傍に居られるだけで・・・ 外伝 その二 太陽と月の恋 



無くてはならない貴方(君)の存在----



山崎「さん、お疲れ様です。いつも来て頂いて申し訳ないです」


「気にしないで下さい。困った時はお互い様ですよ」


そう笑顔でが山崎に言えば、僅かに顔を紅くして俯いてしまった真選組の監査方の【山崎 退】(やまざき さがる)。が何処に居るかと言うと、真選組の屯所である。町の薬局店、朧を陽炎と営みながら真選組の専属の薬師もやっている。もともと、時雨が時々真選組へと来ていたのだがその人はもう居ない。せめて時雨の役に立ちたいとが引継ぎをしたのだが、何時からか専属になってしまった。理由言うまでも無い、医療の腕もさる事ながら薬の知識もあり気立ても良く美しい容姿のが訪れるとなれば嫌がる男は居ないだろう。隊士達の間では、もはやアイドルの様な存在にまでなってしまった。彼女が屯所に来る時は仮病を使って顔を見に隊士達が列を作るくらいなのだから。この日も朝早くに来たにもかかわらず、診察を終わったのが日も高く上った頃だった。一息入れようと屯所の一室(が来た時だけ診療所として使っている部屋)を出ようとした所に丁度、お茶を持って来た山崎。はお礼を言うと山崎を部屋に招き入れ冒頭に戻る。


隊士達が騒ぐのも分かる。唯でさえ、副長の土方が目の敵にしている銀時の万事屋の居候と言うだけで注目を集めるのだがは人目を惹くほどに美しい。この世界に来たばかりの頃、美しいのは変わらないのだが何処か印象が薄く特に周りの人間が気にする事は無かったのだが・・・。最近は特に輝いていると言うか、彼女の微笑を見ていると安心するのだ。


山崎「さん、最近良い事でもあったんですか?」


「えっ・・・?」


山崎の意図が分からず質問に戸惑う


山崎「あっ・・・!突然そんな事聞かれても困りますよね!すいません!」


「ふふふ、気にしないで下さい」


山崎の慌てぶりに微笑む。考えてみればこの世界に来てから、万事屋で銀時達と暮らし始めてから幸せで穏やかな毎日を送っている。でもトラブルメーカー(主に銀時と神楽)が2人も居るせいで退屈はしない。はこの世界に来て、初めて自分が【生きている】と実感していた。奇跡が与えてくれた1年、それはの20数年の人生の中で最も大事で幸せな時間になっている----


その後、他愛無い話を山崎とし部屋から出ると廊下で土方にばったり出会った。


「土方さん、お仕事お疲れ様です。休憩ですか?」


土方「あぁ・・・。そういえば今日はお前が来る日だったな、いつもすまねぇな。今から帰るのか・・・?」


「気にしないで下さい、私も真選組の方達の役に立てれて嬉しいですから。今から帰ろうと思います」


土方「そうか・・・。送ってく」


「えっ、平気ですよ!そんな遠くないですから」


土方「いつも世話になってる礼だ、気にするな」


そう言うと屯所の出口へと足を向けてしまった土方。も慌ててその後に着いていく。




街の見回りが終わって、自分の部屋へと戻ろうと廊下を歩いていると黒い美しい長い髪を揺らしながら歩く彼女の姿を見つける。俺を見つけると笑顔で挨拶をする。出会った頃の彼女の笑顔は何処かぎこちなさがあったけれど、最近は漸く自然に笑ってくれる様になったのが嬉しくて、ニヤけそうになる顔を必死に抑えて返事をすればもう帰ると言う彼女。山崎や総悟の様に口が旨い訳ではない俺だ、もう少し一緒に居たい何て口に出せるはずも無く考えた末、彼女の返事も聞かず送る事にした。少し強引だったかと後ろを歩く彼女の表情を伺えば-----


