その二 逆らってはいけない女(ひと)
出逢ってしまった私達----
男1「ハイハイ!ちょっとどけてェ!!」
ピィーピィーと笛を吹きながら店の外へ走ってくる役人らしき男。
男1「あっ!!居た居た!!お前か、木刀振り回して暴れてる侍は!!」
そう言って少年に走り寄って来る。
男1「おーし、動くなよ!」
男2「オイ、弥七!!中調べろ!!」
少年「ちょっ・・・!待って、違いますって!!」
そう言って店内に入る弥七。少年の話などまったく聞いていない。
弥七「あーあ・・・茶斗蘭星の大使でさァ。こりゃ国際問題になるぜ・・・。偉い事してくれたな」
少年「だから僕は違いますって!!犯人はもうとっくに逃げたの!!アレ・・・?そう言えばあの女性は・・・?」
男2「ハイハイ、犯人は皆そう言うの。言い訳は凶器隠して言いなさいよ・・・。よし、じゃあ調書取るから署まで来て」
そう言って少年の手を引っ張る役人。役人の言っている事が理解出来なくて、己の腰を見れば何時の間にか挿されている血のついた木刀。
少年「・・・アレ?あれェェェェ!?」
江戸の道を軽快に走る1台のバイク。勿論、運転しているのは銀髪の男である。その後ろになぜか女侍も----
???「あ、あの・・・、なぜ私までご一緒しているのでしょうか・・・?あの少年は大丈夫なんでしょうか・・・」
男「あ〜・・・、アイツなら大丈夫だろ。多分・・・。アンタ名前は?」
???「あっ、申し遅れました と申します。銀髪さんのお名前聞いても良いですか・・・?」
男「俺ァ、【坂田 銀時】ってんだ。で、ちゃんが何で後ろに乗っているかと言うと・・・。店で目、合っただろ?」
「あっ・・・。あの時は不躾に見つめてしまってすいませんでした・・・」
銀時「いやいや、別に攻める為に言ったんじゃねェよ?何か気になってさ・・・」
余りにも綺麗な銀髪だったから等とは言える筈も無く、素直に謝るに笑いながら答える銀時。
自分でも、なぜ彼女を連れて来たのか分からなかった。だけど店でと視線が合ったあの時、彼女の綺麗な紫色の瞳にどうしようもなく惹き付けられたんだ----
銀時「あ〜やっぱ駄目だなオイ。糖分取らねーと何かイライラす・・・・」
???「おいィィィィ!!」
急に唸りだした銀時に驚いていると、後ろから物凄い勢いで走りながら叫ぶ先程の少年。
「あっ!お店の!良かった・・・、無事だったんですね。怪我はありませんか?」
少年「あっ、はい・・・。あの時は有難うございました。ってお前!よくも人を身代わりにしてくれたなコノヤロー!!アンタのせいでもう何もかもメチャクチャだァ!!」
銀時「律儀な子だな、木刀返しに来てくれたの?良いよ〜、あげちゃう。どうせ修学旅行で浮かれて買った奴だし」
少年「違うわァァ!!役人からやっとこさ逃げて来たんだよ!!」
「えっ!?」
少年「違うって言ってんのに、侍の話なんて誰も聞きゃしないんだ!!しまいにゃ店長まで僕が下手人だって・・・」
「そ、そんな・・・。私が、私が証言します!君は何もしてないって!」
少年「貴女だけです・・・。そう言ってくれるの」
そう呟いて走りながら涙を浮かべる少年。そんな少年をは不憫で仕方ない。そんな思いとは裏腹に銀時は興味無さそうに言う。
銀時「切られたなそりゃ。レジも打てねェ店員なんて炒飯(チャーハン)作れねェ母ちゃんくらい、いらねーもんな」
少年「アンタ、母親を何だと思ってんだ!!」
「坂田さん・・・。それじゃあ余りに可哀相です・・・」
