その三 侍が動く理由
寂しい笑顔じゃない、本当の笑顔を見せてくれ----
あの後、半ば無理やりお妙(道すがらお互い自己紹介をして女性の名前を教えてもらった)にひきづられ(勿論は新八が丁重に扱った)銀時と共に連れて来られたのは【恒道館道場】と言う少し古びた建物だった。
銀時「いや、あのホント・・・スンマセンでした・・・。俺もあの登場シーンだったんでちょっとはしゃいでいたっていうか・・・調子に乗ってました。スンマセンでした」
お妙に殴られ見るからに痛々しい銀時の腫れる頬。いくら逃げたとは言え銀時が少し哀れだと思うは、甘いのだろうか・・・。
お妙「ゴメンで済んだらこの世に切腹なんて存在しないわ。アナタのお陰でウチの道場は存続すら危ういのよ」
そう言いながら短い小刀の様な刃物を鞘から抜き出す。勿論表情はあの恐ろしい綺麗な笑顔でだ。
お妙「鎖国が解禁になって二十年・・・方々の星から天人が来る様になって江戸は見違えるほどに発展したけど、一方で侍や剣・・・旧(ふる)きに権勢を誇った者は、今次々に滅んでいってる。ウチの道場もそう・・・廃刀令の煽りで門下生は全て去り、今では姉弟二人でバイトして何とか形だけ取り繕ってる状態。それでも父の遺していったこの道場を護ろうと今まで二人で必死に頑張って来たのに・・・お前のせいで全部パーじゃボケェェ!!」
そう言って抜き出した刃物を銀時に振り下ろそうとするお妙。
「ま、待って下さいお妙さん!!わ、私が門下生になります!!だ、だから刃物沙汰には!!坂田さんは確かに、後先考えずに2人に迷惑かけてしまったかもしれないですけど・・・悪い人じゃないんです!!」
銀時「ちゃん・・・何でそこまで・・・」
新八「そ、そうですよ!!落ち着けェェ、姉上!!」
お妙「さんの頼みだから聞いてあげたいけれど、この男だけは許せないわ!!」
銀時「新八君!!君のお姉さんゴリラにでも育てられたの!?待て待て待て、落ち着けェェ!!切腹は出来ねーが俺だって尻(ケツ)ぐらい持つって!ホラ!」
の必死の説得も空しく、今まさに銀時へと刃物が振り下ろされそうな時、銀時がお妙に差し出した物----
お妙「何コレ?名刺・・・。万事屋 坂田銀時?」
万事屋・・・?何でも屋だろうか----
銀時「こんな時代だ、仕事なんて選んでる場合じゃねーだろ。頼まれれば何でもやる商売やっててなァ。この俺、【万事屋 銀さん】が何か困った事あったら何でも解決してや・・・」
お妙「だーからお前に困らされてるんだろーが!!」
新八「仕事紹介しろ、仕事!!」
そう言うと銀時を袋叩きにする二人。はもうどうしたら良いのかアタフタするしかない。
銀時「落ち着けェェ!!仕事は紹介出来ねーが!!バイトの面接の時、緊張しないお呪いなら教えてや・・・」
新八とお妙「いらんわァァ!!」
「坂田さん・・・」
新八「姉上・・・。やっぱりこんな時代に剣術道場やっていくなんて土台無理なんだよ。この先、剣が復興する言なんてもう無いよ・・・。こんな道場必死に護った所で僕等何も・・・」
お妙「損得何て関係無いわよ。親が大事にしてた物を子供が護るのに理由なんているの?」
迷いの無いお妙の瞳。そんなお妙を見ているとはどうしようもなく思い出す人が居る・・・。大好きで、大好きで・・・ずっと傍に居て欲しかった人の事を----
新八「でも、姉上!!父上が僕等に何をしてくれたって・・・」
その時、突然室内の扉を乱暴に蹴破る大きな音がした。その音に4人は振り返る。
???「くらァァァ!!今日と言う今日はキッチリ金返してもらうで〜〜!!」
そう言いながら中に入って来たのは、坊ちゃん刈りをした黒服の男2人と背の低い男だった。
小さい男「ワシ、もう我慢出来へんもん!!イライラしてんねんもん!!」
銀時「オーイ借金か。オメーらガキの癖にデンジャラスな世渡りしてんな」
新八「俺達が作ったんじゃない・・・父上が・・・」
お妙「新ちゃん!!」
