傍に居られるだけで・・・  第二十訓  短冊に込めた願い  



私が居なくなったら、貴方は泣いてくれますか・・・?



「お登勢さん、本当に有難うございます・・・」


お登勢「何だい、そんな事気にしないで良いよ。たまにはこうゆうのも悪くないさ」


小太郎の隠れ家から戻ったは、その後予定通り陽炎やお登勢、お妙など様々な知り合いに声をかけた。当然ながら狭い万事屋に誘った人数が入りきるはずも無く、困っているとお登勢と言う救いの手が差し伸べられた。は朧が休みの日は大抵依頼の無い万事屋に居る事が多い。いくら万事屋の家事全般を任せられているとは言え、時間は余る。そんな時、1階にあるお登勢の店を手伝う事にしている。本音を言えば、銀時や神楽や新八達と少しでも一緒に居たいのだが万事屋の家計を考えれば、そんなの我侭を通すのは難しく日頃何かとの事を気にしてくれているお登勢の為になるからと、手伝いを申し出た。器量が良く、美しい容姿をしているにお登勢が断るはずも無い。また手伝ってくれればと、七夕のお祝いの日に1日店を貸しきってくれたのだ。勿論はそんな条件何か無くとも店を手伝おうと思う。店の中のテーブルには所狭しと豪華な料理が並べられる。お登勢やキャサリン、タマに新八など手伝いを申し出てくれたお陰で神楽がいくら食べようとも、これなら招いた人達全員に食事が行き渡るだろう。お妙も手伝うわと願い出てくれた時は流石に冷や汗が出たけれど・・・。


お祝いのメインとなる短冊を吊るす笹は、店の外に飾り付けられて立てかけられている。勿論、笹は銀時達が依頼でも貰って来た物だ。飾りつけは神楽や陽炎、銀時達がしてくれた物だ。飾りつけをする際、俺も手伝うと言った銀時にも含め周りの人間は驚き子供の様に口を尖らせブツブツと1人文句を言う銀時が居たのは秘密だ。そんな銀時を可愛い等と言ったら後でどんなお仕置きが待っているか考えると、はでかけた言葉を慌てて飲み込む。


残りは真選組の3人が揃えば、今回の祝い事のメンバーは全員揃うのだが仕事の後で寄ると言っていたのを思い出し先にパーティを始めて待つ事にした。短冊に願いを書く者、食事を食べる者、酒を飲む者等、皆好き勝手に寛いでいる。そんな時、店の扉が音を立てて開けられた----


