傍に居られるだけで・・・  第六訓  初めての食卓   



貴方の笑顔は、私にって生きる意味----



夕飯時と言う事も有り、さっそく何か作らせて頂こうと冷蔵庫を覗かせて貰った。
やはりと言うか、何と言うか。金銭状況が良くない万事屋にとって中身は当然のごとく空に等しく、今まで栄養失調が良く出なかったと感心するばかり。皆お腹を空かせているだろうが、さすがにこの冷蔵庫の状況ではどうにも出来ず買い物を行きたいと伝えた。


「皆さん、お腹空かせているのに申し訳無いのですが・・・、買い物に行かさせて頂いても良いですか?」


神楽「が行くなら私も行くアル!」


と元気に言う神楽ちゃん。


新八「僕もどうせする事無いし一緒に行きますよ」


と新八君までもが。


2人の申し出に笑顔でお礼を言い、3人で玄関に向かえば意外な声が----


銀時「そんじゃあ行くかぁ」


と銀時。まさか着いて来てくれると思わなかったは驚く。


「えっ!?ぎ、銀さんも一緒に行って下さるんですか?」


銀時「ん?俺が行っちゃ〜迷惑?」


「そ、そんなわけありません!嬉しいです!」


願っても無い申し出に、顔を赤くしながらも嬉しくて微笑む。
そんなを見て、銀時は慌てて目を逸らし頭をガシガシかき回す。足早に3人を抜かして階段をさっさと降りてしまった。一瞬だけ見えた銀時の横顔が赤かったなんて気のせいだよね・・・と思う。3人も銀時を追いかけた。


買い物と言えば、【大江戸スーパー】。着いた途端、上機嫌に神楽は猛スピードでお菓子売り場へ行ってしまった。新八も走ったら転ぶよ!と言いながら神楽を追いかけて行ってしまった。そんな2人を見てクスクスと笑う。まるで妹と弟が一辺に出来た様な不思議な温かさ。に家族は両親しか居なかった。小さい頃は兄弟が居る家族が羨ましくて羨ましくて良く両親を困らせた。良く一人のほうが気楽で良いなどと聞くけれど、居ない当人にとってはやはり孤独なのだ。
銀時はどうなのだろうか・・・。の知る限り銀時には家族が居た記憶が無い。大事な人達は居たけれど、今では離れ離れの幼馴染ともう会えない大事な恩師。両親しか居なかったとは言え、銀時の孤独に比べれば自分は幸せなのだ。でも、今はそんな事は無いのだと思う。
2人を自分と同じように優しい眼差しで見送る銀時の瞳には、孤独は感じられない。自分も少しで良いからそんな銀時の孤独を癒せたら良いなと思う。例えそれが【一時】の物だとしても。


「銀さんは行かないんですか?」


銀時「あ〜・・・。アレだよアレ、飯作ってもらうのに何もしない訳にゃいかないから」


「ふふふっ。有難うございます、銀さん」


本当は自分も行きたいのだろう。しかし、女一人では大変だろうと気遣ってくれる銀時の気持ちがとても嬉しかった。本当を言うとは銀時と2人で居ると言う事に緊張して仕方ないのだ。うるさいほどに鳴る鼓動を悟られない様に必死に深呼吸を繰り返した。銀時に悟られるわけにはいかないのだ。が向ける銀時への気持ちを。




新八「こんなに買い込んじゃって大丈夫なんですか?」


と心配げに新八。実際、アレが無いコレが無いと買い足していけば4人の手には袋が3袋づつ。もちろん支払いは持ちだ。夢の声から貰ったお金と朧で働いたお金は殆ど貯金していた。少しでも万事屋の役に立てればとした事だ。住み込みで万事屋に居ることになっても、給料は諦めた方が良いだろう。そう思って朧ではまだ仕事を続けるつもりだった。お妙に話して、時々また剣術も教えて欲しいと願い出れば当然良いわよと快く引き受けてくれた。最初は万事屋に住みたいのだと言うと、お妙は不安がったがも引き下がれず強く願い出れば渋々了承してくれた。
全ては万事屋の皆の為に。そして何よりも銀時の為に。自分はどんなに辛くても、苦しくても良いのだ。この人達の笑顔がある限り、私は出来ることはすべてやろうと思う。それがこの世界に来た自分の【決意】だから。


