| 傍に居られるだけで・・・ 第五訓 人を好きになると言う事 |
何よりも、温かいこの場所----
振り向かなくても分かる。ずっと、ずっと聞けるはずが無かった声。
どんなに傍に行けたらと願っただろう。どんなに貴方の居ない世界が苦しかっただろう。眠る度、どんなにせめて夢の中ででも逢えます様にと祈っただろう。別に、相手と両思いになりたいなんて望んでいるわけでは無いんです。ただ、【傍に居られるだけで】良いんです。
自分がしてあげられる事なんて本当に小さな物だけど、少しでも大切な、大好きな人の為に何かをしてあげたいとそんな想い。
心臓の鼓動は、今までに無い位脈を打ち続けて私の耳からすべての音が消えていた。あの人の【声】意外は。
銀時「あれ?お姉さんどちらさん?」
自分に聞かれている事を、最初は理解できなくて数秒、いや数分したかもしれない。慌てて振り向けば----
銀時「っっっ!?あれ、ちょっとおぉぉぉ!?お姉さん何で泣いちゃってんのぉ!?」
「えっ・・・・?」
言われた事が理解できなくて、頬に手を持っていってみる。そこには静かに流れた涙。
「ご、ごめんなさい!ちょっと目にゴミが入っちゃったみたいでっ!」
慌てて、着物の裾で涙を拭けば奥から新八がようやく奥から戻ってきた。
新八「う〜ん、銀さんに神楽ちゃん一体何処にいちゃったんだろう・・・って銀さん!?」
銀時「お、おぉ。苺牛乳が切れちまってよぉ〜コンビにまで行ってたわけよ。神楽は定春の散歩に行ったぞぉ〜。で、この綺麗なお姉さんどちらさん?」
新八「あ、前に言ったじゃないですか。恒道館の門下生兼住み込みで来た方が居るって。この方がそうですよ」
「あ・・・申し遅れしました。 って言います」
銀時「ご丁寧にどうも。俺ぁ万事屋オーナーの坂田銀時って言います〜。」
新八「銀さん!さんはどうやら依頼があってココに来たみたいですよ!」
銀時「あ、そうなの?」
「は、はい・・・」
そう言うと、新八はお茶を汲んできますと台所へ行き銀時はを黒いソファーに座るように促し自分も向かい合う形で座る。
銀時「で、依頼ってぇのどんな?」
いざ、勇気を出して来てしまったが・・・緊張して上手い具合に言葉が紡げない。見るからにガチガチに緊張してしまったを見かねたのか、銀時は安心させるように声を和らげて言った。
銀時「ちゃんだっけ?何をそんなに緊張してんのかしらねぇけど、ゆっくりで良いから銀さんに話してみな」
不思議・・・。この人が言うと安心が出来る。うるさい位に鳴っている心臓は落ち着くことは無いけれど、やっと緊張がすこし解けてきた。
「わ、私を・・・、私を万事屋で住み込みで働かせて頂けませんか!!!」
神楽も定春と出かけ、今日も愛読書のジャンプを読もうと机の上に手を出したが、喉も渇いたなっと冷蔵庫から苺牛乳を取り出そうとすれば中身は殆ど空だった。
銀時「ちっ、神楽の奴また人の苺牛乳飲みやがったな!おい、新八!苺牛乳・・・。あ、あいつ3ヶ月くらい前から少し来るの遅れるとか言ってたっけなぁ〜。しょうがねぇ、自分で買いに行きますかっと」
そう思い近くのコンビニに足を向け、目当ての物を手に入れご機嫌に万事屋に戻れば----
玄関には、新八の草履。そこに綺麗に並べられた見慣れない草履も。中に入って新八に声を掛けてみれば、長い黒髪を頭の上部に結び流れる様に腰まで伸びた美しい髪。横顔しか見えないがキリッっとしていても女性らしい綺麗な顔立ち。新八と同様の上着に黒い袴だが華奢な体には良く似合っていた。銀時の声に気づいたのだろう、横を向けていた顔をこちらに向ければ静かに流れる涙。自分が泣かしたのかと慌てて声をかければ、そうではないと返ってきた。どこか腑に落ちない気持ちを押し込め、戻って来た新八に聞けば依頼人だと言う。それならと、ソファーに彼女を導けばどうやら相当緊張しているらしく中々言葉の先が返ってこない。見た所、歳は自分より下だろう新八より年上だと思う。横顔からだけでは分からなかったが、キリッとした面立ちに優しい雰囲気を醸し出す美しい女性だった。
ガチガチに固まる彼女が可哀想で、優しく問いかけてみれば、ようやく言葉を紡いでくれた。その依頼が、これからの自分と彼女の未来を大きく変えるなんて思っても居なかったけれど・・・。
新八「ちょっ!?さん本気ですか!?」
お茶をお盆に載せ、居間に戻って来た新八が言った第一声。そんな事を言うとは思わず、3人分のお茶が少し零れ手前に座っていた銀時に少しかかってしまったのは、この際気にしない。
銀時「あっっっうううう!?ちょ!!!新八、銀さんにお茶かかってるから!!いくら銀さんでも火傷するからっっ!!」
入れたてのお茶は相当熱かったのだろう、少し大げさに熱がる銀時とそれを気にせずに詰め寄る新八。
彼女が言った言葉でシ〜ンと静まり返ってしまった雰囲気が一気に解け出す。
「ぷっ・・・ふふふ・・・あははははっ」
そんな2人のやり取りが、少し羨ましくて楽しくて・・・、はこの世界に来て始めて大笑いをした。病室で見ていた万事屋や真選組、江戸の人達とのやりとり。自分は死ぬまで病院から抜けられる事は無いだろうと分かっていたけれど、そんな暗い気持ちをいつも楽にしてくれていた。
