傍に居られるだけで・・・  第二十三訓  世界で一番の贈り物  



嬉しくて、嬉しくて・・・。零れ落ちた涙----



神楽「ネェネェ、の誕生日って何時アルか?」


「えっ、私の誕生日ですか?」


新八「あっ、それ僕を聞きたいです!誕生日のお返しもしたいですし」


暑い日ざしが漸くなりを潜め、過ごしやすくなり季節は9月を迎え様としていた。もう毎日の日課と言って良い万事屋の家事を新八としていたに突然尋ねてきた神楽。ソファーでジャンプを寝そべりながら読んでいる銀時も目線こそ、ジャンプから離さないものの耳を3人の会話に傾ける。隠す様な事でもないので素直に誕生日を教える


「私の誕生日は9月4日ですよ」


そう言って近くに居た神楽の目線に合わせて腰を折ったの身長は大きい方では無いけれど小さい神楽にとっては見上げる形になるのでそうした彼女。優しく微笑んで神楽の頭を撫でるのを見ていると本当の母親の様に見えてしまう。本当に微笑ましい光景だ。僅かに顔を赤くした神楽が嬉しそうにに言う。


神楽「私ネ、に私の誕生日祝って欲しいアル!だからの誕生日を祝えば祝ってくれるアルか?」


「ふふふっ、そんな事しなくても、ちゃんと神楽ちゃんの誕生日お祝いますよ。沢山、沢山お料理作りますからね」


神楽「本当アルか、!私、とっても嬉しいヨ!キャッホーー!」


の言葉に嬉しくて抱きつく神楽。そんな神楽を羨ましそうに見詰める男2人。


9月4日って言えばもうすぐじゃねーか・・・。には日頃の家事の感謝もある。だから彼女の誕生日と言うなら祝ってやりたいと思う。一番の理由は彼女の笑顔が見たいのだが・・・。けれど生まれてこの方、女に贈り物なんてした事が無い。一体彼女は何を贈れば喜んでくれるだろうか・・・?お世辞にも経済状況が良いとは言えない万事屋なので高い物は贈ってやれない----


銀時「ちょっくら、銀さん出かけて来るわ」


「銀さん、お使いなら私行きますよ?」


銀時「あ〜・・・。たいした用じゃねーから。有難うな、


そう言って出かけてしまう銀時。万事屋の玄関口にある階段を降り、この時間は開店の準備をしているだろう下のお登勢の店に入る銀時。お登勢を頼るのは気が引けるが、相談出来る相手が居る訳でもないので仕方ない。


銀時「邪魔するぜ」


お登勢「何だい、銀時かい。店はまだだよ」


銀時「いや、今日は飲みに来たんじゃねーんだ」


珍しく真剣な銀時の表情に何かを悟ったのか、お登勢は何も言わず銀時に言う。


お登勢「そうかい、そこ座んな」




あの日、用があると言って出かけた日から銀時は頻繁に万事屋を空ける様になった。理由を聞いても教えてくれず、朝に出かけ夜遅くに帰ると言う毎日を送っていた。銀時と顔を合わせるのは朝の朝食の時間くらいで、は寂しさを感じていた。残された時間は【半年】も無い。少しでも銀時の傍に居たいと思うけれど、それを口に出来るはずも無く・・・。歯がゆい思いから胸が痛む毎日を送っていた。


「銀さん・・・。私は貴方の役に立てないのでしょうか・・・?」


誰も居ない万事屋の居間で一人ソファーに座り呟く。何時もなら新八や神楽、銀時の居るはずの部屋は1人だと広く感じられるせいで無性に悲しくなって一筋涙が零れた。今は只、銀時の笑顔が見たいと思う。あの大きな手で頭を撫でて大丈夫だと言って欲しかった。


