傍に居られるだけで・・・
第二十一訓 心から好きだから
恋して初めて気付いた、貴女の笑顔の違い
銀時「暑ィなー・・・」
神楽「暑いネ・・・」
新八「2人とも、言わないで下さい・・・。余計暑くなります・・・」
暑い暑いと言いながらソファーでぐったりしている銀時。神楽は万事屋に唯一ある1台の扇風機を独占状態。新八はそんな中と共に家事に精を出している。本当に真面目な青年だとは思う。普段、影が薄いだのメガネだの銀時や神楽から言われているが、そんな2人のハチャメチャを止めるストッパー役として新八が居なければ、万事屋は当に潰れていたかも知れない・・・。だらける2人を見て苦笑いをする。新八と共に畳んでいた洗濯物の手を少し止め新八に言う。
「新八君、途中で申し訳ないのですが・・・。ココを任せても良いですか?」
新八「?はい、勿論ですよさん」
疑問に思いながらも笑顔で新八が言えば、有難うございますと笑顔を返しは台所に行ってしまった。10分程経った頃だろうか、台所に行っていたがお盆を持って居間に帰って来た。
「はい、コレは銀さんに。コレは神楽ちゃんね。こっちは新八君のです」
そう言って、それぞれの特等席(万事屋で食事をする時の席。ちなみに2つあるソファーの間にテーブルがある形で、片方に新八と神楽。もう片方に彼女と銀時と言った形)の前に見るからに涼しそうな物が置かれる。
新八「コレは・・・、【シャーベット】ですか・・・?」
「新八君、大当たりです。毎日暑いから作ってみました」
そう微笑む。それぞれの前に置かれたガラスの小皿。銀時のシャーベットは苺、神楽はオレンジ、新八のはメロンである。それぞれの味が違うのは、やはり彼女の気遣いだろう。3人が好物であろう物が並べられているから。
神楽「キャッホー!!はやっぱり優しいネ!私もみたいな綺麗で優しい大人になりたいアル!」
銀時「・・・。神楽ァ〜、オメーには無理だ。は【特別】なんだからよォー」
銀時がそう言うが、暑さでと言うのもあるが早く食べなければ溶けるだろうシャーベットを前に言い合いをする気も無くさっそく食べ始める2人。
神楽「〜〜〜!美味しいアル!」
銀時「ウン、うめェ」
そう呟く2人に幸せそうに微笑む。その笑顔が素敵で見惚れていた新八は、2人に気づかれない様に慌てて自分のシャーベットを食べ始める。ドクン、ドクンと高鳴る心臓の音に誰も気づきません様にと願いながら。
そう言ァ、結野アナが言ってたな。今年の夏は猛暑だと・・・。収入の少ない万事屋に【クーラー】等と高級な電化製品が有るはずも無く、この時期の万事屋は地獄だ。しかも唯一の扇風機も神楽に独占されている。一度文句を言った事があるが、恐ろしい神楽による【制裁】を加えるられ只、銀時は恨めしそうに扇風機を独占している神楽を見つめるだけだ。そんな時に、不意に自分が寝そべるソファーのテーブルに置かれた何か。暑くてダラケル体を起こしその何かを見る。自分の前に置かれた物は銀時の好物の苺味であろうシャーベット。それをテーブルに置く。こんな些細な気遣いを当たり前の様に何時もこなす彼女は本当にすごいと思う。そして、自分の好物を言わずとも知っていてくれるのが何より嬉しい。
の様になりたいと言う神楽の言葉を聞いて、即否定をする。彼女は【特別】だと言う言葉を少しだけ銀時は強調したつもりだったが、彼女は気づいてくれただろうか・・・。如月の出来事以来、との進展らしい進展はまったくと言って無い。さり気無く自分をアピールしているつもりなのだが、普段聡い彼女はなぜか事【恋愛事】になると、とてつもなく鈍い・・・。口に入れたの作ってくれたシャーベットは、甘さが控えられていて、甘酸っぱかった。まるでを想う今の自分の心情の様に----
あの後、昼時前に珍しく万事屋の電話が鳴ったと思えばお妙からだった。何の用かとが尋ねると、どうやら依頼らしく皆で恒道館に来て欲しいとの事。丁度今日は仕事の休みの日だし、お登勢の店の手伝いは夕方からなので今日はも銀時達と一緒に行く事にした。久しぶりに皆と仕事だと思うと嬉しい。普段は中々一緒に仕事出来る機会が無いし、家で見る3人の姿以外を見られるから尚更だ。電話を終えてお妙から依頼だと言えば、嫌そうな顔をする銀時。しかし、今日は自分も行きますと言えば数秒動きを止めた銀時は癖毛の髪を掻き毟り行くぞ〜っと声をかける。新八も神楽もそれに嬉しそうに着いていく。共に居られるのが嬉しいのはだけじゃなく、【彼】も2人も同じなのだから----
