届かない、伸ばした手と言葉----
息苦しくて自分が漸く呼吸をする事を忘れていたのだと気付く。深呼吸して空気を肺に取り入れ様としているのに息苦しさは一向に無くならなくて・・・。私の瞳を射抜く紅い瞳から逸らせない。吹く風が桜を揺らす音や虫の音など周りにある音が全て消えているのに、自分の鼓動だけはうるさい位に鳴り響いてるのだけが分かる。
銀さんが私を好き・・・?家族として・・・?でも彼の切ない瞳は家族に向けるそれとは明らかに違う。切ない瞳に含まれる【熱】。どんなに自分の事に鈍い私でも分かってしまう。恋焦がれ溢れる愛しい気持ち。それはが銀時に向けていたものとまったく同じだったから・・・。どんなに隠して心の奥底に押し込めても私は願っていた、銀時に好かれたい、銀時の為に綺麗になりたい、自分を家族としてではなく一人の【女】として見て貰いたいと。消えるその時まで、貴方の傍にただ居られれば良いと思っていた、言い聞かせてきた。けれど、けれど・・・。この私の想いを貴方に告げても良いでしょうか?例え、永遠の別れが2人に待っていても貴方を好きなのですと別れる時が来る【その時】まで----
「わた・・・、し・・・、は・・・」
その時だった、耳を塞ぎたくなる様な大きな音でのその先の声は消されていた。音が戻った世界でスローモーションの様に真っ赤な赤い色がの視界を覆って銀時が後ろに倒れていく。
「銀さん・・・?」
倒れ落ちようとする銀時の手を掴もうと手を伸ばした時、その手を誰かが掴みの体は何者かに羽交い絞めにされた。
???「くっくっく・・・。せっかく負わせた傷癒されたら困るんでね」
「っっっ!?」
一体何が起きたのかは分からない。けれどさっきまで目の前に居た銀時が倒れ、が贈った紺色の浴衣は真っ赤な血で染まっていた。
銀時「て・・・、テメーは・・・、高杉っ・・・!」
咳き込みながら血を吐き出す銀時。どうやら先ほど聞こえた大きな音は銃声だったようだ。辛うじて急所は外れているが大量の血が浴衣を染め手足が思う様に動かない。けれどを羽交い絞めにしている男、高杉 晋助を睨み付ける。
高杉「久しぶりだなァ銀時。俺は前に言ったはずだぜ?『・・・、お前のその【力】必ず手に入れる。その時までせいぜい【家族ごっこ】を楽しむんだなァ』ってなァ。約束通りコイツは貰って行く」
銀時「待てよっ・・・。俺がっ・・・、指を咥えて・・・、をっ・・・、連れて行かせると・・・、思うかっ・・・!?」
血が抜けて手足に力が入らない筈なのに、銀時は立ち上がろうとする。
「銀さんっ・・・!銀さん・・・!動かないで下さいっ・・・!それ以上血を流せば・・・!!」
銀時に駆け寄ろうと必死に高杉の手を振り解こうとするが、びくともしない。早く癒さなきゃいけない、【力】を使わなければ・・・。あれ以上血を流せば本当に銀時が死んでしまう。しかしの悲痛な叫びも空しく銀時は立ち上がった。立たないで欲しい、私はどうなったって構わないから・・・。銀時が傷つくのをこれ以上見たくないのに・・・。けれどそんなの願いも空しく再び鳴り響く大きな音。銀時の肩と腹部を更に赤い血が舞う。
「もうっ・・・!!もう止めて下さい・・・!!行きますから・・・!一緒に行きますからっ・・・!お願いしますっ・・・!!」
高杉「・・・。行くぞ」
引っ張られる様に腕を引かれ高杉に手を引っ張られる。
「銀さんっ・・・、銀さんっ・・・」
大粒の涙を流しながら何度も何度も銀時の名前を呼ぶ。霞んで行く銀時の視界に最後に映ったのはの泣き顔だった・・・。
銀時「っ・・・」