銀時「安心しろ。銀さんはココにちゃんと居っから」

何時か聞いた、貴方の言葉が無性にもう一度聞きたかった



銀時とすれ違いの毎日を送っていたとある日、お妙から電話がかかってきた。たまには一緒に買い物にでも行きましょうと言う事だった。今のはとてもそんな気分では無かったけれど、せっかく誘ってくれたお妙の申し出を断る訳にもいかず、結局行く事にした。
デパートに入るなり、女物の着物コーナーに連れて行かれた。お妙に人形の様に沢山の着物をとっかえひっかえ着せられ、漸く許してもらえた頃にはは疲れ果ててしまった。女の人の買い物のパワーとはどうしてこうも凄いのか・・・。ただ尊敬するしかない。一息入れるために、近くの喫茶店に入る2人。


お妙「で?」


「えっ・・・?」


お妙「私が気付かないとでも思うのかしら?ずっと貴女、今日は下を向いてるわ」


「そ、そんな事ないですよ」


お妙に図星をつかれてうろたえてしまう。自分は周りの人間に分かる程、態度に出していたのだろうか・・・?銀時と過ごせない毎日がこんなにも苦しくて寂しいとは思わなかった。必死に顔に出さない様に気を付けていたつもりなのに、お妙にはバレてしまった。


お妙「貴女の元気が無い理由・・・。銀さんがらみかしら?」


「っ!?」


お妙「そんなに驚く事かしら。短かったけれど一時期は一緒に住んでいたんですもの。貴女が思ってる事くらい、大体予想つくわ」


「・・・」


がこの世界に来て、一番最初に出会ったのがお妙だった。見ず知らずの自分を怪しみもせず、温かく恒道館に迎えてくれた彼女。お妙になら話しても良いだろうか?今までずっと隠してきたこの想いを----


「数日前からっ、銀さんが出かけるようになってっ、顔を合わせられる時間が殆ど無くってっ・・・!」


しゃくりあげながら言葉に一度してしまえば、溢れる泉の様に想いと一緒に言葉が出て来た。寂しかった、苦しかった。けれど話せる相手も居なくて・・・。本当はずっと誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。溢れる言葉と共に涙が溢れてくる。お妙はそんなの肩を抱いてずっと黙って聞いてくれていた。


どれくらい泣いていただろうか、沢山泣いたら驚くくらい心が軽くなっていた。


「お妙さん・・・。ごめんなさい・・・」


お妙「あら、良いのよ。貴女は一人で抱え込みすぎなのよ。それじゃ、何時か心が壊れてしまうわよ?私で良かったら何時でも聞くから、もうちょっと頼って」


お妙の言葉に、再び涙が零れそうになるけれど、ここは泣くのではなく笑うべきだと思った。お妙にこれ以上心配かけない様に。


お妙「さん、一つだけ言わせて貰うわ。銀さんは絶対、貴女が悲しむ様な事はしないわ。誓っても良いわ」


「えっ・・・?」


お妙「貴女気付いていないのね?銀さんが貴女を見る時すごく優しい目で見ているのよ」


「それは、家族として・・・」


お妙「・・・。銀さんも先が思いやられるわね。さんがこんなんじゃ・・・」


そう言って溜息をつくお妙。にはお妙の言おうとしている事が分からない。


お妙「あら、こんな時間。そろそろ帰りましょうか」


「お妙さん」


お妙「なーに、さん」


「本当に、有難う御座います」


寂しさや苦しさは無くなった訳ではない。けれど大分楽になった。それはお妙のおかげだ。だから心からお礼を込めて綺麗に微笑む。言葉に出すのは恥ずかしいけれど、きっと初めて出来た私の【親友】と呼べる人。


