減って来ましたし帰りましょう、銀さん。新八くーん!神楽ちゃーん!帰りましょうー!」
遠くに居る新八と神楽を呼ぶ。
銀時「おう」
夕闇に染まり始めた帰り道をお登勢と並んで帰る。お登勢が話していた銀時の昔。一体彼がどうしてお墓にいたのか何てには分からない。けれど昔の彼の話を聞けて嬉しかったのも本当だ。何時か聞けたら良いなと思う。銀時も同じ様に、何時か彼女の口から刀の事を、彼女の昔の事を話してくれると良いなと思っていた。
貴方(君)の事をもっと知りたいと思うんだ