総悟「さん、遅くなってすいやせん〜。土方コノヤローのせいですぜ」


土方「総悟、テメェ一辺腹切っとくか・・・」


近藤「こんばんわ〜!さん。お誘い有難うございます!お妙さ〜〜ん!お会い出来るなんて勲、感激です!」


「いらっしゃいませ皆さん。お仕事忙しいのに来て下さって有難うございます」


総悟「さんの頼みとあっちゃ聞かない訳には行きませんよねィ?土方さん?」


土方「・・・。には日頃真選組が世話になってるからな・・・」


総悟「素直じゃねェですねィ」


真選組3人の登場に過敏に反応したのは勿論、銀時と神楽。


銀時「おィ、おィ。お前等招いたつもりねェぞ?役人は役人らしく仕事しろ、仕事」


土方「万事屋・・・、テメェだけには言われたくねぇな・・・」


神楽「サドが何でココに居るアル!お前の食べ物何て無いヨ!」


そう言って物凄い速さで食事を平らげていく神楽。総悟も負けじと競い出す。


「ぎ、銀さん。私が真選組の方達を誘ったんです!沢山集まる方が楽しいですよね?」


そうに笑顔で言われれば、文句何て言えなくなる銀時。渋々が居るカウンター席へと座る。土方も何故か銀時の2つ隣の席へ座る。


銀時「何で、ココに座る訳?席、沢山空いてるよね?」


土方「別に・・・。何処座ろうと俺の勝手だ」


また2人の間に火花が散る。手が出なければともそんな2人を笑いながら見守る。そして各々過ごすココに集まってくれた人間達の1人1人の姿を見つめては思う。がこの世界の人間で無い事を知っているのは、万事屋の3人とお登勢とお妙だけだ。キャサリンもタマも真選組の3人に陽炎もこの世界の人間ではない事は知らない。そんな素性の知れないを、この世界の人達は気味悪がる所か温かく迎え入れてくれた。そしてが声をかければ集まってくれるのだ。この世界に来なければ、決して出来る事の無かった【大切な人達】。どうすれば、この言葉に出来ない程の感謝を伝える事が出来るのだろうか・・・?自分の残された時間で、一体何が出来るのだろうかと1人自問自答する


惚れた女に良い所を見せたいと思うのは、俺に限った事じゃないだろ?嬉しそうに七夕のパーティの準備をするの姿を見ていると、自分も彼女の為に何かしてやりたいと言う気持ちにかけられ、飾り付けくらいなら俺でも出来るだろうと申し出れば驚く周りの人間。そんなに驚かなくてもと一人不貞腐れれば、クスクスと可愛く笑うの横顔が見える。お前ェの笑顔をずっと見て居たいなんてその時思った俺はもう末期だろうな。


ババァの店内に食欲を誘う良い匂いが漂い出す。神楽や新八は短冊に何を願うか言い合いをし、お妙やキャサリン、タマは職業柄話が合うのだろう。食事を突っつきながら楽しそうに話している。ババァと陽炎、俺は酒を飲みながら他愛無い話をしてる。大人組みの楽しみ方ってやつだ。は世話しなく給仕をしている。は一体何時休んでいるのだろうか・・・。朧に働きに出ない時、万事屋に依頼があれば共に手伝ってくれるし依頼が無ければ、ババァの所で手伝いをしているのは知っている。一体何がそんなに彼女を突き動かすのだろうかと銀時は思う。それが全て銀時の為何て考え付くはずが無いけれど・・・。そんな事をボンヤリ考えていると、出来れば顔を合わせたくない人間が店内に入ってくる。何時もの様に嫌味を言ってやれば当然の如く言い返してくる土方。そんな俺達を止めたのは。彼女の笑顔を見せられれば何時までも言い合いをする訳にもいかなくなり、と話そうかと彼女が居るカウンターの席に座れば土方も便乗してくる。に気がある男は多いだろう。優しくて器量が良くて、何よりも美しい。それなのにその事を鼻にもかけず、何に対しても純粋で真っ直ぐな彼女に惹かれない男は居ないのではないだろうか・・・。そんな事を思いながら土方と睨み合っていた俺だったが・・・。ふと視線を彼女に移して、そんな考えは一気に吹っ飛んだ。
ずっとに聞きたくて仕方なかった。なぜお前ェは何時も俺達をそんな遠い眼差しで見るんだ?まるで自分は存在して居ないかの様に----


神楽「は短冊に何て書いたアルか?」


「えっ!?か、神楽ちゃんは何を書いたんですか?」


神楽「になら見せても良いアル」


そう言ってに出された数え切れない程の短冊。毎日、酢昆布が食べられます様にやパピーの頭の毛が増えます様に等、神楽らしい可愛い願い事だ。は優しい笑みを浮かべ神楽の頭を撫でた。どうか、私が居なくなっても幸せになって欲しいと願いを込めて----


パーティもお開きになり、各々が短冊に願いを込め吊るしていく。結局が書いた内容は最後まで教えてもらえなかった。来てくれた人達にお礼を言い、店の中へと片付けに向かった。銀時はそっとが隠して吊るした短冊を覗き見る。

