貴方の為に出来る事、君の為に出来る事   



その二 ハタ皇子とペス

思えば、想いの始まりはココからだったのかもしれない----



半ば脅迫される形で黒塗りのベンツに乗り込まされた万事屋の3人。


新八「入国管理局の【長谷川 泰三】って言ったら、天人の出入国の一切を取り締まってる幕府の重鎮スよ。そんなのが一体何の用でしょう?」


「そんな凄い方なんですか・・・」


新八が局長と呼ばれる男の説明を銀時とに小声で説明する。相変わらずこんな状況でも緊張感の無い銀時は----


銀時「何の用ですかおじさん」


長谷川「万事屋っつたっけ?金さえ積めば何でもやってくれる奴が居るって聞いてさ、ちょっと仕事を頼みたくてね。本当はそこに居るお嬢さんには留守番してほしかったんだがね・・・」


「?」


長谷川の意図が分からず首をかしげる。そんな彼女を横目で一瞥してから銀時は長谷川に尋ねた。


銀時「仕事だァ?幕府(てめーら)仕事なんてしてたのか。街、見てみろ天人どもが好き勝手やってるぜ」


「・・・」


長谷川「こりゃ手厳しいね。俺達もやれる事はやってるんだがね。なんせ江戸がコレだけ進歩したのも奴らのおかげだから。おまけに地球(ここ)を偉く気に入ってる様だし無下には扱えんだろ」


そう言ってタバコを付け始めた長谷川。確かに江戸の突然の発展は彼等天人のおかげなのだ。彼等の卓越した文明の推移が有ってこそ今の江戸の生活があるのだろ。


長谷川「既に幕府の中枢にも天人が根を張ってるしな。地球から奴らを追い出そうなんて夢はもう見ん事だ。俺達に出来る事は奴らとうまく共生していくことだけだよ」


共生・・・。彼等天人は確かに卓越した文明を持っている。しかしそれは時に、環境汚染を起こし彼等の星は延命装置無しでは生きていけないくらいに環境は疲弊していた。青く美しいこの地球に彼らが目をつけたのは当然の事なのかもしれない。でもは思う。天人達は半ば強引に地球に降り立ち、この星の人間を【支配】する形で居座ってしまった・・・。もっと話し合いの場を持てたなら、攘夷戦争何て悲しい事は起きなかったのかもしれない。あの戦争で多くの人が悲しみ、多くの天人や人が亡くなった。そう思うと胸が苦しくなる。


銀時「共生ねェ・・・。んで俺達にどうしろっての」


長谷川「俺達もあんまり派手に動けん仕事でなァ。公(おおやけ)にすると幕府の信用が落ちかねん。実はな、今幕府は外交上の問題で国を左右する程の危機をむかえてるんだ。央国星(おうこくせい)の皇子が今地球(ココ)に滞在してるんだが、その皇子がちょっと問題を抱えていてな・・・。それが----」




ハタ皇子
「余(よ)のペットがの〜居なくなってしまったのじゃ。探し出して捕らえてくれんかのォ」


車で走る事数分、場所は皇子が滞在しているホテルに着いた一行。さっそく長谷川は皇子を呼び出し事情を聞く事にしたのだが・・・。


銀時・新八「・・・」


皇子を見るや否や、踵を返し帰ろうとする2人。そんな2人の気持ちが分かってしまうだけにも何も言えなくなる。天人は人と変わらない容姿の者も多いが、やはり宇宙人らしい容姿の者のほうが多い。この皇子もその一人だ。人の容姿に対してああだこうだ言うでは無いけれど・・・この皇子の姿を見てしまうと、そうも言って居られなくなってしまう自分はまだまだ修行が足らないのだろうかと思う。
薄紫色の肌の色に頭部から生えている触角の様な物。眉は気持ちばかりの程度しか無く、口は口紅を塗っているかの様に赤い。耳の部分にはなにやら分からないもじゃもじゃした物が生えている。お世辞にも皇子などと言える様な者ではなく・・・。