「大丈夫ですよ。でも3人とも重いですよね?ごめんなさい・・・」


そう言えば何を言っていると、3人に怒られてしまった。はもう万事屋の【一員】だと口々に言われ、変な遠慮は無しだと言ってくれた。零れそうな嬉しい涙を必死に我慢して、万事屋に向かう4人。有難う、有難うと何度も心の中で感謝した。


元々、スーパーからそんなに遠いい訳ではないので万事屋にあっという間に着いてしまった。そこでは大事な事を思い出し、申し訳ないが先に家に帰ってくれと頼む。どうしたんだと問われると、すぐ戻るから待っていて欲しいと言えば渋々了承してくれた。
3人を2階に帰らせて、が向かったのは1階にある【スナックお登勢】。
夜からの営業の為か、忙しいかもしれないと不安に扉を開ければ----


お登勢「悪いがまだ開店じゃないよ」


とお登勢が言った。


「あ、お忙しい所すみません。私、 と申します。今日から万事屋で住み込みで働く事になりましたので、一言ご挨拶に伺いました」


お登勢「おや、随分礼儀のなっている子だね。銀時から聞いてるかもしれないけど、私はここのママの【お登勢】って言うんだ。何か困った事があったら言いな」


と、笑顔を向けて言ってくれた。


「あ、有難うございます!よろしくお願いします!あ、あの・・・、それで言いにくいのですが・・・。」


お登勢「何だい?遠慮せず言いな」


「は、はい。ぎ、銀さんに少し聞いたんですけど家賃の方はお支払い出来ているのかなっと・・・」


お登勢「何だい、アイツはそんな事までアンタに言ってるのかい?まったくしょうがない馬鹿だねぇ。勿論出来てないよ」


「そうなんですか・・・。あ、あのこれで足りますでしょうか?」


そう言うと懐から封筒を出す。お登勢が受け取り驚いた顔を向ける。


お登勢「アンタ、正気かい?あんな天パーの為に何でそこまでするんだい」


「確かに私は今日働く事になったばかりですけど、万事屋の皆は私の【大切な人達】なんです。だから私が出来る事はしたいんです!」


お登勢「アンタもとんだお人よしだねぇ・・・。わかったよ、受け取っておく。だがコレは受け取ってもらうよ」


そう言えば封筒に入っていたお札を数枚引き出し、へと渡すお登勢。


お登勢「それは私からの就職祝いだよ。受け取んな」


「お登勢さん・・・。有難うございます。あとこの事は皆には・・・。」


お登勢「分かってるよ、黙っとくから安心しな」


何だかんだ言いながらも、万事屋には甘いお登勢。何度も何度も頭を下げてお礼を言ったは、皆の待つ2階へ向かった。


お登勢「居るんだろ?いい加減出てきな」


銀時「あれ?バレてたの?」


お登勢「見損なうんじゃないよ。良い子だね、真っ直ぐで」


銀時「あぁ・・・」


お登勢「大事にしてやんなよ。泣かせたらただじゃおかないよ!」


銀時「ババァに言われなくてもそのつもりだっつ〜の」


そう言うとを追って万事屋に向かった銀時。
また荷物がふえちまったなァ〜・・・。重ェなチキショー。
外はいつの間にか夜の帳を降ろしていた。上を見上げれば美しい満月が・・・。に惹かれ始めている銀時。銀時を想いながらもけして伝えようとしない。満月が優しく2人を照らしていた。