お妙「・・・。銀さんにはもったいないわよね・・・」


「えっ・・・?」


お妙「何でもないわ、さあ帰りましょ」


銀さんがさんを想ってる事は見れば分かるし、さんも銀さんを想っているみたいなのに・・・。なぜ想いを打ち明けないのかしら?何か事情があるのかしら・・・。


自分の事に鈍感な。うまく想いを伝えられない銀時。それは2人の小さくて不器用な恋----



万事屋の前まで来ると、お妙はに紙袋を渡してきた。


「これは・・・?」


お妙「後で見て頂戴。私は仕事があって残念ながら参加出来ないけど」


お妙の言ってる事が分からなくて、?を出しているを見て微笑んだお妙は、帰れば分かるわっと言葉を残して行ってしまった。玄関に入ると見慣れた黒いブーツ。


「っ!?この靴銀さんの・・・。」


こんな時間に帰っているなんて久しぶりで、靴を揃えるのも忘れて慌てて居間に行く。何時もの場所に、何時もの様に寝そべってジャンプを読んでいる銀時。久しぶりに見る光景にホッとした気持ちと嬉しさで少しだけ涙が溢れる。こんな何でもない光景が、こんなにも愛しいなんて・・・。


銀時「おっ、お帰ェり・・・、って何でお前ェ!?泣きそうなの!?」


零れては居ないものの、目のふちに涙が溜まっているの顔を見れば慌てふためく銀時。寝そべっていたソファーから飛び起き、居間の入り口で立ち尽くしているに走り寄る。


「だ、だって・・・。久しぶりだからっ・・・。こんな時間に銀さんが家に居るの・・・」


銀時「あ〜・・・。心配かけちまったか?ごめんな・・・?」


泣きそうな彼女に、どう接していいか分からなくて頭をかく銀時。久しぶりに見る銀時の困った顔が可笑しくて笑う。そんな時、台所から出て来た新八と神楽。


神楽「!お帰り!待ってたんだヨ」


新八「さんお帰りなさい」


そう言う2人の手には大量のご馳走のお皿がのっている。慌ててて気づかなかったが、部屋の中を見渡せば綺麗に飾り付けされてる。


「ただいま、神楽ちゃん、新八君。今日は何かお祝い事、ありましたっけ・・・?」


銀時「バッカ、今日はお前ェの誕生日だろ?」


そう言っての頭に手を乗せる銀時。私の為にわざわざ・・・?驚く彼女の後ろの玄関からその時、大勢の声が聞える。


新八「さんの誕生日だって言ったら皆さんお祝いしたいって言って下さって、万事屋に呼んだんです」


真選組の近藤に総悟に土方、お登勢に長谷川、陽炎まで居る。


土方「お前には、誕生日プレゼント貰ったからな、お返しだ」


総悟「とか言ってますけど、わざわざ仕事切り上げて来たんですぜ。さんおめでとう御座います」


長谷川「ちゃんおめでとう。いやぁ〜今日も綺麗だね」


陽炎「さん、お誕生日おめでとう御座います」


「皆さん・・・。有難う御座います・・・」


私は本当に幸せ者だと思う。こんなに沢山の人が私の為にわざわざ来てくれている。それぞれがプレゼントをに渡し、豪勢な料理を突っつきながら談笑する。相変わらず仲の悪い神楽と総悟と銀時と土方の言い争いは絶えなかったけれど、そんな一瞬一瞬さえ今は良い思い出になる。
私はこの日を決して忘れないと思う。銀時や新八や神楽との思い出は大事だけれど、周りを取り巻く人々も今では私にとっては大事な人達だから。皆の笑顔を心に焼き付けておこう。自分が消えるその時、少しでも皆と出会えた事を後悔しない様に----


誕生会は遅くまで続き、お登勢や神楽をのぞく面々は酒の飲み比べ等して万事屋の室内で雑魚寝状態だ。お登勢は店に戻り、神楽は遅い時間だからと彼女の押入れに寝かせ雑魚寝している面々に毛布をかけ、後片付けをする。大量の洗物を終え、自分もそろそろ部屋に戻ろうかと居間に向かうと銀時が1人起きていた。