伸ばした手と紡いだ銀時の言葉はに届く事は無く、銀時の意識はそこで闇に飲み込まれて行った----
夢を見ていた穏やかな万事屋の一室に新八と神楽と定春。そして。彼女が作った食事を皆で囲み、恒例行事の如く、神楽とおかずを取り合う俺。そんな俺達を見て幸せそうに笑う。「まだまだお替りありますから、取り合わないで下さい」と言えば、おかずの争奪を巡って取っ組み合いをしていた俺と神楽は、一時休戦してすごい勢いで食べ始める。今度は【お替り】を巡っての戦いだ。そんな俺達を見てクスクス笑いながらは隣に居る銀時の傍に寄る。彼女から香る温かくて良い香りが俺の鼻孔をくすぐる。俺の頬に手を伸ばして頬についたご飯粒を拭ってくれた。その行動に驚いた俺は、食べるのも忘れていた。拭ったご飯粒を暫くは見つめて、意を決したように口に放り込んだ。その光景に新八と神楽と定春さえ食事の手を休めて唖然としていた。何を隠そう、一番驚いているのは俺なんだけど・・・。顔が徐々に熱を持つのが分かる。気付かれない様に慌てて食事を再開させるが、味なんてもう分からなかった。
そんな何でもない日常。小さな事で驚いたり幸せを感じたり・・・。そんな穏やかな日常が何より愛しくて、大切で・・・。失くしたくないと望んだ。だから決めたんだ、この大切な日常を彩る君を護ると----
目を開けると見慣れた万事屋の自室の天井が視界に入る。二、三度瞬きをして起き上がろうと体を起こすと全身を襲う激しい痛み。
銀時「うぁっ・・・」
新八「銀さん!気が付いたんですかっ!?」
銀時の声に気づいたのだろう、隣の居間から新八が血相を変えて飛び込んで来た。その後ろに神楽も居る。
神楽「銀ちゃん!起きたアルか!?」
俺の布団を囲んで横たわっている俺を心配そうに見下ろす2人。
???「良かった、気付かれましたか」
遅れて入って来た穏やかな声に目を向けると、そこには陽炎が居た。
陽炎「驚きました、血だらけの貴方を神楽ちゃんと新八君が朧に運んで来た時は・・・」
新八と共に、から貰ったお小遣いで屋台を食べ歩いていると神楽の夜兎としての超人的な聴覚が、何度かの銃声を聞き取った。嫌な予感がして、新八と共に音のした方角に向かえば血を流して倒れている意識の無い銀時。弱々しい銀時の呼吸に、一番最初に頭を過ぎったのがが勤めている薬店兼診療所の朧の存在だ。なぜか血だらけに倒れる銀時と一緒に居たはずのの姿が無いのが気がかりだったけれど、時は一刻を争う状態だったのだ・・・。
陽炎「肩と腹部は弾が貫通していて、幸い内臓にも損傷を与えていなかったので安静にしていれば大丈夫でしょう。けれど胸部の傷はこれが無かったら危なかったでしょうね・・・」
そう言って陽炎が銀時の傍に腰掛けると見せた【ある物】。
銀時「・・・」
陽炎の手に乗せられた蒼色の【お守り】。無残に銃跡で穴が開いていた。そして粉々に砕けていた【貝殻】。
陽炎「胸部を襲った弾は、明らかに心臓を狙っていました。けれど運が良かったんですよ、坂田さん。この貝殻が僅かだけど弾の軌道をずらして致命傷には至らなかったのでしょう・・・」
時は少し遡り、波に飲み込まれ冷えた体を温めようと如月自慢の温泉に入ろうと、が濡れた着物を脱ごうとした時床に落ちた硬い物体。拾い上げてみると二枚の虹色の貝殻。神楽がくれた貝より僅かに大きく明らかに同じものではない。『本当に大切な者と共に居たいと願う者が男と人魚が出逢った場所に行くと見つける事が出来る貝殻。その貝殻の上蓋を自分が下蓋を共に居たいと願う者に送ると、2人はずっと一緒に居られると----』確かに銀時はにとって大切な人だ。けれどこの想いは伝える事はおろか、自分は望んではいけないはずなのだ。銀時とずっと【共に居たい】などと・・・。だから、誰にも言わずに自分の心だけにこの事は留めて置こうと思った。銀時へと望む自分の【想い】と共に・・・。でも時が経つたび、銀時を知るたびその決意は少しづつを変えてゆく。深い意味があった訳では無いけれど、お守りを作る時に貝殻の下蓋を中に忍ばせた。共に居る事は出来ないけれど、その代わりどうか彼を不幸から護って下さいと願いを込めながら・・・。
