俺の暗闇を照らす光は、お前の笑顔なんだ----
ずっと、ずっと走り続けていた。後ろから迫るのは果てしなく深い【闇】。足元には沢山の屍となった【仲間】達。沢山の天人を殺してきた。沢山の数え切れない仲間達を助けられず失ってきた。大切な恩師と呼べる人までも。果ての見えない殺し合いの日々。荒んでいく自分の心。それなのに必死に刀を振り続ける自分・・・。もう疲れたんだ。天人を殺す事も、仲間を失う怖さを味合うのも。そう思って走り続けていた足をふと止めた。後ろからドンドン迫る闇。もう逃げるのも飽きたんだ・・・。そう思って目を閉じ闇に飲み込まれそうになった時----
温かい、温かい温もりが手を引いてくれた。諦めては駄目ですよ。まだ貴方には護るものがあるじゃないですかとそう言って----
目を覚ませば、いつの間にか日差しが部屋に差し込んでいた。まだ少しふら付く頭を押さえながら上半身だけ起こせば、布団に眠っていた自分。夢に出てきた温もりはどうやら彼女の手だったようだ・・・。
銀時はソファーでを抱きしめた後の記憶が無い。彼女が自分をココまで運んでくれたのだろうか?この華奢な身体で彼女より大きな自分を。布団の上を見れば、先程身体を起こした時に落ちたのだろう濡れたタオル。自分は熱を出していたのか?彼女がココに居ると言う事は、一晩中傍に居てくれたのか・・・。疲れてしまっているのか、自分の布団にもたれる様に眠っている。銀時は起こさない様に彼女を抱き上げ、彼女の寝室へと運んでいった。
彼女の部屋は一番奥の物置になっていた部屋だ。彼女らしく、部屋の中は綺麗に整頓がされており彼女の香りが少しした。温かい安心させる様な銀時の好きな香り。そっと彼女を下ろし押入れから布団を出し彼女を寝かせ、横に座る。頬にかかる髪を避けてやれば少し微笑んだような気がした。夢の中でずっと闇から逃げて走り続けていた。諦めて立ち止まってしまった自分を助けてくれたのは、間違えようも無い【彼女の声】だ。そう、自分には今家族が居るのだ。愛しい女(ひと)が居るのだ。この手で絶対護らねばいけないのだ。もう昔の様にこの手に掴めずに取りこぼしたり等してはいけないのだ。ギュッと拳を握り改め銀時は誓った。
何時の間に寝てしまったのか、目を覚ませばなぜか自分の部屋に居る。銀時の容態が気になって慌てて銀時の寝室へ向かった。
銀時「はよ〜、ちゃん」
「ぎ、銀さん!?具合は!具合はどうなんですか!?」
居間のソファーで何時もの様にジャンプを読んでいる銀時。
銀時「あぁ〜・・・、昨日は悪かったなァ。倒れたの運んでくれたんだろ?重かったよなァ?」
「そ、そんな事は良いんです!熱は、熱は下がったんですか!?」
そう言うと、手を振りこっちに来いと手招きする銀時。疑問に思いながらも素直に言う事を聞く。銀時が座るソファーの隣に行けば、突然の片手を取り、自分の額へと導く。
銀時「口で言うよりこうした方が信じるだろ?もう大丈夫だよ。、有難うな」
そう言うと、突然は座り込んでしまった。そしてポロポロと涙を溢し出す。驚く銀時がどうしたんだ!?と慌てて聞けば安心したんですと答える。
「熱が、中々下がらなくて・・・。銀さんすごく苦しそうで・・・。不安で、心配で仕方なかったんです。本当に良かった」
涙はドンドン酷くなる、そんなを見て最初は驚いていた銀時だったが----
銀時「もう大丈夫だ。本当にごめんな?心配してくれて有難うな」
そう言っての頭に手を乗せる。大きくて、温かくて・・・、どんな言葉よりも安心する大好きな愛しい人の温もり。溢れる涙は中々止まってはくれなかったけれど、はその時、世界で一番綺麗な微笑を銀時に向けた。それは銀時にとって絶対無くしてはいけない【護るべき人】。
