何よりも、君を失うのが怖い----
どうしてこんな事になっているのだろうか・・・?私の手を引きながらさっきから不機嫌な銀時。それは数分前の事----
神楽に走らされて息が上がってしまった。銀時と新八に待たせてしまった事を謝れば、新八は顔を真っ赤にして下を向いてしまっている。銀時はと言うと・・・、自分の口元を隠すように片手で口を押さえ目線はあらぬ方向を向いている。顔が少し赤い気がするのはきっと暑さのせいだろうとは思う。
神楽「どうネ!私がの為に選んだ水着ヨ。お前達感謝するヨロシ」
そう言ってニヤニヤ笑う神楽。一体何を【感謝】なのだろう・・・?
新八「と、とっても、き、綺麗です!!さん」
「ふふっ、新八君お世辞でも嬉しいです。有難うございます」
そう言って微笑む彼女。その綺麗な笑みに益々新八の顔は赤くなる。
「さあ、皆さん何処かにシートをひいて荷物置きましょう」
そう言って神楽と共に場所を探し出す。銀時も新八も慌ててその後を追う。運が悪い事に人が多過ぎる為屋台などの近くに場所を取る事は出来なかったけれど離れた所に場所を見つけた。こうも屋台が遠いと人も少ない様だ。
「銀さん、さっきから黙ったままですけど具合でも悪いですか?私何か冷たい物でも買って来ますね」
銀時「あ、あぁ。すまねぇ・・・」
そう言って屋台の方に歩き出した。一人では危ないと新八も着いて行った。シートを引いたパラソルの下残った銀時と神楽。
神楽「銀ちゃん、私時々怖くなるヨ」
銀時「・・・、何が怖いんだよ・・・?」
神楽「がね・・・、が居なくなってしまう様な気がするのヨ」
銀時「っ!?」
神楽の言葉に驚く銀時。まさか自分も感じていた漠然的な【不安】。それを神楽も感じていたのか。そうは・・・、上手く言葉には言い表せないけれど現実味に欠けているのだ。いつも俺達3人の姿を一歩後ろから彼女は何時も見ていて・・・、そうまるで一分一秒でも見逃さない様自分達の姿を目に焼き付け様としているようで・・・。何時か消えてしまうその時まで、俺達との【想い出】を作ろうとしている様に思わせる。突然俺達の前に現れた。優しくて、美しくて、何よりも純粋で・・・。それは一時の夢物語なのではないかと、ある日突然目が覚めて彼女の存在は【夢】だったのではないだろうかと不安にさせる。そんな思いを振り切る様に銀時は言う。
銀時「は・・・、は消えたりしねェよ。お前が悲しむ事、アイツがするわけ無いだろ?」
神楽「うん・・・。そうだよネ!はそんな事しないよネ!」
ずっと不安だったアル。初めてと会った時から彼女から感じた何かの【儚さ】。まるで今、この時が幸せな夢を見せられている様な気がするヨ。だから、だから女将さんから貝殻の話を聞いた時思ったヨ。それがあればずっと、ずっとと一緒に居られるって。優しくて、綺麗で・・・、はマミーみたいネ。本当のマミーはもう居ないけれど、きっと神様がそんな私とを会わせてくれたのヨ。大好きな、大好きな。
その頃、と新八はと言うと・・・、余りの人の混み具合に2人ともはぐれてしまっていた。
「新八君居ないですね・・・、大丈夫かな・・・」
手には3人分の飲み物。勿論、銀時と新八と神楽の分だ。屋台で飲み物を買う際、何を買おうか迷っていた。銀時は何を飲むだろうか・・・、暑さで機嫌が悪いのなら彼が好きな甘い飲み物が良いだろう。しかし屋台に苺牛乳は・・・、あった。不思議だ、普段なら絶対売っていないだろう。しかしこれで銀時の機嫌が直ってくれれば良いと思う。やはり彼にはずっと笑って居て欲しいから。こう人が多いと新八を見つけるのは不可能だろう。そう思って銀時と神楽が待つシートへと歩き出す。きっと新八もそうするだろう。そうして歩き出すとに声をかけて来る人物。
男A「ねね、そこの綺麗なおねぇさん。暇なら俺達と遊ばない?」
そう言っての肩に手を触れてくる男。人数は全部で3人だろうか。
「すいません、見ての通り連れが居るんです。申し訳ありませんが他の方誘ってください」
そう言って3人分の飲み物を見せる。しかし男達もそう簡単には諦めてくれない。こんな美人中々お目にかかれないだろうから。そう言ってに詰め寄る男達。
???「悪ィな、汚ねェ手でこの子に触んないでくれる?」
正直驚いた。の水着姿が見られるとご機嫌だった俺だったけれど、部屋が同じだとは思わなかった。とは万事屋に帰れば一緒に住んでる。だからと言って一緒に寝ている訳でも無く、を押し倒したあの事件以来、彼女に触れる度自分の【邪な欲望】が疼く様になってしまった。好きな女が同じ屋根の下で寝ていると思うと堪らなかった。もう何度、夢の中で彼女を汚してしまっただろうか。神楽が居なければ欲望のまま彼女を傷つけて居たかも知れない・・・。だから違う部屋で良かったのだ。だけど今回はそうはいかないらしい。同じ部屋で一緒に眠る。いくら神楽や新八が一緒に居ると言っても、自分はこの脆い【理性】で耐えれるのだろうか・・・。そう思うと喜んでる場合では無かった。そんな俺を見て心配してくれる彼女に、良心が痛んでしまったけれど・・・。
俺の為に飲み物を買って来てくれると言って離れた。どうも帰りが遅い。新八が居るから大丈夫だとは思うけれど、彼女に何か起きているのではと思うと気が気じゃなくて神楽に散歩に行って来るわと言い残し探しに行った。
