止められない、君への想い----
行き成り風呂に入ってくるなり、さんがっ!!と言って血相を変えてやって来た新八。その慌て様に頭に過ぎる【不安】。俺は慌てて服を着て新八と共にと神楽を探しに行く。桔梗に心当たりは無いかと尋ねれば、日中2人に人魚の伝説をしたと言う事を聞いた。簡単に話を聞いて闇夜の海岸を走り出した。足元を照らすのは僅かな月明かりだけ。思い出すのは今日2人の時に話していた神楽との話。が居なくなってしまう、そう考えただけで心を締め付ける苦しさ。俺は、彼女が居なくなって平気で居られるのか?隣に居るのが当たり前になってしまった彼女。彼女の作る温かい料理、俺の為にと時々作ってくれる甘味。耳に心地良い声。心を安らげてくれる君の笑顔。困りながらも怪我を手当てしてくれる優しい君。彼女の【存在】自体もう無くてはならない存在なのだ。
当ても無く海岸を2人を探して走る。浮き上がる汗を手で拭いながら漸く見慣れたチャイナ服とを見つけた。出掛けに感じた不安は思い過しだったようだと一息つければ、こちらに気づいた神楽が嬉しそうに此方に走り寄ってきた。俺の心配など知らずに相変わらずの毒舌を吐く神楽。こんなやり取りも慣れた物で適当にあしらって此方に来ようとするの方を見ると、突然現れた大きな水飛沫----
銀時「っっっ!?」
それは一瞬の事だった・・・。突如現れた大きな水飛沫に視界を塞がれ、居るはずの彼女がその場に居なかった。を探して海に飛び込み、彼女の姿を探す。苦しそうに此方に手を伸ばして海の底に沈んでいく彼女。その沈んでいく小さな身体を必死に泳ぎながら抱き止めた。俺は神様なんて信じちゃいねェ。だけどこの時だけは居るかも分からない神様って奴に祈ったんだ。どうか、どうかコイツを連れで行かないで下さいと----
漸く岸にたどり着きを砂浜に寝かせる。水を含んだ着物が重い筈なのに、抱き締めている彼女の体重は驚く程軽く冷たい。口元に手を当て呼吸を確かめればしている様子が無い。さっきからの傍に座り込み泣いている神楽に人を呼んで来いと伝えれば、事の緊急性が分かったのだろう、涙を必死に拭い如月の方に走っていった。迷っている時間は無い・・・。呼吸をして居ない彼女の顔を引き寄せ己の唇をの唇に重ねた。初めて重ねた彼女の唇はとても、とても冷たかった----
そこは何時か見た真っ白い世界。真っ白で何も無い世界。どっちに進めば良いか分からなくて歩き出せば、不意に感じた手の温もり。
???「そっちに行っては駄目ですよ」
手を握られているのに姿を見る事が出来ない。その人の声は何処かで聞いた事がある気がした。とっても、とても聞きたかった声。
???「進む道が分からないのなら、耳を済ませて見て下さい。きっと進む道が分かるから----」
声の言う通りしてみれば自分の名前を呼ぶ声----
神楽「!っ!!目を開けてヨっ!」
新八「さんっ!!」
あぁ、大好きな2人の声だ。そして、私が世界で一番名前を呼んで欲しい人の声。
銀時「っ!」
皆が、大好きな皆が私を呼んでいる・・・。心配させたくなくて、悲しませたくなくて慌てて声のする方へ走る。なぜだろう、姿が見えない懐かしい人の声の主が後ろで微笑んでいる様な、そんな気がした----
自分の顔を濡らす何か。目を開ければ泣いている神楽。その横で自分を囲むように心配そうに此方を見る銀時と新八。
神楽「っ!?・・・!が目を覚ましたヨ!!」
新八「さん・・・!良かった・・・。本当に良かった・・・!」
そう言って私を抱き締めてくる神楽。新八は私の手を握る。
「心配・・・、かけてごめんなさい。皆が、皆が私を呼んでくれていたのずっと聞えてました・・・」
あの時、真っ白な世界で手を引いてくれる人が居なかったら・・・?名前を呼んでくれる人達が居なかったら・・・?そう思ったら急に怖くなった。もう皆に会えなくなるんじゃないかって・・・。そんな時、不意に私を抱き締めていた神楽の温もりが消えて大きな逞しい腕に抱き締められた。
銀時「おかえりっ・・・」
銀さんに抱き締められていて、銀さんがどんな表情でその言葉を言ったのか分からなかったけれど・・・、なぜか銀さんが泣いている様な気がして、私は銀さんを抱き締め返してまたこの温もりを感じられる安堵に涙が零れた。
