ずっと聞きたかった、貴方の声----
無事に仕事も見つけられ、気づけば夕方。
お妙には仕事を探しに行くとは伝えてあるが、遅くなりすぎても心配を掛けさせてしまうかもしれない。少し足早に恒道館に向かった。
急いで、帰ってみれば中から何やら良い匂いがする。お妙の料理の腕は知っているのであえてその考えは打ち払った。しかし、もしかしたらと言う事もある。恐る恐る居間に向かってみれば----
お妙「あら、さんお帰りなさい」
居間で食器を並べているお妙の姿が。どうやら最悪の事態は避けられた様だ。
「遅くなってすいませんでした。これは一体・・・?」
テーブルの上を良く見れば、何かのお祝いだろうか豪勢な料理が並んでいる。暦の上では12月の初め。ここに住んでいる姉弟の誕生日ではないはずだ。
???「あ、お帰りなさい!貴女が姉上の言っていたさんですね!僕は弟の新八です!」
台所から顔を出したのは、万事屋の従業員の新八君。笑った顔はやはり姉弟なのだろう、とてもお妙に似て素敵な笑顔で迎えてくれた。
お妙「ふふふっ、貴女の歓迎会じゃないの。これから家族同然になるのだから祝うのは当然でしょ?」
「!?」
新八「昼頃、突然万事屋に姉上から電話があって今日から門下生として住み込みで来ることになった方が居るからって、急いで作ったんですよ」
物心付く頃には病室に居て・・・自分の誕生日でさえ祝ってもらった記憶が無かった。ましてや、自分の為に料理を作ってくれる人など今まで一度も無かった。嬉しかった・・・自分の為に開いてくれた歓迎会。こんなにも、こんなにも温かく優しい人達。
「ありがとっ・・・有難う・・・ござい・・・ます・・・」
嬉しくて、嬉しくて流れた涙。新八君は一体どうしたのかとオロオロするしお妙さんは、優しく微笑むばかりで・・・。
「お妙さん・・・、新八君・・・、これからお世話になります!よろしくお願いしますねっ!」
言葉では表せない程の有難うと、嬉しさを思い切り込めては笑顔で言った。
暫く、3人で食事を楽しんでいると----
お妙「あら、もうこんな時間だわ!私そろそろ仕事に行かないと」
新八「あ、姉上送って行きましょうか?だいぶ外も暗いですし・・・」
お妙「私なら大丈夫よ。新ちゃんはさんと居てあげて」
そう微笑むとお妙は仕事に向かってしまった。食事も丁度終わり、片付けを始めた新八に私も手伝わせて欲しいと言えば快く受けてくれた。新八君が食器を洗い、私がそれを水拭きしていく。
「新八君、今日は本当に有難うございます!お料理一人で大変だったでしょ?お仕事も途中で抜け出して来たんじゃないですか?」
新八「どう致しまして、料理は姉上に任せると大変な事になるので(笑)仕事は万事屋って言って、まぁいわゆる【何でも屋】何ですけど依頼のある方が少なくて・・・。だから気にしないで下さい」
「そ、そうなんですかっ!万事屋さんで働いてるんですね。・・・ほ、他にどんな方が居るんですか?」
名前を出した訳でもないのに、心臓はドキドキと波打つ。自分を磨くまではあの人とは逢わないと誓っておきながら、やはり気になってしまう自分が悲しい。
新八「えっと僕を含めて3人でやっているんですけど、一人が【神楽】ちゃんて言って僕より年下の女の子なんですけど色々な意味ですごい子で」
「へ、へ〜女の子も居るんだ!」
新八「はい、あと万事屋のオーナーの【銀さん】が居ます。いつもダラダラしてて良い歳した大人が情けないんですよ----」
新八君から聞いた【銀さん】と言う言葉を聞いただけで波打っていた心臓は痛いくらいに鼓動を早めた。新八君が色々説明してくれているけど、とても今の私には聞こえなかった。
新八「さん?さん大丈夫ですか??」
突然言葉を止めた私を心配してか、新八君が私の顔を覗き込んでくる。
「ご、ごめんなさい!だ、大丈夫!少しだけぼ〜っとしてただけですから!」
新八「そうですか?具合悪いときは言ってくださいね?」
「ごめんなさい、本当に大丈夫です」