がどんな意図で貝殻を入れたのなんて想像も付かない。けれど自分の命を救ってくれた事実と、彼女を護れなかった不甲斐ない自分。ぐずぐずしていられない、急いで彼女を追いかけなければ・・・。最後に見たの泣き顔。もう泣かせたくない。痛む体に鞭打ち布団から体を起こすと、立ち上がろうとする銀時。
新八「ちょっ・・・!?アンタ何してんスっか!?」
銀時「グズグズしてらんねェ・・・。が高杉に連れて行かれた・・・」
銀時の言葉に驚く3人。いち早く正気に戻った新八が、包帯だらけの銀時を止めようと立ち上がろうとする銀時を止める。
新八「気持ちは分かります!けど場所わかってんですか!?」
銀時「っ・・・」
神出鬼没な高杉の事だ、何時までも同じ場所に潜伏しているはずが無い。
新八「真選組の人達にも知らせましょう!少しでも早くさんを見つける為に!それまで銀さんは傷を癒して下さい!そんな体じゃさんの居場所分かっても助けに行けませんよ・・・」
銀時「くっ・・・」
大量の血液を失い、肩や腹部、胸部に受けた傷は常人であれば病院に入院するほどの大怪我だ。銀時の強い精神力と、を助けたいと願う強い意志があってこそ動けるのだろう・・・。
が居なくなって数日。新八は銀時に言った通り真選組にが高杉に連れ去られたと話しに言った。近藤は日ごろ世話になっているの為だと、隊士総出で協力してくれた。しかし、一向に彼女の行方が分からない。そして何より心配なのが目にも見てわかるほど消沈している銀時だ。
新八「銀さん・・・。ちゃんと食べて下さい・・・。食べないと力でませんよ」
驚異的な回復力で部屋の中を移動する分にはこなせるようになった銀時。
銀時「そんな気分じゃねーんだ・・・」
が居なくなってから、銀時は食事もまともに取らない。新八も神楽も銀時らしくない姿に心配な眼差しを向けている。
神楽「新八の料理薄いアル。お前の存在感みたいだな」
重苦しい場の雰囲気を変えようと神楽が新八のツッコミを前提に毒を吐くけれど、何時もの冴え渡ったツッコミが返ってこない。新八も銀時同様が心配で仕方なかった。
新八「そういえば、さんは必死に隠そうとしてましたけど・・・。銀さん知ってますか?さん、この世界に来たばかりの頃はまったく料理出来なかったんですよ」
銀時「・・・」
の名前を出したせいか、銀時の何時もより死んだ魚の目が僅かに新八に向く。
新八「道場で住み込みで門下生とする傍ら、真剣な表情で僕に料理教えて下さいって頼まれたんですよ。最初は姉上より酷かったなぁ・・・」
長い入院生活の中で、が包丁を持つ経験なんてあるはずもなく、野菜を切る事すら最初は苦労していた。塩と砂糖を間違えたり、元は何の料理かも分からないほど黒ずみになった食べ物。今の彼女からは想像も付かない。
新八「でもさん何時でも真剣でめげませんでした。剣術だって人を傷つけるのを躊躇う位優しい彼女が何で覚えたいなんて言ったんだろうって、最初は分かりませんでしたけど今なら分かりますよ。さん何時も嬉しそうに食べてくれる銀さんや神楽ちゃんの姿見て、幸せそうに微笑んでました。剣術だって僕らの足手まといにならない様にってきっと覚えたんでしょうね・・・」