「土方さん、有難うございます」


そう笑顔で言われれば、ドクンと大きく高鳴る自分の心臓。紅くなる顔を彼女に見られない様に慌てて前を向く。本当は分かっていた、ぎこちなさが無くなった理由や彼女が最近綺麗になった理由・・・。悔しいが、万事屋のアイツと一緒に居る彼女の表情は本当にイキイキしていて・・・。笑顔が柔らかくなったのも全部アイツのせいなのだろう。


土方「ちくしょう・・・」


「えっ・・・?何か言いましたか、土方さん?」


土方「っ・・・、なんでもねぇ。独り言だ」


つい口に出てしまった自分に驚きながら必死に紛らわす。淡いへのこの想い、お前は気づく事なんて無いんだろうな・・・。


そんな事を考えていたせいで、いつの間にか立ち止まっていた俺。


???「土方さん、危ないですぜ」


土方「っ!?馬鹿っ!お前こんな所でっ----」


この時、丁度廊下の曲がり角で俺が考え事をしていなかったら・・・?彼女が後ろを歩いて居なければ・・・?


土方「っ!!あぶねぇ!!」


「っ!?」


廊下の曲がり角で俺しか見えなかったんだろう、総悟が毎度の如く俺の命を奪おうとバズーカを俺めがけて撃って来た。普段は殺気で総悟が近くに居るのは分かり、避けるのは容易いのだが、この時の俺は考え事とと歩いていたせいで浮かれていたのかもしれない。総悟の殺気にまったく気付けなかった。


沖田「っ!?さん!?」


慌ててバズーカの弾からを庇おうと、土方は彼女を引き倒した。バズーカの弾は旨い事に土方との頭の上を素通りし、後ろの庭の木に辺り強い爆風と音が響いた。突然の土方の力強い腕に引き倒され、受身を取れなかったはそのまま強く頭を打ち意識を失った----




神楽「、遅いアル・・・」


銀時「・・・」


時刻は既に夜の帳が降ろし、神楽が心配そうに呟く。何時もなら、日が落ちる前に帰ってくるはずの彼女。遅くなる時は必ず電話があるのだが、一向に連絡が来る様子が無い。新八は近くを探してくると外に出ている。


銀時「神楽ー、銀さん朧に行って来るから留守番たのむわ」


神楽「私も一緒に行くアル!」


銀時「バッカ、が帰って来て誰も居なかったら心配すんだろ?お前はココでの帰り待ってろー」


神楽「・・・、わかったアル。何か分かったら連絡してネ」


銀時「おぅ」


愛車のスクーターの鍵とヘルメットを持って外に出ようとした時、突如鳴り響く万事屋の電話の音。神楽が慌てて取る。


神楽「アルか!?・・・、わかったアル・・・。銀ちゃん!!真選組からだヨ!」


銀時「真選組・・・?この忙しい時に何だってんだ・・・?」


この時予感がしたんだ、に良からない事が起きる様なそんな予感。普段働くはずの無い俺のカンはこんな時だけ恐ろしいくらい当たっちまう----




土方「来たか・・・」


銀時「どーゆう事か説明してくれる?」


あの後、電話に出た銀時は、声の主が土方だと分かると切ろうとしたのだがが真選組に居るから迎えに来て欲しいと言われ、詳しい話も聞かず銀時はスクーターで屯所まですっ飛んで来た。入り口には土方が立っていた----


銀時「・・・」


土方に事情を聞き、未だ目覚める事無く眠っているの部屋に通された銀時。眠った彼女の頬に手を伸ばせば僅かな温もりが感じられ漸くホッと一息つく銀時。土方の話によれば左足に軽い捻挫だけで、頭を強く打って気絶しているだけだと言う。部屋には銀時との2人だけで、案内をした土方は仕事があるから後は頼むと居なくなってしまっていた。