小さい男「何をゴチャゴチャぬかしとんねん!!早よ金持ってこんかいボケェェ!!早よう帰ってドラマの再放送見なアカンねんワシ」
新八「ちょっと待って、今日は・・・」
小さい男「じゃかしーわ!!こっちはお前等のオトンの代からずっと待っとんねん!!もォーハゲるわ!!金払えん時はこの道場売る飛ばすゆーて約束したよな!!あの約束守ってもらおうか!!」
新八「ちょっと待って下さい!!」
小さい男「なんや!!もうエエやろ、こんなボロ道場。借金だけ残して死にさらしたバカ親父に、義理何て通さんでエエわ!!捨ててまえ、こんな道場・・・」
新八の言葉を聞こうとしない小さな男は、早口にまくし立てる。しかし最後まで話すことは出来なかった。男の余りの横暴な言葉にお妙が殴りかかったのだ。お妙がもしココで手を出さなくても、もしかしたらが男を殴っていたかもしれない。もうこの世に居ない人間を冒涜するなんて許せない。それがこの姉弟の親なら尚更だ。2人と出会って数十分しか経っていない。けれど苦しい生活ながら必死に親の護ろうとしていた物を護ろうとしている2人には自分と同じ匂いを感じたのだ。
お妙のストレートに倒れ落ちる小さな男。慌ててそれを1人の黒服が後ろからお妙を羽交い絞めにして止める。
黒服1「この女(アマ)ッ!!何さらしとんじゃ!!」
そしてお妙を床に押し付けた。その乱暴な扱いには拳を握り締めてお妙に近づく----
新八「姉上ェェ!!」
小さい男「このォ・・・ボケェ・・・。女やと思って手ェ出さんとでも思っとんかァァ!!」
そう言いながら起き上がった小さな男は、黒服に床に引き倒されているお妙に向かって拳を振り上げるが不意に感じた【悪寒】----
その拳がお妙に当る事は無い。お妙を床に押し付けていた黒服の男は
の鞘を付けたままの刀で急所を打ち付けられ、白目を向いて倒れていた。そして小さな男が振り上げた拳は、銀時の手によって止められている。もし、ここで銀時が男を止めていなくてもお妙に拳が当る事は無かっただろう。なぜなら振り上げられていた拳の前には既にが立っていたから・・・。そんなを横目でニヤリと銀時は一度笑い、小さな男に殺気を込めた瞳で睨みながら言う。
銀時「その辺にしておけよ?ゴリラに育てられたとは言え、女だぞ」
男の腕を掴む手からメキメキと音がする。銀時が尋常ではない力をこめているのだろう。そんな銀時をほっとした表情で見ると唖然として見ている新八とお妙。
小さい男「なっ、何やワレェェェ!!この道場にまだ門下生なんぞおったんかィ!!」
「ふふふっ、坂田さんは違いますよ?私は一応【予定】ですけど」
小さい男「・・・。ホンマにっ、どいつもコイツも、もうエエわ!!道場の件は・・・。せやけどなァ、道場の姉さんよォその分アンタに働いて返して貰うで」
そう言いながら懐から何かを差し出す小さい男。
小さい男「コレ、わしなァこないだから新しい商売始めてん。【ノーパンしゃぶしゃぶ天国】ゆーねん」
「ノーパ・・・?」
男が見せているチラシの絵からして、全うな仕事では無い事は分かる。だけど男が言う用語がの思考回路では理解出来ずにいた。
新八「ノッ・・・ノーパンしゃぶしゃぶだとォ!?」
小さい男「簡単にゆーたら、空飛ぶ遊郭や。今の江戸じゃ遊郭なんぞ禁止されとるやろ?だが空の上なら役人の目は届かん、やりたい放題や。色んな星のべっぴんさん集めとったんやけど、あんたやったら大歓迎やで・・・。それに、そこにおる門下生の姉さんもなァ・・・。アンタならNO1も夢やないで」
お妙「っ!?さんは関係ないわっ!!」
お妙の叫びも空しくを見る小さな男。良いとは言えない感情がにも分かり背中に嫌な汗が流れる。
小さい男「まァ、道場売るか体売るかゆー話や。どないする?」
新八「ふざけるな!!そんなの行く訳・・・」
お妙「分かりました、行きましょう。その代わりさんは関係ありません。巻き込まないで下さい」
新八「え”え”え”え”!?」
「お妙さんっ!?」