銀さんが倒れてから数日が経ったある日。は何時も通り朧に仕事に来ていた。が働き始めた頃、評判だと中々繁盛していた朧。しかし数日前から急に客足が遠のいていた。街の様子も前の賑やかさは無く、今では静かになってしまっていた。
時雨と一緒に奥の居間で一息ついていた時、突然扉が乱暴に開けられた。何事かとが出迎えれば、見た目にも柄の悪い男達が3人。が何時も通りお客に対する様にどんな御用ですか?と尋ねれば時雨を出せとリーダー格であろう男が言った。その声が聞えたのだろう奥から時雨が出てきた。
チンピラ(リーダー)「ようよう、時雨さんよ〜。うちの【社長】から話が言っているはずだぜ?何時までも居座られちゃ困るんだがよ〜」
時雨「先日も申した通り、この店は立ち退くことはしません。返事は変わらないとお伝え下さい・・・」
チンピラA「なぁなぁ、せっかく兄貴や社長が穏便に【話で解決】しようとしてんだぜ?大人しく言うこと聞いたほうが身の為だぜ」
時雨「・・・。何度言われようと、ココは立ち退きません」
チンピラ(リーダー)「くくくっ。後悔するなよ?今日は帰ってやるが次からは容赦しねぇからよ」
そう言うと男達は店を後にした。
「時雨さん・・・。今のお話って・・・?」
時雨「・・・。今の男達は【地上げ屋】よ・・・。何でもこの辺一体、最近天人が買い上げていて近所の人達に立ち退きを要求しているらしいの。ここってターミナルから離れているでしょ?殆ど開発もされてなくて、昔からずっと古い建物が残っているのよ。だから立ち退きを良しとしない人は沢山居るの。だけど・・・、あいつら汚いやり方で次々と立ち退きを要求していって・・・。最近、この辺静かだったの気づいていた?全部そのせいなのよ。貴女を巻き込みたくなくて、今まで言えなかったのだけれど・・・。結局巻き込んでしまったわね・・・。ごめんなさい、さん」
「そんな事が・・・」
それ以上は時雨から聞く事は出来なかった。なぜなら立ち退くと言う言葉を紡いだ時雨の表情は・・・悲しみに満ちていたから。
自分に何か出来る事は無いのだろうか・・・。この世界に来て困っていた自分を助けてくれた時雨。時には厳しかったけれど、が望んでいた技術を根気よく教えてくれた。そんな時雨に少なからず、もう会える事も無いだろう【母の面影】を見ていた。にとって万事屋の神楽や新八や銀時は当然だけど、この世界に来て初めて自分を信じてくれたお妙。時雨もまたのかけがえの無い大切な人になっているのだから・・・。
【護りたい人】、【失いたくない人】。言葉で言う事は酷く簡単だ。だけどいざ、その者達が危険に陥った時自分は本当に護れるのだろうか・・・。この非力な小さな自分に・・・。銀時も【攘夷戦争】の時、自分と同じ思いをしてきたのだろうか?必死に足掻いて、自らを血に染めていっても護りたくても護れなかった人達。雨の中、屍の山の中に佇む彼は一体何を思っていたのだろうか・・・。銀時の苦しみを思うと、胸が苦しくてどうしようもなかった。
あの一件以来、立ち退きを迫るチンピラ達の嫌がらせは後を立たなかった。店の前でたむろしたり、突然店に入ってきて中のお客さん達を脅したり、時々店の物を壊して行く事もあった。時雨は危険だからもう来なくて良いと何度か言ってくれたが、は頑なに「はい」とは言わなかった。苦しんでいる時雨をほおっておけはずがないのだ。
嫌がらせの数々にも屈せず、未だに立ち退こうとしない時雨に痺れをきらしたのだろうか・・・。嫌がらせはドンドンエスカレートしていった。最近では朧に来てくれたお客さん達にも怪我をさせるなどしてきていた。客足はドンドン遠のき、今ではまったく来なくなってしまっていた。