「銀さん、目さめちゃったんですか?」


銀時「まぁな。なぁ、少し外に出ねェか?」


「?別に構いませんよ」


2人揃って外に出ると、綺麗な月が出ていた。綺麗な銀色の月は銀さんみたいだなと思う。温かい光、綺麗な銀髪と同じ色。ちっぽけな自分には決して届かない、大きな【存在】。
夜遅い時間のせいで外を歩く人は殆ど居ない。会話する訳でもなく無言で歩く2人。言葉は無くとも傍に居られるだけで嬉しかった。それがにとって一番の幸せなのだから。気付けば河原まで歩いて来た2人。不意に銀時が言葉を紡いだ。


銀時「、遅くなっちまったけどコレ」


「コレっ・・・」


河原に着いて暫く黙ったままの銀時だったが、意を決してに手渡す。


銀時「本当はもっと高価な物買ってやりたかったんだけどよォ、時間が足りなくてな・・・」


銀時がに渡した物は銀色のフレームで出来た蒼い羽の2匹の蝶が揺れる簪。銀時は今【時間が足りなかった】と言った。その理由を考えてみたら、その答えは一つしか無かった・・・。


「っ・・・、銀さんもしかしてコレ買う為に、出かけていたんですか・・・?」


銀時「・・・」


あの日、銀時がお登勢を尋ねた理由。それは仕事を探す為だった。の性格から言って例え安い物を贈っても喜んでくれるだろう。だけど銀時は少しでも多くに喜んで欲しくて色々考えた結果が簪だった。女物の簪は意外と細工が凝っていて値段も高い。だから日雇いの仕事を朝早くから夜遅くまで働いて金を貯めたのだ。只、に喜んで欲しくて----


「私、私すごく嬉しいです・・・。本当に、本当に有難う御座います。銀さん・・・」


にとって生きてきた中で、一番嬉しい贈り物だった。大事そうに胸に簪を抱いて静かに泣く。どうして、どうして私なんかの為にここまで貴方はしてくれるんですか・・・?




ババアに仕事を紹介してもらって朝早くから働く。こんな事、きっとの為じゃなきゃ一生やらないと思う。仕事は色々やった。引越しの手伝いから屋根の修理に時には工事の仕事もあった。やる事は万事屋と変わらない。普段こんなに働かないから正直体がきつかったけれど、が喜んでくれるそう思うだけで頑張れた。不思議もんだな、好きな奴の為なら何でも出来そうな自分が居るから。そんな時、仕事の途中で通りかかった簪屋が目に入って少し覗いて見た。に似合うものはないかと探していたら1本の簪が目に入った。の白い肌には蒼色が良く似合う。手にとって見ると2匹の蝶がぶつかり合って良い音が鳴る。考える時間なんて必要なかった。俺はさっそく店の親父に取り置きを頼んで必死に働いた。


野郎共がにプレゼントを渡す中、自分も渡そうと思ったけれど照れ臭くて結局渡せなかった。夜中目が覚めてボーっとしているとの声が聞えて時計を見ればまだ0時前だ、まだ間に合う。散歩に誘えば着いて来てくれる。何処で渡そうかと考えてたら何時の間にか河原まで来てしまっていた。意を決して簪を渡せば嬉しそうに簪を抱き締めて泣く。出かけていた理由を言い当てられ、どうしてこうゆう時の彼女は鋭いのだろうかと苦笑いする。ココで抱き締めて「好きだ」何てカッコいい事言えれば良い男なのかもしれないけれど、残念ながら俺はそんな出来た男じゃない。
今は、喜ぶお前ェの顔が見れるだけで良い。それだけで疲れなんて吹っ飛んでしまうから。


良い歳して、子供みたいな恋をしてると思うと笑っちまう。お前ェに近づく男に嫉妬して、お前ェの全てを自分が独占したくて・・・。だけどお前ェを想うだけで、笑ってくれるだけで幸せになっちっまうんだ。早くこの想いを伝えたいと焦る気持ちが無い訳ではないけれど、もう少しだけこの甘くて切ない想いを味わうのも悪くないかと思う。困るお前ェの顔より、笑っている顔を少しでも見て居たいから----



なんかじゃ足らない。してるんだ