小さい男「そうかい、そこの門下生の姉さんは残念やけどなァ・・・。こりゃ、たまげた孝行娘や」
新八「ちょっ・・・姉上ェ!!何でそこまで・・・もう良いじゃないか!!ねェ!!姉上!!」
男達と共に行こうとするお妙を止めようと、必死に呼びかける新八。その呼びかけに1度止まり、振り返らずに新八に話しかけるお妙。
お妙「新ちゃん、貴方の言う通りよ。こんな道場護ったって良い事なんて何も無い、苦しいだけ・・・でもねェ、私・・・捨てるのも苦しいの。もう取り戻せない物と言うのは、持っているのも捨てるのも苦しい」
「お妙さん・・・」
お妙の言葉に胸を締め付けられる。無くしたく無かった大切な人(達)。思い出すのは、大好きな笑顔と【護れなかった】自分への後悔。
お妙「どうせどっちも苦しいなら、私はそれを護る為に苦しみたいの」
そう言って新八に振り返り、寂しそうな笑顔を見せるお妙。そんなお妙に何も言えない新八----
男達が車に乗り込み走り出す。
新八「んだよ、チキショー!!バカ姉貴がよォォ!!父ちゃん父ちゃんてあのハゲが何してくれたってよ、たまにオセロやってくれたくらいじゃねーか!!」
銀時「父ちゃん、ハゲてたのか」
新八「いや精神的にハゲて・・・さんも・・・。どうしてあんな奴らと一緒に・・・」
それは数分前の事。男達と共に行こうとするお妙の手を掴む人物が居た。
「お妙さん、門下生置いて行くつもりですか?貴女にはこれから色々教えてもらわないと」
お妙「さん・・・。ごめんなさい、後の事は新ちゃんに任せるから貴女はココに居て下さい」
「いくら師範の言葉でも聞けません。門下生は師範と共にあるべきです。だから私も一緒に行きます」
そう言ってお妙と共に車に乗り込む。新八と銀時は唖然とそれを見送る。車に乗り込む直前、銀時と目が合う。それはが始めて銀時に見せる笑顔だった。お妙の事は私が何とかしますとまるで言っている様な----
新八「さん、どうしてあんなに僕達に優しく・・・ってアンタまだ居たんですか!!しかも人んちで、何本格的なクッキングに挑戦してんの!?」
銀時「いや、定期的に甘い物食わねーとダメなんだ俺」
新八「だったらもっとお手軽な物作れや!!」
一体何処に食材があったんだと言いたくなる程、立派な銀時が作っている巨大なケーキ。呑気に話す銀時に、激しいつっこみをする新八。彼のつっこみ人生の始まりはここからだったのかもしれない・・・。
銀時「ねーちゃん追わなくて良いのか」
新八「知らないっスよ、自分で決めて行ったんだから・・・。姉上もやっぱ父上の娘だな、そっくりだ。父上も義理だの人情だの、そんな事ばっか言ってるお人好しでそこをつけ込まれて、友人に借金背負い込まされて野たれ死んだ。どうしてあんなに、皆不器用かな・・・。僕はキレイ事だけ並べて、野たれ死ぬのはゴメンですよ・・・」
父親「どんなに時代が変わろうと、人には忘れちゃなんねーもんがあらァ」
お妙「親が大事にしてた物を子供が護るのに理由なんているの?」
新八「今の時代、そんなの持ったって邪魔なだけだ。僕はもっと器用に生き延びてやる」
銀時「そーかい、でも・・・俺にはとても、お前が器用に何て見えねーけどな」
そう言って新八の話を黙って聞き、ケーキを食べ終えた銀時が立ち上がる。
銀時「侍が動くのに、理屈何ていらねーさ。そこに護りてェもんがあるなら剣を抜きゃいい。姉ちゃんは好きか?」
言われなくとも分かっていた、父親も姉上も自分の意思で護りたい物を護る為に必死で生きてきたんだ。
お妙を護りきれなかった自分に悔しくて涙が零れる新八。銀時の言葉に小さく頷く。
そんな新八にニヤリと笑みを浮かべる銀時。本当にどいつもこいつも不器用な生き方をしている。この姉弟に限らずも・・・。
銀時「別れ際に、あんな笑顔見せられたらほおって何か置けるかっつーの・・・」
最後にが見せた寂しそうな笑顔。それが頭から離れない---
笑顔は笑顔でも、君の本当の笑顔が見たい