4人で恒道館に向かえば、驚く一同・・・。なぜなら恒道館の屋根が一部崩壊していたからである。
新八「姉上・・・、コレは一体何が?」
お妙「あら早かったのね。うふふ、今日も【ストーカーゴリラ】が出て来たの。それも人が着替え中に出現したものだから、何時もより【力】が入っちゃって」
そう笑顔で言うお妙に4人の顔が青くなったのは言うまでも無い。この人には決して逆らっちゃ駄目だ。命がほしいのなら・・・。
お妙「だから皆には屋根の修理お願い出来る?勿論、依頼料は【タダ】よね?」
お妙は何時も通り笑顔だ。しかしその【笑顔】が怖い。微笑みながらも彼女の後ろに見える黒いオーラは見ない様に、見ない様にっと必死に言い聞かせる4人。仕方ないのだ、万事屋の依頼が少ない以上銀時が新八や神楽、に支払える給料など雀の涙程度なのだから。生活の苦しい新八の家を思えば文句など言えるはずも無い。
近藤を殴り飛ばして出来たであろう、屋根に出来た巨大な穴を黙々と修理を始める4人。はお妙に殴り飛ばされた近藤は無事なのだろうかと頭に過ぎったが、彼なら大丈夫だろうと仕事に集中する事にした。
作業に没頭して気付かなかったがそろそろ昼時。一旦、作業を中断させてお妙に台所を貸して欲しいと頼めば心良く貸してくれる。自分も手伝うわと共に台所に来た。万事屋に来る前、恒道館に居た頃は良く新八やお妙と共にこうして共に台所に立った。あの頃はろくに料理もまともに出来なかった自分を思い出し笑いが零れるお妙と。万事屋に住み出して5ヶ月、この世界に来て早くも8ヶ月経とうとしていた。この世界に来た頃はまだ寒く12月頃だったから残された時間はあと【7ヶ月】程。桜が咲く前にはこの世界からは消えるだろう・・・。皆で初めて出かけた花見をもう一緒に過ごせないと思うと胸が締め付けられる。
お妙「そう言えばもう8月なのね。新ちゃんの誕生日がそろそろだったわ」
「えっ!?本当ですか、お妙さん」
お妙「えぇ、新ちゃんの誕生日が12日だから・・・、明後日ね」
お握りを作りながら物思いに耽って居たはお妙の突然の言葉に驚く。明後日ならまだ間に合う。日頃頑張っている新八の為に何か出来ないかと思う。
作業をしている3人に声をかけ、一旦休憩がてら皆で食事をする。珍しく事件も無くこの様子なら夕方には帰れそうだ。そんな時は新八に気づかれない様に神楽と銀時の傍に行き囁く。
「銀さん、神楽ちゃん。ちょっと相談があるんですけど----」
突然のの至近距離の囁きにドキドキする銀時をよそに、内容を聞けば新八の誕生日が近いからお祝いしたいんですと言う彼女。だから2人にも協力して欲しいと言えば快く引き受けてくれた。
作業も終わり、帰り際にお妙にも協力を取り付けたは仕事の疲れもなんのその、軽い足取りで3人と万事屋に帰る。そんな3人の後ろからを見つめる人物が居る事に気付かないまま----
新八の誕生日当日。お妙の協力もあって新八を外に連れ出してもらい、その間に室内の飾り付けと料理を作る3人。何も知らない新八がコレを見て喜んでくれたら良いなと思う。次々と料理を作る中はふと思い台所から神楽と飾り付けをしている銀時が居るだろう居間へ行く。
「銀さん、銀さん。お願いあるんですけど・・・、今良いですか?」
銀時「ん〜?ちゃんの頼みなら何時でも良いぜ〜?」
「っ!?も、もう銀さんたら冗談言って無いで・・・。一緒に来て下さい!」
冗談のつもりじゃないんだけどと思いながらも、自分の手を引くに着いて行くとそこは台所。
「銀さんケーキ作るの得意ですよね?私に美味しいケーキの作り方教えてもらえませんか?」
そう言う。彼女なら自分の教えを受けなくとも十分美味いケーキを作れるだろうと言えば、少し頬を赤く染めながらお願いしますと頼まれれば、嫌だ何て言うはずも無く2人で台所に並ぶ。銀時の甘党は銀魂の世界では有名だ。彼自身、甘味の腕も相当な物だと知っている。本当はケーキを作ろうと思えばは一人で出来るのだけれど・・・。あと2ヶ月余りで銀時の誕生日だ。その時少しでも美味しいケーキを食べて欲しいと思う気持ちもある。けれど、一緒に台所に何て立つ機会なんてそうそうあるはずも無くは珍しく我侭を銀時に言ってしまった。勿論、銀時が我侭なんて思うわけは無い。銀時に心の中で謝りながら教えの通りケーキを作っていく。このまま時間が止まってしまえば良いのにと思わずに居られない----