銀時「ちゃんは優し過ぎんだよ。バイト、クビになったくらいでガタガタうるさ・・・」
少年「今時、侍雇ってくれる所何て無いんだぞ!!明日からどーやって生きていけば良いんだ、チクショー!!」
の優しい言葉とは逆に、厳しい事を少年に言う銀時。そんな銀時に流石にはらわたが煮えくり返ったのだろう、少年は先程銀時が残していった木刀を銀時に振り下ろそうとする。勿論、後ろに居る彼女に当らない様に----
銀時「!!」
激しいブレーキ音がしたと思ったら重力に従い、バイクから振り下ろされそうなのを銀時の背中にしがみ付いては何とか堪える。それと共に鈍い痛そうな音が響く。
「き、急にブレーキ踏んだら危ないですよ坂田さん!あっ、あの男の子は・・・!?」
少年の振り上げた木刀が目に入り、慌ててブレーキを踏んだ銀時。どうやらには当らなかった様でホッとする。しかし自分の背かに当る柔らかい感触・・・。それが彼女の胸だと気づくのに少し時間がかかった。道着の様な格好をしていて気づかなかったが・・・背中にあたる柔らかい面積は大きかった。鼻血を出しそうな己を必死に押さえ、頭を支配する淫らな妄想を振り払うかの様に少年に言う。
銀時「さ、さっきからギャーギャーやかましいんだよ腐れメガネ!!自分だけが不幸と思ってんじゃねェ!!」
先程の急ブレーキで、不運にも股間にダイレクトにめり込んだ銀時のバイク。痛さの余り、銀時の声など半分聞えていない少年に構わず説教を続ける銀時。
銀時「世の中にはなァ、ダンボールをマイホームと呼んで暮らしてる侍も居んだよ!!お前、そーゆーポジティブな生き方出来ねーのか!?」
少年「ッう・・・。アンタ、ポジティブの意味分かってんのか!?」
痛みに必死に耐えながら、負けずと言い返す少年。女のには分からないが相当痛いのだろう・・・。不毛な言い合いをする2人の横を不意に建物から女性が一人出て来た。
???「あら?新ちゃん?」
女性の声に振り向く3人。
女性「こんな所で何をやっているの?お仕事は?」
とても素敵な笑顔で少年に言う女性。そんな女性を見て顔を青くする少年。
新八「げっ!!姉上!!」
銀時「あ・・・、どーも」
「は、初めまして・・・」
なぜ少年の顔が青いのか・・・。その理由は簡単だった----
女性「仕事もせんと何をブラブラしとんじゃワレ!!ボケェェ!!」
新八「ぐふゥ!!」
笑顔の素敵な女性は・・・突如【鬼】と化した。新八を飛び蹴りで吹っ飛ばす。それだけでは足らないのか、新八の上に馬乗りになり容赦なく拳を振り下ろす女性・・・。止めなければとは思うが、とても間に割って入る【勇気】が無い・・・。それくらい恐ろしい。
女性「今月どれだけピンチか、分かってんのかてめーはコラァ!!アンタのチンカスみたいな給料でもウチには必要なんだよ!!」
始め唖然としていた銀時だったが、自分は我返さずと降りていたバイクに再びを乗せ自分も乗る。
新八「まっ、待ってェ姉上!!こんな事になったのはあの男のせいで・・・あー!!待てオイ!!」
銀時「ワリィ、俺夕方からドラマの再放送見たいか・・・」
そう言ってバイクを走らせる銀時、が・・・、世の中そんな甘くない----
銀時「ら・・・」
バイクを走らせ後ろのに話し掛け様と振り向けば、居るはずの彼女が居ない。変わりに鬼と化した女性がニタァと微笑む。
「さ、坂田さん・・・。や、やっぱり逃げるのはいけませんよ・・・」
本能が言っている。この女性には【逆らうな】と・・・。
君の名前を聞いた時から、全ては始まったんだ