「ただいまっ・・・」
その後は大変だった。歩けるから大丈夫だと言うに反論を許さないかの様に銀時は彼女を背中におぶって旅館に帰ったのだ。男の人に背負われるなんて生まれて初めての経験だった。銀時も水に飛び込んで自分と同じ様に濡れて冷たい身体の筈なのに、背負われた彼の背中は温かくて・・・。冷たい自分の身体にとても心地良くて、幸せで、嬉しくて止まった筈の涙がまた零れそうになった。
如月に着くと、心配をかけた桔梗さんにお詫びをして冷えた身体を温める為に露天風呂に入った。お風呂を出て皆が居るだろう部屋に戻ると、疲れていたのだろう・・・、桔梗さんが用意してくれていた布団に神楽と新八は既に眠ってしまっていた。
「2人とも・・・、心配かけてごめんなさい・・・」
そう言って肌蹴られた2人の布団をかけ直し起こさない様に部屋につけられた電気を消した。
銀時「俺も心配したんだけどなァ〜」
「っ!?ぎ、銀さん・・・」
そう言って部屋の入り口に濡れた頭をタオルで拭いながら銀時が立っていた。2人が寝ている部屋を通り過ぎ、障子1枚隔てた窓際の少し大きめの客用ソファーに腰掛ける。障子が開けられ月明かりが部屋の中に差し込む。2人がその明かりで起きてしまわない様に、も銀時が居る窓際へ移動し障子を閉めた。大き目のソファーと言っても大の大人が2人座るのには少し狭くて・・・。銀時の傍に来たは良いがどうしたものかと悩んでいると、銀時が無言で自分の空いた隣の席に手をポンポンと叩いた。隣に座れと言われた気がして少し躊躇ったが意を決して座る。銀時との距離は僅か5cm程。緊張しないはずも無く、けれどは銀時に言わなければいけない事がある。
「ぎ、銀さん・・・。お礼・・・、まだ言ってませんでした・・・」
銀時「ん〜?」
「溺れた時に・・・、助けてくれて・・・、有難うございました・・・。あとずっと名前呼んでくれて・・・、有難うございます・・・」
そう言うに黙って視線を向ける銀時。白い世界で、貴方の声が一番強く自分の名前を呼んでくれていた様な気がする・・・。自惚れかもしれないけれど。だけどそのお陰でまたこうして貴方の傍に居る事が出来るから・・・。
「何か・・・、何か私に出来る事は無いでしょうか・・・?日中もナンパから助けて頂きましたし・・・」
銀時「あ〜・・・。お前ェは何もしなくて良いんだよ。十分過ぎる位してくれてんだからさ」
君は知らないだろう、君が万事屋に来てから俺達の生活は一辺したんだ。3人での生活も楽しかったけれど、君が居ると安らぐんだ。何処か満たされない孤独が何時も自分の中にあった。真っ暗闇の中に一人だけ残された俺を君と言う【光】が照らしてくれたんだ----
「で、でもっ・・・!」
銀時「良いから、良いから」
それっきり無言になる2人。は何を話して良いやら分からずソワソワし出す。無言に堪えれなくなって立ち上がる。
「の、喉渇きませんか?何か飲み物取って来ますね!」
そう言ってソファーから離れようとする。しかし不意に手を掴まれ引っ張られる。
「えっ・・・?」
自分の身に何が起きているのか理解するのに少し時間がかかってしまった。なぜなら銀時に手を引かれたは銀時の膝の上に横向きに座らされて抱き締められていた。
「っっっ!?」
銀時「あ〜、あれだ。どうしても何かしてェつうなら・・・、【癒して】くんねェ?」
そう言っての赤くなる顔を覗き込みながら、口端を釣り上げて笑う銀時。行き成りの出来事に何を言われているのか理解出来ず、少し時間を置いて必死に頭の中を整理する。銀時の言う【癒し】とは・・・、が出す不思議な力の事だろうか・・・?と言う事は自分は銀時を抱き締めなければならない。初めて力を出した時、銀時は瀕死では必死だったせいで銀時を強く抱き締めていた事なんて頭からすっかり抜けていた。
「そ、それはっ・・・」
銀時「銀さんさァ〜、年甲斐も無く海飛び込んじゃって、ち〜っとばかし疲れちゃったんだよねェ〜」
の癒しの力は怪我だけでなく、身体に起きる全ての不調を癒す事が出来る。それは病気や疲労であってもだ。不治の病で死が近かった自分がなぜこんな力を持っているのか分からない。しかもどうやら自分には力は発揮出来ないみたいなのだ。銀時にそう言われてしまえば、恥ずかしくて断る事など出来るはずも無く・・・。