最近、の様子がおかしかった。いつも決してすることの無いようなミスを連発しているのだ。例えば料理の塩と砂糖を間違えたり、俺の愛読書のジャンプを普通の雑誌と間違えて捨ててしまったり、洗剤を入れすぎた洗濯機から泡が大量に溢れ水浸しになったり。そんなの様子に俺だけでなく、新八も神楽も心配していた。何度もどうかしたのか?と尋ねたが返って来るのは、「ボーっとしていて・・・。すいません」と言う言葉ばかりだ。さすがに見かねて、今日は普段中々行く機会が無い朧へ行ってみた----
今日も、お客さんが来る様子は無く時雨と2人で薬の処方をしていた。なぜ、頑なに立ち退きを断ろうとするのかはどうしても尋ねたかった。しかし、悲しそうな顔をする時雨を見るとどうしても尋ねる事は出来なくて・・・。そんな時、扉が開く音がする----
???「おや、お嬢さんまだ働いていたんですね。こんにちわ。」
出迎えると、そこには何時だか時雨を尋ねてきた男性。確か陽炎といったか----
「いらっしゃいませ、時雨さんに御用ですか?それなら今呼んで----」
陽炎「いいえ、お嬢さん今日は貴女にお話があって来たんですよ」
「私に・・・?ですか?」
陽炎「ええ、ここが立ち退きの話になっているのは知っていますよね?地上げ達も来ている筈です。貴女はなぜまだココで働いているんですか?」
「・・・。時雨さんは、私の【恩人】なんです。困っていた私を助けてくれました。そんな時雨さんを一人にするわけにはいきません」
陽炎「・・・。そうですか・・・。時雨がねぇ・・・、人助け・・・。ハハハ!それは傑作だ」
「え・・・?」
陽炎「ふふふっ、すいません何でもないですよ。でも残念ですね・・・。貴女には怪我をさせたくなかったんですが」
そう言うと、後ろから慌しく入ってくる刀を持ったチンピラ達。は状況が上手く飲み込めずに居た。
陽炎「まだ分かりませんか?立ち退きの指示をしていたのは【私】なんですよ」
「っ!?」
陽炎「貴女を傷つければ流石の時雨も、いつまでも強情は通さないでしょう。貴女には悪いですがね・・・。おい、殺さない程度に痛めつけろ」
そう言うと、陽炎の前に立って刀を構えてくる男達。漸く状況が飲み込めたは慌てて店を見回す。そして目に止まった物----
「っっ!?」
そんなに切りかかって来る数人の男達。は咄嗟に横に飛んでかわし、その物を手に掴む。それは随分前に銀時が自分にくれたお揃いの【木刀】。
万事屋に働き始めて少し経った時きた依頼の内容で、騙されてヤクザに取られてしまった家の権利書を取り返して欲しいと泣く泣く依頼に来た人が居た。それを引き受け、万事屋メンバーの4人でヤクザの元に向かえば、もちろん話し合いで済む訳も無く・・・。ドスやら拳銃を出して襲い掛かってきたのだ。さすがにそんな状況が起こると予想していなかったは戦う術(武器)など有る筈も無く。切り傷や擦り傷を作る3人を見ているしか出来なかったのだ。そんなを見て、銀時はお前は戦わなくても良いと言うがが納得するはずも無く、等々泣いてしまった。そんな彼女に銀時が差し出してくれたのは、己が愛用している【洞爺湖】の木刀。自分はストックが有るから気にするなと言い、の頭に手を置いて撫でた。銀時とお揃いと言う事実に、嬉しいような恥ずかしい様な・・・。泣いてしまった自分が情けなかったのを今でもちゃんと覚えている。あの時以来、布の袋に入れて肌身離さず持ち歩いていたのだ。銀時が自分の為にくれた大切な物。