長谷川「
オイぃぃぃ!!ちょっと待てェェェ!!君ら万事屋だろ?何でもやる万事屋だろ?いや、わかるよ!わかるけどやって!頼むからやって!」


銀時
「うるせーな、グラサン割るぞ薄らハゲ」


長谷川
「ああ、ハゲで良い!!ハゲで良いからやってくれ!!」


必死に2人を止める長谷川。それはもう可哀相なくらい切羽詰っている姿には哀れに思えて仕方ない。


長谷川「ヤバイんだよ、あそこの国からは色々金とかも借りてるから幕府(うち)」


銀時「しらねーよ、そっちの問題だろ。ペットくらいで滅ぶ国なら滅んだほうが良いわ」


ハタ皇子「ペットぐらいとはなんじゃ、ペスは余の家族も同然ぞ」


銀時
「だったらテメーで探して下さい、バカ皇子」


長谷川
「オイぃぃ!!バカだけど皇子だから!!皇子なの!!」


銀時の言葉を否定するどころか、大声で肯定する長谷川。どうやら長谷川も気持ちは銀時達と同じ様である。


新八「
アンタまる聞こえですよ。大体そんな問題アナタ達だけで解決出来るでしょ」


長谷川「いや、それが駄目なんだ。
だってペットっつってても-----


長谷川が言い終わる前に、突然背後の皇子が滞在しているホテルが大きな音を立てて崩れ落ちる。音に驚きそちらに目を向ければ唖然と立ちすくむ面々。


ハタ皇子
「おぉー、ペスじゃ!!ペスが余の元に帰って来てくれたぞよ!!誰か、誰か捕まえてたもれ!!」


新八
「ペスゥゥゥ!?ウソぉぉぉ!!」


「あ、あれが皇子のペット・・・」


長谷川
「だから言ったじゃん!!だから言ったじゃん!!」


それはペット等と可愛いものでは決して無かった。タコの様な足をし、大きな口には鋭い牙。人間を一呑みしてしまう程の大きさの生物だった。


「っ!?もしかしてテレビで言ってた宇宙生物って・・・・」


新八
「あっ!!そうですよ、間違い無さそうです!!テレビで暴れてた謎の生物ってコレですよ!!こんなんどーやって捕まえろってんスか!!って言うかどーやって飼ってた訳!?」


皇子の道楽で飼っている犬や猫等の在り来たりなペットを想像していた万事屋の3人は、この巨大なペスと呼ばれる宇宙生物に疑問を抱かずにはいられない。


ハタ皇子「ペスはの〜、秘境の星で発見した未確認生物でな。余に懐いてしまったゆえ、船で牽引(けんいん)して連れて帰ったの----
じゃふァ!!


皇子の言葉が終わる前に、ペスはその巨大な足で皇子を殴り飛ばす。


新八「
全然懐いてないじゃないスか!!っ!?ヤバイまた市街地に出る」


皇子を殴り飛ばし終えたペスは踵を変え、市街地の方へ歩みを進めようとする。


「いけない!!このまま放っておいたらまた家が壊されてしまいます!!」


住む場所が無くなる、それはどんなに辛い事かは痛い程知っている。思いは違えど、そこにはそれぞれの思い出や家庭があるのだ。それを無くすという事は、とても悲しく辛い・・・。そんな思いをこれ以上させちゃいけない、そう決意しペスの前に躍り出ようと走り出すが----


新八・
「銀さん!!」


銀時「新八、。しょう油買って来い、今日の晩御飯はタコの刺身だ。いや、たこ焼きのが良いか」


「ふふふっ、久しぶりに腕振るっちゃいますね。銀さん、私も戦います。手伝わせて下さいね」


銀時「・・・しょうがねェな。の料理が食えるんなら、銀さん頑張っちゃうか。気をつけろよ


「はい、銀さんも怪我しないで下さいね」


銀時「上等〜!!
いただきまーす!!


2人揃ってペスに飛び掛ろうとしたその時----


長谷川
「させるかァァ!!」


長谷川の声が聞えると銀時にスライディングを決め、転倒させる。銀時は良い音を立てながら地面に頭を打ち付ける。


「っ!?ぎ、銀さん大丈夫ですか!?」


は慌てて銀時の元へ走り寄る。打ち付けた頭を手で抱えながら悶絶する銀時。


銀時「いだだだ!!何しやがんだ!!、脳ミソ出てない?コレ」


「だ、大丈夫です。赤くなってますけど・・・」


長谷川
「手ェ出しちゃダメだ。無傷で捕まえろって皇子に言われてんだ!!」


銀時「無傷?出来るかァそんなん!!」


長谷川
「それを何とかしてもらおうとアンタ等を呼んだの」


銀時「無理、無理!無理だって!!」


「そ、そうですね・・・。幾らなんでもアレを無傷でなんて・・・」


新八
「うわァァァァ」


言い争う中突如新八の叫び声がこだまする。何事かと振り返る一同の目に映ったのはペスに巻きつかれた新八の姿。


銀時・
「新八ィィ(君)!!」


「いけない、このままじゃ新八君が食べられてしまいます!!」


銀時「ちっ!!」


長谷川の言葉なんて気にしている場合では無い。急がなければ新八が大変な事になる。そう思い、銀時とは駆け寄ろうとするが----


長谷川「勝手なマネするなって言ってるでしょ」


そう言って銀時の後頭部に拳銃を突きつける長谷川。


「銀さん!!」


銀時「てめェ・・・」


長谷川「無傷で捕獲なんざ不可能なのは百も承知だよ」


「っ!?なら、なぜこんな事を!」


長谷川「お嬢さん、多少の犠牲が出なきゃバカ皇子はわかんないんだって」


「っ!?」


銀時「アレの処分許可を得るためにウチの助手、エサにするってか。どーやら幕府(てめーら)ホントに腐っちまってるみてーだな」


長谷川「言ったろ、俺達は奴等と共生していくしかないんだってば。腐ってよーが、俺は俺のやり方で国を護らせてもらう。それが俺なりの武士道(ルール)だ」


銀時「クク、そーかい。
んじゃ俺は俺の武士道(ルール)でいかせてもらう!!