「皆が、幸せでいられます様に---」

なぁ、。お前ェの願う【皆】にお前ェ自身の幸せは入っているのか?お前ェの周りの人間は皆お前ェの幸せ願ってるはずだぜ・・・?神楽も新八も、何よりも【俺】が。

神楽「とずっと一緒に居られます様に---」

新八「さんが笑って居られます様に---」

銀時はそっと笹に己が願う短冊を吊るす。神頼み何て信じちゃいねェ。だけど頼める物なら何でも頼んでやろうと思う。願いが少しでも叶うなら---

「ずっと、共に居られます様に---」




叶う事なら、君をこの腕で逃げられない様に閉じ込めてしまいたい




「ふぅ、やっと片付け終わりました〜。流石に人数が居ると大変ですね」


そんな独り言を言いながら、お登勢の店から出て万事屋の階段を登る。お登勢が片付けは自分達がするからと言ってくれたが、そもそもパーティをする事になったのはが原因だ。やらせて下さいと言えば、お登勢も渋々頷いてくれた。万事屋の明かりは暗い。流石にもう皆眠っているのだろう。そっと玄関の扉を開け中に入れば、眠っていると思っていた人物が窓辺に座りながら一人で酒を飲んでいた。


「あれ・・・?銀さん起きてたんですか?」


銀時「あぁ、眠れなくてな。片付け終わったのか?手伝えなくてすまねェな」


「ふふふっ、そんな事良いんですよ。私が好きでしている事ですから」


銀時は眠れないと言っているけれど、本当は自分が戻るまで起きていてくれたのではないかと思う。そうなら良いのにと思う気持ちがあるからかもしれないけれど・・・。


「あっ、そうだ。銀さんまだ起きてますか?」


銀時「ん?あ〜、まだ飲むつもり〜」


そう銀時が言えば、少し待ってて下さいねと言って台所に向かう。暫くして戻って来た彼女の手には酒のツマミになりそうな肴と柑橘系の爽やかな香りの白い何か。


「銀さん、今日はお酒ばかりで余り食べてませんよね?お腹が空いた状態でお酒飲むと悪酔いするんですよ。あとこれは蜜柑を入れたヨーグルト作ってみました。乳製品取ると明日辛くならないそうです。お口に合うか分からないですけど・・・」


銀時「・・・」


あの沢山人が居る店内の中で、彼女は自分の事を気にかけてくれていた事を知ってどうしようもなく嬉しかった。愛しさで抱き締めたくなる衝動を何とか抑える銀時。


銀時「何時もすまねェな・・・。なぁ、もたまには一緒に飲まねェか?」


と共に過ごす様になって4ヶ月。家には未成年が居ると言う事もあって2人で飲む機会何て無かった。飲みたい時は、大抵外に飲みに行くから。銀時の言葉に驚く。少し考える素振りを見せたが、少しだけと言いながら自分の徳利を持って来る。明かりをつけていない暗い室内を月の光だけが照らす。何を語る訳でも無かったけれど、2人を包む沈黙は嫌な物では無くて・・・。静かに月を見ながら酒とが用意してくれた肴を楽しむ。それだけで満ち足りた気持ちになるのは、言葉にはしないけれど2人がこの時間が幸せな物何だと感じているからだろう。


ババァの店で見せたの視線が気になって眠れるはずなんて無かった。ましてや、今も片づけをしてくれているだろう彼女を思うと自分が先に眠るなんてもっと出来なくて・・・。結局、中々飲む機会の無い酒を引っ張り出し月を見ながら一人酒を飲んでいた。物思いに耽っていたせいで玄関の扉が開かれたのに気づかなかった。に声をかけられて、漸く彼女が帰ってきたのだと知らされた。
彼女がしてくれた気遣いを嬉しく思いながらも、このまま別れてしまうのはなぜか寂しくなって・・・。駄目元で一緒に飲まないかと誘って見れば、少し考えた後良いですよと言ってくれた。何時もは店で飲むせいで、こんなに静かに酒を飲むのは攘夷戦争以来かも知れない。あの頃もよく1人酒を飲みながら月を眺めて飲んでいた。唯一違うのは、隣に居てくれる人が居るのとあの頃感じていた荒んだ心では無く、心の中に静かに染み込んで来るような温かい気持ち。今ならは答えてくれるだろうか・・・?あの視線の【意味】を----


銀時「なぁ・・・、。俺ァ時々、不安になるんだ。お前ェが突然居なくなりそうな、そんな何にも脈絡のねェ不安が頭を過ぎるんだ。お前ェ俺達に何か・・・、何か隠してんじゃねェか・・・?俺達には言えねェ事なのか・・・?」