心の中で、銀時にお礼を言い布をはずせば構える。最初は驚いていた男達も、それを見るなりまた切りかかってきた。新八に教わった護る術。今が使う時----
新八は本当にすごいと思う。何ヶ月も剣術を教えてくれていたがは実戦が初めてだった。でも身体が勝手に動いてくれるのだ。新八に教わった練習の成果。幸いにも、刀を持った男達の腕は十分でも戦えるレベルであった。しかし、どれ程呼んできたのだろうか・・・。倒せど倒せど男達の数は減っているようには見えない。戦えるレベルであっても、やはりは女なのだ。酸素を必死に取り込もうとする肺が痛い。木刀を持つ腕も上がらなくなって来てしまった。そんな時、今まで感じられない悪寒がを襲ったのだ。慌ててそちらを振り向けば、目にも止まらぬ速さで繰り出される剣戟----
「くっ!!!?」
何とか避けた物の、首筋に浮かぶ痛み。手で触れてみれば少量の血。気づくのがあと数瞬遅れていたら、首が切り離されていたかもしれない。
陽炎「鬼灯(ホオヅキ)・・・!殺せとは言っていないぞ!」
鬼灯「くっくっく・・・。どうやらお前が連れてきた雑魚共ではこの娘の相手にならぬようでな・・・。久々に骨の有る奴がいたんで、つい手がでちまったよ」
悪寒の正体は間違いなくこの【男】の殺気だろう・・・。赤い髪に、人を射殺しそうな鋭い目。歳は銀時とそう変わらないだろう。そう言うと再び切りかかって来る鬼灯。必死に動きが鈍る身体を動かし避けるが、足が縺れて身体を床に寝かせてしまった。
鬼灯「もう終わりかぁ?くっくっくっ・・・。恨むなら時雨とやらを恨むんだな!」
そう言って振り下ろされる刀。の頭を過ぎるのは、銀時の笑顔----
「っっ!?」
が目を瞑って覚悟をしたが、何時まで経っても痛みはやってこない。不思議に思いながらも目を開けると----
「っっっ!?時雨さぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」
を護るように笑顔を向けて笑う時雨の姿。飛び散る血。崩れていく時雨の身体・・・。慌てて駆け寄り時雨を抱きとめる。
時雨「さん・・・。怪我してない・・・?巻き込んでしまって・・・本当に・・・ごめん・・・なさ・・・い」
「ど、どうしてっ!?どうして庇ったりしたんですかっ!?」
時雨「出会った時から・・・、思ってたの・・・。死なせてしまった・・・、娘にね・・・、貴女が似て・・・、居るのよ・・・。何に対しても・・・、真っ直ぐで、・・・純粋で・・・、笑顔が・・・、笑顔がとても似合ってた・・・、だか・・・、ら・・・、貴女に・・・、怪我・・・、が・・・、無くて・・・、よ・・・、かっ・・・」
陽炎「時雨っ!?」
「し、時雨さん・・・?う、嘘ですよね・・・?目を・・・目を開けて下さいよ・・・。何時もみたいに・・・、笑ってくださいよっ!!」
鬼灯「ちっ、邪魔がはいっちまったな・・・。嬢ちゃん、そんなに悲しいなら同じ場所に送ってやるよ。有り難く思いなっ!」
陽炎「や、やめろっ!!鬼灯!!もう良い!!!」
陽炎の静止も聞かず、再びに向かって振り下ろされる刀。泣き止む事無く、時雨に縋り付く。その時----
???「危機一髪に、ヒーロー参上って所か?、怪我はねェか?」
を寸前で助けてくれたのはココに居るはずの無い、が待ち望んでいた銀色の髪の持ち主----
「ぎ、銀・・・さん・・・」
泣いている。着物の首筋が真っ赤に染まっている。
銀時「を泣かせて・・・、怪我させた代償はでけェぜ・・・?覚悟しろや・・・」

こいつを泣かせる奴は誰であろうと、許しゃしねェ
何よりも【護りたい】と、【失くしたく無いと】と願うけれど・・・。結局何時も護られてしまう自分