貴方の為に出来る事、君の為に出来る事 



その一 猫耳の天人

そっと髪に触れた、君の手は優しくて----



神楽「おかわりヨロシ?」


お登勢「てめっ、何杯目だと思ってんだ。ウチは定食屋じゃねーんだっつーの」


ココは万事屋の階下にある【スナックお登勢】。半ば無理やり?万事屋のメンバーとなった神楽。井上達の下から逃げていた間何も食べていないんだと神楽が3人に話せば、は同情のせいか涙を浮かべてさっそく万事屋に戻ったのだが・・・。


お登勢
「ココは酒と健全なエロをたしなむ店・・・。親父の聖地スナックなんだよ。そんなに飯が食いてーなら、ファミレス行ってお子様ランチでも頼みな!!」


神楽「ちゃらついたオカズに興味ない。たくあんでヨロシ」


そう言ってスナックのカウンター席に座ってた神楽は、遠慮せず空になったお茶碗をお登勢に差し出す。


お登勢「
食う割には、嗜好が地味だなオイ。ちょっとォ!!に銀時!!何だいこの娘!!もう5合も飯食べてるよ!!どこの娘だい!!」


新八「5合か・・・。まだまだこれからですよね・・・」


「そ、そうですねぇ・・・」


銀時「もう、ウチには砂糖と塩しかねーもんな」


お登勢が怒鳴る中、3人の何とも憔悴(しょうすい)した様子に気が削がれるお登勢。3人の憔悴している理由・・・。それは他ならぬ、この神楽の胃の中にブラックホールを抱えているのではと疑いたくなる程の【神楽】のせいだ。たった数分で万事屋にある食料全てを食い尽くした神楽は、まだ足りないと騒ぎ、やもえずお登勢の所に連れて来たのだ。


お登勢「なんなんだい、アイツらあんなに憔悴しちまって・・・。ん?」


勿論そんな理由があるとは知らないお登勢は3人から視線をはずし、目の前に座っている神楽に目を向けるといつの間にかジャーごとご飯を平らげている神楽。


お登勢
「って、オイぃぃぃぃ!!まだ食うんかいィィ!!ちょっと誰か止めてェェェ!!」


悲痛なお登勢の声に、3人はため息をつかざる終えなかった・・・。




「と言う訳で・・・」


お登勢「へェ〜、じゃああの娘も出稼ぎで地球(ここ)に。金欠で故郷に帰れなくなった所をアンタが預かったわけ・・・。バカだねぇアンタ達も、家賃もロクに払えない身分のくせにあんな大食いどうするんだい?言っとくけど、家賃はまけねぇよ」


「でも、見捨てる訳にはいきません・・・。どんなに沢山食べるとは言え小さい女の子なんですから・・・」


銀時「は優し過ぎなんだよ・・・。
オレだって好きで置いてる訳じゃねぇよ。あんな胃拡張娘


そう銀時が言うと、恐ろしい速さでコップが飛んで来て銀時の頭部に命中した。


「っ!?ぎ、銀さん!?」


テーブルに沈む銀時。突然の出来事にオロオロする。新八とお登勢は顔を蒼白にする。


神楽
「なんか言ったアルか?」


新八・お登勢
「言ってません」


答えられない銀時の代わりに声を揃える2人。そんなやり取りの中、漸く意識を取り戻した銀時。ガラスのコップが直撃したはずなのに血が出ていないのは、銀時の頭が余程固いせいか・・・。


銀時
「いだだだ」


「銀さん、大丈夫ですか・・・?」


テーブルに飛び散ったコップの破片で、銀時が怪我をしない様に片付け遠慮がちに怪我が無いか銀時の銀髪に触れる。江戸の何処を見渡してもそうそう居ないだろう銀色。染めているのかと前に聞いて見た事があったけど、銀時は笑いながら生まれつきだと言っていた。無造作に跳ねている癖毛のせいでコンプレックスがあると言っていたけれど、こうして初めて触れた彼の髪は思っていたよりも柔らかくてやはり綺麗だと思う。


躊躇いがちに自分の髪を触る。怪我を気にしてなのか触れ方は酷く優しげだ。女にこんな風に触れられた事がないせいで、酷くくすぐったくて照れてしまう。そんな時に聞こえた低めの、やや片言の女の声。