突然笑い出したに目を向け固まる男2人。その笑顔に見惚れていたなんてもちろんが知る由は無い。
ようやく収まってきたのか涙を浮かべて笑っていた彼女を見て、銀時が声をかけた。
銀時「そ、そういえばよぉ、うちで住み込みで働きたいって言うのは何か理由があんのかい?」
理由・・・、全て話すべきかと迷う。何せ【別の世界から貴方が好きでやって来ました】などど言える筈も無く・・・。行き成り別の世界から来たと言って信じて貰えるかも分からない。信じて貰えなかったらどうしよう、もしココに居られなかったら?最悪の考えが浮かんできては顔を俯けて黙ってしまった。そんな空気を壊すかの様に玄関から音がした。
神楽「ただいまアル〜!今日は公園の下僕共から沢山【酢昆布】巻き上げたヨ!」
新八「お帰りって神楽ちゃん!それ犯罪だから!警察捕まっちゃうからっ!!」
神楽「何を言うダメガネ!下僕が主人に物を貢ぐのは当然アル!そんな事もしらねぇのかメガネ」
新八「眼鏡関係ねぇだろおおおお!?しかもさらっと標準語つかってんじゃねぇぇぇぇぇぇ!?」
相変わらず、可愛いくせして言うことは辛辣な神楽に鋭いツッコミを惜しげも無くさらしている新八。あまりのテンポの良さにただただ、2人を見つめていたにようやく気づく神楽。
神楽「誰アル?この綺麗なお姉さん」
新八「あ、この人が前に言ってた恒道館の門下生兼住み込みで来たさんだよ」
そう言うと、神楽はとたんに顔を輝かせての傍に駆け込んできた。
神楽「姉御から聞いてるアル!綺麗で優しい女の人が住み込みで居るって!料理も美味しいって言ってたアル!ずっと会って見たかったヨ!」
行き成りの事に驚く。しかし、こんなにも純粋に会いたいと思ってくれた神楽に嬉しくなり
「って言うの。神楽ちゃんよろしくね」
っと優しく微笑で笑顔を向ければ、顔を赤くした神楽が「マミー!」と言いながら抱きついて来た。
ようやく大人しくなった神楽をの隣に座らせ、今までの経緯を新八が話せば
神楽「理由なんてどうでも良いアル!美味しいご飯作れる人に悪い人は居ないアル!私、と一緒に住みたいアル!」
理由が理由だけに少し飽きれてしまうが、何も聞かずに純粋に一緒に居たいと言ってくれた神楽に嬉しくなり、感謝の気持ちをこめては神楽を抱きしめた。
私に生きる楽しみ、死ぬ絶望から救ってくれたのは彼等だ。そんな返しても返しきれないような沢山の物をくれた彼等に隠し事何てするべきではない。例え、信じてもらえなくても、例え、傍に居られなくても【出逢えた奇跡】は無くならないのだから。神楽から勇気を貰ったは伝える覚悟をした。
「私は・・・、私は小さい頃病にかかってしまったんです。その病気は原因不明で今の技術では治せないと言われました。抗体の低くなってしまう体の為、外に出ることは許されずビニールに囲まれた病室のベットの上だけが私の20年間の世界でした」
そこで、銀魂に出会った事。登場人物が大好きになった事。銀時に特別な想いを抱いている事は言わなかった。
そしてある日突然出会った夢の人物の事。その人物に頼んでこの世界に連れて来て貰った事。銀時を想って傍に居たいとは言えなかったから、大好きな万事屋のメンバーに会ってみたかったとそこだけ嘘をついてしまった。この世界に居られる時間は【一年】しか無いとも言わなかった。そんな事を言ってしまえば、きっとこの優しい人達は悲しんでくれるだろう。限られた時間しか無いのなら、最後まで笑っていて欲しいと思う。だから伏せた。
今まであった出来事を話すには大分時間が経ってしまったらしい。昼頃来た万事屋の窓から見える外の景色はオレンジ色に染まっていた。
万事屋メンバーからの反応は無い。も本当は話したは良かったけど、内心では不安で不安で堪らなかった。皆の顔を見るのが怖くて下を向いて俯いていれば----
不意に感じた手と腰と頭に感じた温かい感触。俯けていた顔を上げてみれば、神楽が腰に抱きついていた。手は新八が。頭には大きな銀時の手が。
神楽「私は信じるアルヨ。沢山、沢山苦しかったんだヨネ。ココに居れば楽しいアル!」
新八「僕は3ヶ月間さんを見てきて、さんの人柄も優しさも良く知ってます。だから嘘をつく様な人じゃないって分かってます。だから僕はさんを信じますよ」
と、笑顔で言ってくれる神楽と新八。
銀時「そういやぁ、腹へらね?ちゃんが作る料理食べてみたいなぁ〜」
と口の端を吊り上げて笑う銀時。
新八「まったく・・・。素直じゃないんだから」
銀時「ん?新八くぅ〜ん、何か言った〜?」
新八「いえ何も。さん改めてこれからよろしくお願いしますね!」
「み、皆さん・・・」
今まで本当は寂しかった。両親も友達も主治医も、優しくしてくれたけど何処か距離を置いていかれてた。それはきっと同情によるものだと・・・。純粋に信じてくれた3人に・・・、お妙や時雨も。この世界は本当に温かい。溢れそうになる涙を何とか堪えて精一杯の笑顔を今、彼等に贈ろう。
感謝と共に皆へ幸せを