そう言って背後にいる長谷川の拳銃を蹴り上げる銀時。


銀時「、行くぞ!!」


「はいっ!」


長谷川
「待てェ!!たった一人の人間と一国・・・どっちが大事か考えろ!!」


新八に向かって走りゆく2人。長谷川の言葉には後ろを振り向きながら言う。


「長谷川さん、貴方の言葉は間違って無いかも知れません。だけど私達にとっては国と同じくらいに新八君が大事なんです。
大切な仲間なんです!!


そう言葉を紡ぐを横目にふっと笑う銀時。


銀時「そうそう、
しったこっちゃねーな、んな事!!新八ィィィ!!気張れェェェ!!


ペスに体を絡めとられた新八は、既にペスの口にいて食べられる寸前だ。


新八
「ふぐっ!!気張れったって・・・。どちくしょォォォ!!」


「新八君もう少し頑張って下さい!!」


必死にペスに食べられない様に踏ん張る新八。


銀時「幕府が滅ぼうが、国が滅ぼうが
関係無いもんね!!俺達は、自分(てめー)の肉体(からだ)が滅ぶまで、背筋伸ばして生きてくだけよっ!!


「人の命と国の運命を比べて天秤にかけるなんて可笑しいです。人一人救えないで何が国ですか・・・。そんな国
滅んでも構いません!


長い旅をしていく中で、沢山の人々を見て来た。戦争の傷跡も深い街もあった。天人に虐げられている街もあった。だけど人々は必死に生きていた。それは自分の為だったり大切な人の為だったり理由は様々だけれど、みんな幸せになろうとしていた。そんな人々をは助けたくて、剣を磨き心を鍛えてきたのだ。


長谷川「・・・」


銀時の木刀との鞘がペスに襲い掛かる。大量にあがった血しぶきがその場に居る者たちに降り注ぐ。けれど、長谷川の表情は苦しいものではなく、むしろ何か重荷が降りたような表情だった。


長谷川「あ〜あ、目茶苦茶やってくれやがってアイツら」


ハタ皇子
「あ”あ”あ”あ”、ペスがァァ!!余の可愛いペスが・・・。噴水の如く喀血(かっけつ)しておるではないかァァ!!長谷川!!無傷で捕らえよと申したはずじゃぞ、どう責任をとってくれるか!!国際問題じゃこれは!!オイ、聞いておるのか」


背筋を伸ばして生きる?人一人救えないで何が国ですか?まるでガキの学級問題じゃねーか。・・・そういやお袋も良く言ってたな。背中が曲がってるぞ、しゃんと立て、人を護れる様な人間になれって・・・。母ちゃん俺・・・今・・・真っ直ぐ立ててるか?護る意味間違えてねーか?


ハタ皇子「今回の件は父上に報告させてもらうぞよ、長谷川!!」


長谷川「・・・せーよ」


ハタ皇子
「な?」


長谷川
「うるせーって言ってたんだ!!このムツゴロウー星人!!」


そう叫ぶと皇子を殴り飛ばす長谷川。派手に吹き飛ぶ皇子。そんな長谷川に銀時が言う。


銀時
「あ〜あ!!良いのかな〜、そんな事して〜」


長谷川
「しるかバカタレ、ココは侍の国だ。好き勝手させるかってんだ」


「ふふふっ」


護る理由、やり方何て人それぞれだと思う。時に己の信念を貫くのは酷く難しい。けれどその姿はひどく男という生き物をかっこよく見せる。銀時にしろ、長谷川にしろ形は違えど護ろうとした気持ちは同じなのだと思うから。


新八「でも、もう天人取り締まれなくなれますね。間違いなくリストラっスよ」


長谷川
「え?」


銀時「バカだな、一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすんだよ」


新八と銀時の言葉に唖然とする長谷川。しかしの一言によって少しは救われたかもしれない。


「でも素敵でしたよ、長谷川さん」


銀時・新八「!?」


長谷川「お嬢さん・・・」


長谷川に微笑む。そんな彼女の笑みが綺麗で長谷川は顔を赤くする。あとでが居ない所で、銀時と新八に殴られたのは言うまでも無い。


新八「さん、有難う御座います」


「えっ?」


新八「大事だって言ってくれて、仲間だって言ってくれて僕、すごく嬉しかったです」


銀時「〜、銀さんはァ?」


「ふふふっ、ヒミツです」


2人とは僅か半月しか一緒に居ないけれど、には大切な存在になっていた。旅をしてきたせいで一つの場所にこんなに長く居るのは初めてだ。
の言葉に子供の様に口を尖らせてなにやらブツブツ呟く銀時。そんな銀時を横目に笑いながらは思う。旅をして、沢山の人を助けてきたけれどこんなハチャメチャだけど楽しい生活も悪くないですねっと。





好奇心から始まった関係が、大切になりつつある瞬間