は何時だって弱音を吐かずに頑張っていた。それは新八のみならず彼女を知る者全てが知っているだろう。何時だって一生懸命で、自分の事は二の次で・・・。そんな彼女の姿に誰でも好感を抱く。彼女がどんな思いで食事を作っていたのか・・・、どんな思いで人を傷つける術を学んだのか・・・。最後に見た泣き顔が忘れられない。には誰よりも、どんな時にでも笑っていて欲しい。その笑顔を取り戻す、その為ならどんな事でもしてみせる。
神楽「銀ちゃん・・・。私、銀ちゃんや新八に負けないくらいが好きヨ。だから絶対助けたいアル」
銀時「バッカ・・・、そんなの、言われるまでもねーよ」
新八の言葉に、神楽の言葉に銀時の瞳に強いきらめきが戻った。手をつけようとしなかった食事に手を伸ばすと、すごい勢いで食べ始めた。そんな銀時を見て笑う2人。銀時の死んで生気の無かった瞳の面影はもう微塵も感じなかった。
を助ける、今はただチャンスが来るまで体力を温存しておこう。お前ェの笑顔を取り戻す為に----
???「やっと何時ものお前に戻った見たいだな銀時」
突然銀時達に掛けられた声に3人の視線が向けばエリザベスを連れた桂が、いつの間にか室内に居た。
銀時「相変わらず突然だな、オイ。何の用だヅラ・・・?」
桂「殿が高杉に連れて行かれたと聞いてな・・・。死んだ目のままのお前だったら教えるつもりは無かったが、もう問題はなさそうだな」
エリー「さんの場所が分かりました」
桂の後ろに控えていたエリザベスがプラカードに描かれた文字を見せると驚く3人。
新八「本当ですか!?桂さん!?」
神楽「は何処に居るアル!?」
桂「あぁ、命に別状は無い。高杉も殿に手荒に扱ってはいない様だ」
桂の言葉にほっと一息つく新八と神楽。
銀時「それより、オメー何時の間にと知り合ったんだ・・・?」
銀時が知る限りと桂の接点が見つからない。
桂「いつかにな、過激な攘夷派の志士に囲まれてな・・・。その時不覚にも傷を負った所を殿に助けてもらった」
攘夷派と言ってもやり方は様々で、桂のやり方が気に食わないという派閥も居る。罠にはめられ手傷をおった所に出会ったのだ。
桂「殿には助けてもらった恩をまだ返せていない。だから力になりたくてな・・・」
銀時「・・・、オメー本当にそれだけか・・・?」
銀時の思いもよらない言葉に驚く桂。『力になりたくてな・・・』っと言った桂の言葉に他の【気持ち】が僅かに隠されているのを、銀時は気付いてしまった。それは同じ想いをかかえている相手だからこそ分かったのだろうう・・・。
桂「お前が何時までも腑抜けなままなら、俺だけでも助けに行くつもりだった」
エリー「私もさんにはお世話になりました。一緒に行きますよ」
そう言ってプラカードを見せるエリザベス。
銀時「悪ィけど・・・、譲るつもりねーから」
桂「ふん、こちらとて同じだ」
傷を負って死の淵に立っていた自分を助けてくれた。彼女の事を知りたくて色々調べたら万事屋に住み込んでると知った。何度か礼を言いに行くつもりでいたけど、真選組と関わりにある彼女に中々近づけなかった。あの日から彼女の残していった残り香が忘れられなくて、何ども彼女を思い出した。そして気付く、この気持ちは焦がれる想いなのだと・・・。

漸く見え始めた【希望】。
、あの桜の下で言った言葉の返事まだ銀さん聞いちゃいねーからさ。だから助けたら聞かせてくれよな・・・?それがどんな答えだとしても俺ァ受け止めるから。だからもう一度お前ェの笑顔見せて欲しい----
君を取り戻す。その想いだけを今は胸に----