???「アノ、大丈夫デスカ?コレデ、頭冷ヤストイイデスヨ」


そう言って銀時に差し出されたハンカチ。その声に少し驚いて触れていた銀時の髪から手を慌ててどけた。それを少し残念に思った銀時の心情など誰も知る由が無い。


銀時「、有難うな・・・。あら?初めて見る顔だな。新入り?」


???「ハイ、今週カラ働カセテイタダイテマス、【キャサリン】言イマス」


年の頃は40台くらいだろうか、黒いおかっぱの髪に猫耳の様な物をつけている。詳しくは知らないけれど、こうゆう天人が居ると旅の途中で聞いた事があった。は自分の名前を名乗ってペコリと頭を下げる。キャサリンも同じ様に挨拶してくれた。


お登勢「キャサリンも出稼ぎで地球に来たクチでねェ。実家に仕送りするために頑張ってんだ」


銀時
「たいしたもんだ、どっかの誰かなんて己の食欲を満たす為だけに・・・」


言い終わる前に再び投げつけられたガラスのコップ。再びテーブルに沈む銀時。


神楽
「なんか言ったアルか?」


新八・お登勢・キャサ
「言ってません」


流石に見かねたが神楽に声をかける。コップは投げる物じゃなくて飲み物を入れる物だと説明する。有無を言わせない神楽の暴挙に恐れずあんな事言えるのは彼女しか居ないだろう。そんなの言葉に、神楽は怒るどころか素直に次からは気をつけるヨと謝る。その光景に銀時を含む4人が驚くのは無理も無い。


神楽にとっては、この地球に来てから初めて優しくしてくれた存在だった。井上達に追いかけられている時も、周りの大人は決して自分を助けようとしてくれなかった。それはある意味賢い選択なのかもしれない。好き好んで危険な目に飛び込もうとする人間など居るはずが無い、そう神楽は思っていた。人に無関心でいる事、それが地球(ココ)での賢い生き方なのだと。しかしは、自分を見捨てる事無く故郷に帰そうとしてくれた。彼女は神楽の【恩人】とも呼べる人だから----


男「すんませーん」


そんな中、玄関から聞こえて来た男の声。全員の視線がそちらに向く。


男「あの、こーゆもんなんだけど。ちょっと捜査に協力してもらえない?」


そう言って男が取り出したのは警察手帳。後ろに同僚らしき男も居る。


お登勢「なんかあったんですか?」


警察「うん、ちょっとね。この辺でさァ、店の売り上げ持ち逃げされる事件が多発しててね。何でも犯人は不法入国してきた天人らしいんだが、この辺はそーゆー労働者多いだろ。なんか知らない?」


いくら天人が地球に当たり前の様に居るからと言って、全ての天人が正規の手続きをして滞在している訳ではない。何時の時代にも貧しさはある。いくら江戸より優れたテクノロジーを持っていようともだ。戸籍(パスポート)を取るお金がない天人達が、生きる為や家族の為に不法入国してまで出稼ぎに来るのはそのせいである。


銀時
「知ってますよ、犯人はコイツです」


そう言って銀時が指差したのは神楽。その行動にを除く3人が溜息をつく。この男はさっきからコップを投げつけられているのを忘れているのだろうかと。自分に向けられて指差した銀時の指を見るや、神楽はその指を明後日の方向に折り曲げた。


銀時
「おまっ・・・お前何さらしてくれとんじゃァァ!!」


神楽「下らない冗談嫌いネ」


銀時
「てめェ、故郷に帰りたいって言ってたろーが!!この際、強制送還でもいいだろ!!」


神楽「そんな不名誉な帰国、御免こうむるネ。いざとなれば船にしがみついて帰る。こっち来る時も成功した、何とかなるネ」


「か、神楽ちゃん・・・」


神楽の爆弾発言に、流石のも苦笑いを浮かべた。


銀時
「不名誉どころかお前、ただの犯罪者じゃねーか」


警察「・・・なんか大丈夫そーね」


銀時と神楽の言い合いに呆れた警察の男がお登勢に呟く。


お登勢「ああ、もう帰っておくれ。ウチにはそんな悪い娘は雇ってな・・・」


お登勢が言い終わる前に、店の玄関からけたましくバイクのエンジン音が聞こえる----




お登勢の店に新しく入ったと言う天人のキャサリン。この出逢いと最近、江戸で起きている窃盗事件。達がこれからどう巻きこまれていくのか・・・?突如聞こえたバイクのエンジン音の正体とは・・・?




そっとの毛に触れた、の手が名残惜しい