「ただいま戻りました〜!待たせてしまってごめんなさい!」


と声をかければ----


銀時「もどったぞォ〜」


と後ろから銀時の声が。


「えっ?あれ?銀さん先に帰ったんじゃ・・・?」


神楽「お帰りアル〜!遅かったヨ〜!お腹と背中が空きすぎてくっついちゃうヨ!」


新八「お帰りなさいさん」


「あっ、本当にごめんね!急いで作りますから!」


そう言うとは慌てて草履を脱いで台所に向かおうとすると----
頭に乗った大きな暖かい手。


銀時「、ありがとうな」


そう言ってより早くブーツを脱いだ銀時が居間に向かって歩いてしまった。
何の事か分からないは銀時に聞こうとするも、神楽の声によって遮られてしまった。


神楽「、今から何を作るアルか?」


「え?あ、うんとですね〜、今日は【ハンバーグ】を作ろうかと思います!皆さん食べられますか?」


神楽「キャッホォォ〜〜!!!3ヶ月ぶりの肉アル!肉が食べられるアル!」


と大げさに喜ぶ神楽。その横で


新八「神楽ちゃん、恥ずかしいから!ものすごく僕ら惨めな気になるからっ!」


と新八。そんな会話をはクスクス笑いながら台所へ向かう。


新八「あ、さん僕も手伝いますよ!」


神楽「私も手伝うアル!」


2人の言葉にお礼を言い、和やかな雰囲気のまま3人で台所へ。そんな3人を見ながら銀時は、自分にもし伴侶が出来ればあんな感じなのか〜っとガラにも無く思い一人顔を赤くしながら慌ててジャンプを手に取った。


どれくらい経っただろう、台所から良い匂いが漂い始めテーブルには所狭しと料理の数々が並べられていく。余りの料理の張り切りように目を輝かす神楽と新八と銀時。昼から何も食べていなかったせいで空腹も限界だった。頂きます!と声を揃えて言えば恐ろしい速さで平らげていく3人。3人のあまりの速さに言葉が紡げないだったが、涙を流して美味しいと言ってくれた3人に対してホッとした。新八から一通りの料理は習ったが、正直皆の口に合うのか不安で不安で仕方なかった。でも3人の様子を見て大丈夫そうだとも食べ始めた。


大量にあった料理の数々は、あっという間に食べつくされ気づけばもう時間も大分経っていた。新八は恒道館に帰りますと先ほど帰っていった。神楽も今はお風呂に入っている。今がチャンスだと、声をかける。


「あ、あの・・・銀さんもうお腹一杯ですか?」


銀時「ん?あ〜・・・一杯ちゃあ一杯何だけどよ・・・。どうかしたのか?」


「あ、えっと・・・。今日買い物に行った時、手伝ってもらっちゃって銀さん欲しい物買えなかったんじゃないかってコレを・・・」


そう言って差し出されたのは苺のゼリー。行き成り差し出された甘味に驚いて目を見開く銀時。糖尿の危険があるからと気にして甘さ控えめのゼリーを作ってみた。お腹が一杯ならと差し出したゼリーを下げようとすると、ヒョイッとすごい速さでお皿を奪われた。無言で口に入れていく。食べてくれた嬉しさと、何も言葉を発しない銀時に対して不安が横切ったが、それも杞憂に終わった。


銀時「これ、が作ってくれたの?銀さんの為にわざわざ?」


「は、はい・・・。甘さが控えめなんで銀さんの口には合わないかもしれないんですけど・・・」


銀時「すんげぇ美味い。また銀さんの為に作ってくれる?」


「は、はい!!」


銀時が向けてくれた笑顔と言葉。嬉しくて、嬉しくて・・・。最近涙腺が弱いのかと思う。溢れ出し始めた涙を必死に収めて笑顔で答えた。
この笑顔があるなら、私はこれ以上何も望みません。神楽ちゃんが居て、新八君が居て・・・、そして銀さんが居ればもう何もいりません。だから、だからどうか・・・、神様この幸せが来るべく【時】まで続きます様にとは祈った。







最後の
まで、貴方の笑顔を見ていたい