銀時「銀さん、心臓が止まるかと思った・・・」


眠る彼女に銀時の声は届かない筈なのに言葉に出さずには居られなかった。


銀時「お前ェが居ないと・・・、銀さんもう息ができねーよ・・・」


愛おしそうにの頭に手を伸ばす銀時。


銀時「無事で・・・、無事で良かった・・・」


細い彼女の身体を抱きしめる。彼女のこの温もり、今はそれだけで安心出来た----




ゆらゆらと心地よい振動が伝わる。真っ白い世界に佇む私。


???「さん、本当にありがとう----」


姿は見えないけれど、聞きなれた女性の声。自分が万事屋の皆と旅行に行った時に、神楽と共に貝殻を探した時、波に飲まれ途切れそうな意識を繋いでくれた優しい声が聞こえた。


「時雨さん・・・?」


そう呟くと、まるでそうだと言う様に一瞬だけ微笑む時雨の姿が見えた気がした。どうして忘れて居たのだろう・・・。死の淵に立たされた時、導いてくれた声は時雨だったのだ。お礼を言いたいのは私の筈なのにと言葉を紡ごうとした時、まるで時雨はそれを分かった様にに紡いだ。


時雨「あの人を・・・、陽炎を救ってくれてありがとう。ずっと気がかりだった・・・」


「そんな事ないです・・・。私の方こそ時雨さんに沢山助けられました」


時雨「ふふっ、お互い様なのかしらね」


「ふふふ、そうかもしれないですね」


時雨「そろそろ、目覚めてあげないと心配してる人がいるわ」


「?」


時雨の言葉に疑問符を浮かべる


時雨「ふふふ、目が覚めれば分かるわ。こんな形だけれど貴女とまたお話できて良かったわ」


「私もです、時雨さん」


時雨「さん」


「?」


久しぶりの時雨の声は、生前と変わらず優しげで穏やかだった。けれどふと、自分の名前を呼ぶ時雨の声は何処か悲しそうだった・・・。


時雨「決して【諦めないで】。そして自分の心に素直になって。あの人もそれを望んでいるわ」


「あの人・・・?」


時雨「貴女が望めば、あの人は必ず助けてくれるわ。だから最後まで諦めないで----」


そう時雨が言うと真っ白い世界が徐々に光の粒に変わっていく・・・。目が覚めると視界に入って来たのは、月に照らされた銀色。


「綺麗・・・」


銀時「ん・・・?、目ェ覚めたのか・・・?」


「えっ・・・!?銀さん!?」


銀時「ちょっ・・・!?暴れるな、落ち着け!」


心地よい振動は自分が銀時におんぶされていたからで、視界に入ったのは銀時の銀色の髪だった。


「ご、ごめんなさい。銀さん降ろしてください!自分で歩けます!」


銀時におぶさっているかと思うだけで、恥ずかしくて顔に熱が集まる。


銀時「だーめ、お前ェ捻挫しんてんだぞ?大人しく銀さんにおぶさってなさい」


言われてみれば、左足がジンジンと痛む。銀時はあの後、捻挫をして眠るをおぶるとスクーターを屯所に預かってもらい万事屋まで歩いていた。神楽達には簡単に事情を電話で話してある。電話越しの神楽の声が少し涙ぐんでいた気がするが分からなくも無い。銀時も同じくらい心配していたのだから・・・。


「銀さん、心配かけちゃいましたよね・・・?ごめんなさい・・・」


銀時におぶさっていると言う事は、あの後自分が気を失ったのだと考えればすぐ分かる。電話もせずこんな暗くなるまで連絡しなければ、皆に相当心配させただろう・・・。


銀時「銀さん、が作ったパフェ食いてェなー」


「ふふふ。はい、銀さんの好きな苺のっけちゃいます」


銀時なりの気遣いだと分かる言葉。あとどれくらいこうして傍に居られるのだろうか・・・。時雨の言葉が胸に刺さる。


時雨「決して【諦めないで】。そして自分の心に素直になって。あの人もそれを望んでいるわ」


時雨の言うあの人が誰かは分からない。けれど銀時だったら良いのにと思わずにはいられなかった・・・。




君は僕を照らす太陽で、貴方は私を輝かせてくれる月。どちらも欠けては輝けない存在であると共に、決して交われない存在。でも願わずには居られない、いつか貴方の隣に並んで歩ける事を----




太陽は君で、は貴方。叶わないはまるで私達の様