こうゆう事に関してはプロ並だなっと神楽を見て思う俺。普段は怪力に物を言わせて破壊していく癖に、祝い事となると器用に飾り付けをしていく。祝い事=の豪勢な料理と言うのがアイツの頭の中にインプットされてるに違いない。殊更自分の食欲の為なら恐ろしい力を出す奴だ。そんな時、料理を作ってるはずのが近寄って来て着いて来て欲しいと言う。飾りつけも飽きてきた所での誘いだ、断るはずも無く彼女に手を引っ張られる。やけに積極的だなっと彼女の後ろを着いて行く俺。何処へ行くのかと思えば、何てことは無い台所。淡い期待何て少しはしていたかもしれないけれど、いざ打ち砕かれると気落ちする。そんな俺にケーキの作り方を教えて欲しいと言う。理由を聞けば顔を赤らめる彼女。そんな彼女が可愛いと思う。考えてみれば2人で居られるのは変わり無い。が喜ぶならと俺は知識のすべてを彼女に教えていく。進展はしないけれど、こんな時間を彼女と過ごせるなら良いかと思う。ずっとその笑顔を隣で見られる事を祈りながら----
時刻は夕方になり、準備も終わる頃丁度良くお妙と出掛けていた新八が一緒に帰って来た。部屋に入るなり豪勢な料理と飾り付けに驚く新八。そんな新八の手を取り席に案内する。
神楽「今日は新八の誕生日ネ!飾り付け頑張ってやったヨ!」
「おめでとうございます、新八君」
お妙「新ちゃんおめでとう」
銀時「また大人の階段登ったんだなァ、新八」
まさか自分の誕生日を覚えてくれている何て・・・。しかもお祝いまでしてくれる皆に心から嬉しい。次々とプレゼントが渡される中、のプレゼントに目が止まる。メガネケースと小さい四角い物。
新八「さん、コレ【お守り】ですか・・・?」
「手作りだから余り上手く出来なかったんだけどね・・・。万事屋って危ない仕事もあるでしょ?少しでも怪我しない様にって思って」
と舌をペロッとだして可愛らしく笑う。あぁ、そうかこの胸の高鳴りの理由がわかってしまった。普段は凛としているさんだけど、時々見せる子供っぽい所とか素直な所とか、最近良く見せる様になった笑顔。僕は彼女に【恋】してるんだ----
お通ちゃんに感じる気持ちとは違う、彼女を愛しいと思う気持ち。これが恋なのか。銀さんも同じ想いなんだなっと思うと苦笑いする新八。貴方はこんな想いをずっとしていたんですね・・・。
神楽「新八、ニヤニヤして気持ち悪いアル・・・。【お守り】はお前だけ貰ったんじゃ無いヨ」
そう言って小さな赤いお守りを見せる神楽。銀時が見せるのは蒼。新八が持っているのは淡い緑色のお守りだ。自分だけのプレゼントでは無い事に少し気落ちしながらも、そろそろ始めましょうとお妙が言うとそれぞれ、豪勢な料理を食べ始める。
人数は少ないけれど、賑やかなパーティーは楽しい。メインのケーキを切り分けそれぞれに配る。だけどその時新八は気付いてしまった。が銀時に向ける笑顔と僕達に向ける笑顔の僅かな【違い】。僕達に向ける彼女の笑顔は慈しむものだ。家族に向ける温かいもの。だけど銀時に向ける笑顔は----
銀時「ん〜、流石。このケーキ最高に美味ェよ」
「ふふふっ、銀さんが教えてくれたからですよ」
僕が向けられる事が無い【愛しさ】を含んだの笑顔。僕の恋は気付いたとたんに失恋する何て、何て笑い種だろう。だけどコレで良いのだと何処かで思う自分も居る。自分では彼女の笑顔を護る事なんて出来ないから・・・。彼女が幸せで、笑顔でずっと居てくれるなら僕の恋は実らなくても良いと思える。そう思える程に大きくなっていた彼女への想い。気付かなかったけれど、きっと初めてさんと出会った時から僕は恋してたんだ----
銀さん、貴方ならさんを幸せにしてくれますよね・・・?幸せに出来なかったら承知しませんよ!少し痛む胸を振り切る様に、僕は銀さんとさんの小さな恋を応援しようとその時思ったんだ。
貴女が
幸せ
で居てくれるなら僕はそれで良い