そう笑って言えば、納得してくれたのか笑って返してくれた。心配をかけてしまった新八君に申し訳ない気持ちで一杯になる。銀さんの名前が出て慌ててしまっていたなどと言える筈も無く、心の中で「ごめんなさい」と何度も謝った。
「あのね・・・新八君にお願いがあるんです」
新八「何ですか?僕に出来る事なら言ってください」
「じ、実は・・・、は、恥ずかしいんですけど・・・、私に・・・、私に料理を教えて欲しいんです!」
新八「あはは、そんな事で良いんですか?それならお安い御用ですよ」
「本当に!?有難うございます!」
まさかこんなにあっさり聞いてもらえるとは思ってもいず、嬉しさで明一杯笑顔で感謝した。
新八「っっっ!?」
「あれ?新八君どうかしましたか?顔がどうやら赤いようなんですが・・・」
新八「き、気のせいですよ!あ!食器の片付け終わりましたねっ!僕、お風呂沸かしています!」
そう、慌てて言うと新八は行ってしまった。
普段は凛々しい感じの女性なのに、あんなに無邪気に笑うなんて・・・嬉し泣きしていた時の笑顔はこちらまで癒してくれる様な笑顔だったけれど無邪気な笑顔も素敵だったな・・・。
何て新八が思っているとは少しも気づかないでした。
銀魂の世界に来て3ヶ月が経った。
午前の時間は新八に剣術を教わり、その後朧に仕事に行く。仕事から帰ったら新八に料理を兼ねた家事を教わる等して、時間は瞬く間に過ぎて行った。朧で働き始めて分かった事が、最初尋ねる時にお妙が[診療所]と言ってた理由だがどうやら間違いでは無いらしい。と、言うのも時雨は朧を始める前は優秀な医者だったらしく薬局店を営みながらも尋ねてくる患者の診察をするなどしていた。
時雨の優しい雰囲気もあるのだろうが、街では腕が良いと評判も良くに丁寧に仕事を教えてくれ、元々覚えの良いはそう時間が経たない内から簡単な仕事を任せてもらえるまでになった。
剣術の方は、元々あまり戦いを好む性格ではない為目覚ましい進歩はしなかった物の新八から時々1本取れるくらいには成長した。家事も新八が丁寧に教えてくれ、今では恒道館の家事は殆ど任せてもらえるようになった。
約束の時まであと【一年】・・・少しは自分を磨けたと思う。3ヶ月の間は只ひたすら頑張った。少しでも早くあの人に逢えに行ける様に・・・。
今朝もいつも通り、道場に新八君と向かい私は思い切って新八君に尋ねてみた。
「新八君、今日お仕事行く時に・・・私も一緒に万事屋さんに行ってはいけませんか・・・?」
新八「あ、別に構いませんよ?さん何か依頼でもあるんですか?」
「は、はい」
それきり言葉を閉ざしてしまう。新八はそんな彼女を見てきっと何か言いにくいことがあるのだろうと思い。深く追求する事は無かった。
稽古を早々に終え、一緒に万事屋に向かう。あれきり、中々話そうとしないを気にしていた新八だったが行けば理由が聞けるのだろうと歩き出した。
電車に乗り、いくつか駅を越し歩きなれた歌舞伎町の万事屋に向かう。そうかからない内に見慣れた建物が見えてくる。
新八「さん、着きましたよ。ここが僕の働いている万事屋です」
そう声を掛けられ、下に向けていた視線を上げてみればずっと来たかった万事屋が見えた。
「ここが万事屋さん・・・」
そう呟くを促し、階段を登る。いつも鍵の掛けられていない扉を開けて中に入る。
新八「こんにちわー、銀さん、神楽ちゃん今日はお客さんが一緒に来てますよ!」
っと新八が言う。しかし、いつもダルそうに返って来る返事が今日は無い。
新八「あれ?2人とも居ないのかな・・・。僕ちょっと奥見てきますね」
そう言うと、居間に通したを置いて奥に行ってしまった。うるさく騒ぐ心臓を落ち着けようと深呼吸を何度かし、改めて部屋の中を見てみる。黒い来客用のソファーが2つ。その奥には銀時が普段愛用している仕事机がある。机の上には愛読書の【少年ジャンプ】。この部屋でもっとも目立つ掛軸の【糖分】と言う文字。あまりにも想像通りでは硬い表情を崩しふふふっと笑った。その時----
???「銀さんが帰ぇったぞ〜、お、新八来てんのかぁ〜?」
後ろからふと聞こえた声。逢いたくて・・・逢いたくて仕方なかった人の声---
聞こえたのは愛しい人の声