「うっ・・・。わ、分かりました・・・。そ、その代わり!お願いします・・・、目、目瞑って下さい・・・」
銀時「おう。それくらいお安い御用〜」
貴方の紅い瞳。あの瞳に見つめられてしまうと身体が動かなくなってしまう・・・。まるで金縛りに合ったみたいに目が逸らせない。銀時が目を瞑るのを確認すると、オドオドとそのままの体勢で銀時の首に自分の腕を回す。淡く光りだす銀時の身体----
中々目を開けないに不安が募る。冷たい唇に己の唇を重ね空気を送る。必死に、必死に彼女の止まってしまった呼吸を取り戻す為に。飲み込んでいた大量の海水を吐き出し、目を開ける彼女。その時どれ程俺がホッとしたか君は知ってる?現実か不安になって君をきつく抱き締めた。冷たかったけれど抱き締める胸から伝わる鼓動は確かに君が【生きている】と教えてくれて・・・。不意に込み上げた涙は止められなかった---
遠慮するを無理やり背負って宿に帰り、冷たい身体を温める為に温泉に入った。1度目はゆっくり入っている暇なんて無かったから少し長めに。癖の有る髪も濡れたせいか少しだけ何時もと違って、滴り落ちる水を拭きながら部屋へと戻れば眠る2人に優しく声をかけ肌蹴た布団を直している彼女。2人へ謝罪の言葉の言う彼女に、その中に自分は居ないのかと少し意地悪を言って奥の部屋の窓際のソファーへ座れば、慌てて追いかけて来る彼女。何時までも立ったままでいるから隣に座るようにソファーを叩けば戸惑うように座る。少しは【男】と自分を認識してくれているんだと思うと嬉しくなる。普段【家族】として接している様にしている。そうじゃないと自分が彼女に寄せる邪な欲望に、自制が効かなくなりそうだから・・・。そんな事を考えていると突然お礼を言う彼女。礼など必要無いんだ。君が居ないと駄目なのは俺だから。君が想うより俺は君が必要だから・・・。
突然席を離れようとするを慌てて抱き寄せてしまった。2人で居られる時間なんて中々無いから・・・。この時間を少しでも君と過ごしたいから・・・。を横向きに抱き締めて彼女の肩に額をつける。風呂上りのは普段高く結っている長い髪を首筋にそって前に垂らしている。仄かに香る石鹸の香りと彼女の優しい香り。普段着の着物ではなく寝る時に着る薄い寝巻き。彼女の身体の柔らかさや温かさが直に伝わってくる。何時もの如く顔を真っ赤にするが可愛くて、悪戯心が湧く。実を言うと実際は疲れてる訳ではない。只、彼女を苛めたくて癒して欲しいと嘘を言う。断られるだろうと思っていた予想とは打って変わって承諾する。まさか、男に免疫の無い彼女が承諾してくれるとは思って居なかった俺は、必死ににやけそうになる顔を隠した。
オズオズと自分の首に回された彼女の腕。温かい光が自分を包む・・・。人はコレを【幸せ】と言うのだろうか?親を知らない自分にとって温もりは程遠い存在だった。肌を合わせた女達は居たけれど今感じているような満たされた気持ちにはならない。一層ずっとこのままで居たい何て柄にも無く思っちまった。そんな想いとは裏腹に、彼女の【女性】に徐々に反応している自分の男の身体・・・。俺の胸に当る彼女の柔らかい2つの膨らみ。俺を抱き締めているせいでその2つの膨らみは俺の胸に潰されて、痛いくらいにその柔らかさを強調する。湧き上がる情欲。既に下半身の欲望は頭を持ち上げかけている。そんな時----
「ふぅ・・・。銀さん、身体の具合どうですか?」
そう言って俺を抱き締めていた身体を離して、赤い顔で微笑みながら聞いてくる。
銀時「・・・」
「銀さん・・・?」
癒しがある程度終わり、銀時から身体を離して尋ねれば反応が無い。私の肩に乗せて下を向いている銀時の顔を覗きこんで後悔した・・・。覗き込んだ銀時の表情は、何時ものダルそうな物や意地悪そうな物でも無く、銀時が過去に1度だけ私に見せた表情・・・。銀時が高熱で倒れる寸前に見せた熱の篭った・・・、一度囚われたら逃げられない紅い瞳と目が合った----
僅かに止まる私の呼吸。紅い呪縛が捕らえて離さない