貴方の為に出来る事、君の為に出来る事     



その一 出逢い

長い旅路の果てに辿り着いた場所----


男「侍の刀はなァ、鞘に収めるもんじゃねェ。自分(てめー)の魂に収めるもんだ。時代はもう侍なんざ必要ととしてねェがよ、どんなに時代が変わろうと人には忘れちゃならねーもんがあらぁ。たとえ剣を捨てる時が来ても、魂に収めた真っ直ぐな鞘だけは無くすなっ・・・ゲホッ、ガハッ、ゴホッ・・・」


幼い姉弟「父上!!」


男「あぁ・・・。雲一つ無い江戸の空・・・。もう一度見たかったなァ・・・」



【侍の国】
僕らの国がそう呼ばれていたのは今は昔の話----
かつて侍達が仰ぎ夢を馳せた江戸の空は今は、異郷の船が飛び交う。
かつて侍達が肩で風を切り歩いた街には今は、異人がふんぞり返り歩く



「ココが江戸ですか・・・」


と一人の侍が呟く。この物語は、すべてココから始まる----


店長
「だからバカ!おめっ・・・違っ・・・。そうじゃねーよ!そこだよ、そこ!!



外にまで響き渡る男の声。先程江戸に着いた1人の侍は、長旅のせいで乾いた喉を潤そうと偶々目に入った店に入る。


店長「おめっ、いまどきレジ打ち何てチンパンジーでも出来るよ!!オメー、人間じゃん!一年も勤めてんじゃん!何で出来ねーんだよ!!」


少年「す、すいません・・・。剣術しかやって来なかったものですから・・・」


店長「てめェェ、まだ剣ひきずってんのかァ!!」


そう言って少年を殴り飛ばす店の店長らしき男。客が入ってきたのはどうやら気づいていない様だ。


「大丈夫ですか?酷い事を・・・」


そう言って殴られて倒れていた少年に駆け寄り身体を支える侍。少年はやっと客の存在に気づいたのか驚きながら侍を振り向き見る。


少年「えぇ・・・、有難うございます。大丈夫ですから・・・っ!?」


少年は侍にお礼を言いながら、侍の顔を見て息を呑んだ。黒い艶やかな長い髪を高く結い、少し切れ長の綺麗な吸い込まれそうな紫色の瞳。唇は紅を引いていなくとも赤い。容姿の美しさに驚いた少年だったがもっと驚いたのは彼女の服装だった。女性らしい着物とは言いがたい作りの、男の侍が着る様な物。腰には廃刀令のこのご時世、今では珍しくなってしまった刀----


店長「それを何時まで侍気取りですかテメーは!あぁん!ん?これはお客様でしたか、お見苦しい所をお見せしてすいません。ささっ、そいつの事は放っておいてこちらのお席にどうぞ!」


そう言って、女侍の肩に手を置き奥の席に連れて行く。


「えっ、ま、待って下さい。あの子が・・・」


女侍が倒れた少年を気にする中、店長は席に案内してしまう。女侍は仕方なく席に着こうとする。その時、銀色の髪の男と一瞬だけ目が合う。深い紅の瞳に美しい見事な銀髪。女侍は少しの間時間が止まった様な感覚に落ちる。余りマジマジ見ていては失礼だと慌てて視線を逸らし席に着く。丁度銀髪の客の後ろの席だ。


ヒョウ1「オイ、少年。レジは良いから牛乳を頼む」


少年「あ・・・ヘイ!ただいま!」


そんなヒョウの天人に店長が溜息をつきながら言う。


店長「旦那ァ、甘やかしてもらっちゃ困りまさァ・・・」


ヒョウ1「いや、最近の侍を見ていると何だか哀れでなァ・・・。廃刀令で刀を奪われるわ、職を失うわ、ハローワークは失業した浪人で溢れているらしいな」


ヒョウ2「我々がココ(地球)に来たばかりの頃は事あるごとに侍達が突っかかって来たもんだが、こうなると喧嘩友達無くした様で寂しくてな」


そう言って先程注文した牛乳を持ってきた少年の足に自分の足をかける。当然の如く、突然の出来事に受身の取れない少年は激しく転び、銀髪の客のテーブルへ突っ込む。


ヒョウ2
「ついちょっかい出したくなるんだよ



そう言って少年を見て笑う天人達。この光景を見ていた女侍は、少年に対しての余りな理不尽に拳を強く握り締め立ち上がる。


二十年前、突如江戸に舞い降りた異人【天人(あまんと)】。彼等の台頭により侍は弱体化の一歩を辿る。剣も地位ももぎ取られ、誇りも何も僕らは捨て去った----
いや、侍だけじゃない。この国に住まう者はきっと皆もう・・・。


少年の有様に、店長は再び怒鳴り少年の髪を掴み天人に謝る様に言う。


「待ってくださ・・・・っ!」


銀髪の男
「おい



女侍が慌てて少年を庇おうと身を乗り出そうとすれば、それより早く銀髪の男が店長に向かい声をかける。?を浮かべる店長に対して銀髪の男は容赦無い拳を振り上げ、店長を殴り飛ばす。


と少年「っ!?」


ヒョウ2
「なっ、なんだァ!?」


ヒョウ1
「何事だァ!!」


そして、倒れている少年の前に躍り出る銀髪の男。その男の腰を見て驚く少年。


この人も侍!?


ヒョウ1
「なんだ、貴様ァ!!」


ヒョウ2
「廃刀令のご時世に木刀なんぞぶら下げおって!!そこの女もだっ!!」


銀髪の男「ギャーギャー、ギャーギャー、やかましんだよ。発情期ですかコノヤロー・・・。見ろコレ・・・てめーらが騒ぐもんだから俺のチョコレートパフェがお前、コレ・・・。
まるまるこぼれちゃったじゃねーか!!


そう叫ぶや腰に挿していた木刀を天人目掛け振り下ろす。派手に飛んでいく天人。


ヒョウ3
「きっ、貴様ァ、何をするかァァ!!」


ヒョウ2
「我々を誰だと思って・・・!?」


銀髪の男「俺ァなァ!!医者から血糖値高過ぎって言われて・・・、
パフェ何て週一でしか食えねーんだぞ!!


目にも止まらぬ速さで再び木刀を振り下ろす男。残りの2人の天人も床に倒れる。


そいつは侍と言うには余りのも荒々しく、しかしチンピラと言うには余りに・・・。


銀髪の男「店長に言っとけ、味は良かったぜ」


真っ直ぐな目をした男だった----


ふふふっ。あんな事言っていたけどきっとあの少年を庇ったんですよね・・・。江戸には面白い人が居ますよ、【母さん】


長い、長い旅の果てに辿り着いた地【江戸】。この【出逢い】が彼女の運命を大きく変えて行くなんて、この時考えも着かなかった----




あの時、貴方に出逢わなければ・・・。そう思うが居るの