「・・・」


再び沈黙が2人を襲う。けど銀時はが言葉を紡ぐまで決して急かす事はしなかった。


「銀さんは・・・、銀さんは私が居なくなると寂しいですか・・・?」


銀時「っっっ!?」


「銀さん、私は銀さんに逢えて・・・、新八君や神楽ちゃん、お妙さんにお登勢さん色々な人達と出逢えて本当に感謝してます。毎日がね?毎日がとても楽しいんです。小さな窓からしか見えない世界しか知らなかった私には、この世界で起きる小さな出来事全てが輝いて見えます。銀さんと出逢えなかったらこんな気持ち知りませんでした。本当に・・・、本当に感謝してます・・・」


の言葉は、まるで何時か自分が消えてしまうかの様に銀時には聞えた。消えてしまうからこそ、小さな事でも瞳に焼付け自分はこんなにも幸せだったと伝えるかの様に。銀時はそんなが今まさに消えてしまうのではないかと不安にかけられ、慌てての方に視線を向ける。窓辺の畳に2人で並んで座っていたせいで距離は近い。に向けて視線を送った途端に自分の胸に感じた彼女の温もり。銀時の胸に縋り付く様な形で頭を預けている。下を向いているせいで彼女の表情は分からない。でも何故か、銀時は見えない彼女の顔が涙に濡れている様な気がして抱き締め返した。どれくらいそうしていただろうか、身動ぎもしない彼女が心配になって抱き締めていた腕を解き彼女の身体を自分から離し、の両頬を己の手で挟んで上を向かせ表情を見れば---


銀時「マジデか・・・」


月夜に照らされた彼女の表情は・・・、眠っていた。酒に強くは無いと思っていたがココまでとは・・・。銀時は張り詰めていた緊張が一気に解けた。けれど、月の光に照らされた彼女の表情はとても、とても幸せそうで・・・。何よりも美しかった。


銀時「・・・。あの時言ったお前ェの言葉は・・・、酔って言った嘘か?それとも・・・」


の眠る頬を優しく撫でる銀時。俺は、お前の為に一体何が出来る・・・?そう答えが返る事の無い自問自答を繰り返した---



瞼に朝日が照らす。眩しさに目を開ければ飛び起きる


「私、何で布団に・・・?確か昨日は、遅くまで銀さんとお酒を飲んでいて・・・」


それからの記憶が無い。慌てて居間へ行けばソファーに隈を作った銀時が・・・。


「ぎ、銀さん・・・。昨日は寝ちゃったみたいで・・・、ご、ごめんなさいっ!」


銀時「あ〜、酒に弱いお前ェを誘ったのは銀さんだから。気にしないでいいぞ〜」


隈の理由。その原因は勿論の昨日の発言だ。一人でいくら考えても答えなんか出るはずも無いのに気になって結局一睡も出来なかった。


「布団に運んでくれたんですか・・・?ごめんなさい・・・。私、昨日の記憶が全然無くて・・・」


銀時「っ!?全然・・・?本当に、まったく全然・・・?」


「は、はい・・・。本当に、まったく全然・・・」


そうが言えば、疲れた様にソファーに項垂れる銀時。一体自分が何かしでかしたのだろうかと心配しただが寝てくるわと力無さげに言う銀時に尋ねられず・・・。「はい」、としか言えなかった。







???「くっくっく。そうか・・・。銀時と一緒に居たと思えば一緒に住んでたか」


???「はい。では高杉様、私はこれで失礼します」


高杉「漸く見つけたぜ、?」


銀時との知らない場所で少しづつ2人を包み込むように忍び寄る【闇】。漠然とした銀時達の【不安】の理由は今だ分からない。けれど彼女が昨日の晩、銀時に話した事は嘘では無い確信がある。あの時見せたの表情は、幸せでいて何より【寂しさ】を含んだ瞳をしていたから・・・。






の瞳に移る未来に、(達)は居る・・・?