なぜだろう、溢れる人混みの中まるで彼女は周りを照らす【光】の如く光っているのだろうか俺は迷う事無くその足を彼女へと向けている。その光で自分だけ照らして欲しいなんて思う俺は小さな人間なのだろうか。案の定彼女を見つければ、男達3人に囲まれ何やら詰め寄られている。男の一人が彼女の肩に触れている。その時どうしようもない怒りと共に湧き上がる【独占欲】。俺以外の男が彼女に触れるな----
銀時「悪ィな、汚ねェ手でこの子に触んないでくれる?」
「銀さん・・・!」
男C「チッ・・・。男連れかよ〜・・・。オイ行こうぜ、次だ次」
そう言ってから離れる男達。あぁ・・・どうして貴方はいつも私が困っている時に現れてくれるのだろう。その貴方の優しさに私は【期待】しそうになってしまう。貴方も私と同じ気持ちで居てくれたら良いのに何て・・・。私のしてはいけない【願い】。
「銀さん、有難うございます!銀さんが来てくれて助かりました」
そう言ってペコリと頭を下げる。本当はあんな男達自分一人で何とか出来る。だけどなるべく人を傷つけたくないから・・・。そんな私を貴方に知って欲しくないから・・・。だからどう追い払おうか困っていたのは本当。
銀時「・・・、新八は・・・、新八はどうしたんだ?」
「この人混みではぐれてしまって・・・。銀さん達の所に戻ろうと思ってました」
そう言って微笑む。そんな彼女に
銀時「一人で居るな・・・。お前危なっかしいからよ」
そう言っての手を握り歩き出す銀時。本当は心配させるなとかお前は綺麗だから気をつけろとか言えれば良いのに、変な照れ臭さが素直に言葉を出す事を止めさせた。無言で歩き続ける銀時と。銀時が握り締める手が少し痛い。そして何より恥ずかしい。
「ぎ、銀さん。少し止まって、止まって下さい」
そう言えば止まってくれる銀時。長身の銀時が足早に歩けば必然的に背の低いは小走りになる。少し上がった息を整えながら
「銀さん、はいコレ」
そう言って持っていた紙コップを銀時に差し出す。
「銀さんの為に見つけたんですよ。これで少しは気が晴れますよ」
そう言って微笑む。元はと言えば、自分が色々考えすぎてそれを見かねたが自分の為に買いに出てくれたのではないか。自分のせいであんな目にあったと言うのに、彼女はまったく気にした様子も見せず微笑んでいる。あぁ・・・何て愛しいのだろう。色々考え過ぎていた自分が情けなくなる。どうしようもなく今、彼女を抱き締めたい欲求を何とか堪えて笑顔を返す。
銀時「さんきゅーな。ちゃんのお陰で銀さん元気100倍よ?」
「ふふふっ。それは良かったです」
アレコレ考えるのはもう止めにする。いくら考えたって答えが出るはずも無いし、今はこの笑顔があれば良いと思ってしまう。

君の笑顔は闇を照らす光だから
少し強く握ってしまっていた彼女の手。その力を抜いて今度は包み込むように優しく握り締め直す。年甲斐も無く鳴り出した心臓の鼓動はどうか彼女に聞えません様に----
海に来たのが初めての。それからは時間はあっという間に過ぎて行った。ビーチバレーにスイカ割り。岩場でカニや魚取りをして、思い出に浜辺に打ち上げられた綺麗な小さい貝殻なども取ったりした。楽しかった・・・。沢山、沢山想い出が出来た。病室に居た自分では絶対考えられない様な体験。自分に残された時間はあと約【半年】。今は夏真っ盛り。桜が咲き始める頃にはもう自分はココには居ないだろう・・・。それまでは、それまではこの一瞬一瞬を心に刻みつけよう。愛しい人と、大好きな人達と過ごすこの時を----
「あれ・・・?神楽ちゃんは?」
新八「あれ、さんと一緒じゃないんですか?」
海辺で楽しい時を過ごした万事屋メンバー。楽しい時間は過ぎるのが早くて気づけば夕方。旅館に戻り潮風に晒された身体を温泉で洗い流した頃には外はもう暗くなり始めていた。一緒に温泉に入っていたと神楽だったが、先に部屋に戻ってるからはゆっくりして来てヨ!と言って先に温泉から上がってしまった。沢山遊んだせいで疲れた身体。如月の温泉にゆっくり浸かりながら色々今日あった事を思い出しながら長湯をしてしまった。部屋に戻れば新八は神楽はまだ戻って来ていないと言う。彼女は【夜兎】だから大丈夫ですよと新八が言うけれど、にとっては夜兎だろうと神楽は【神楽】なのだ。自分を慕ってくれる小さな女の子。心配にならないはずが無い。ふと思い出す。桔梗と話した【人魚の伝説】。そう言えば神楽はやけに真剣に聞いていた様な気がする・・・。部屋の窓から外を覗けば闇夜に浮かぶ綺麗な月。は少し探しに行って来ると新八に言い残し慌てて外に飛び出した。
新八「あっ!さん!!」
いつも冷静なの慌て様に驚く新八。尋常ではないの行動に何となく不安になって、まだ温泉に浸かっているだろう銀時に慌てて伝えに行く。
「はっ、はっ、はっ・・・」
月の綺麗な晩、本当に大切な者と共に居たいと願う者が男と人魚が出逢った場所に行くと見つける事が出来る貝殻。その貝殻の上蓋を自分が下蓋を共に居たいと願う者に送ると、2人はずっと一緒に居られる。
「神楽ちゃん!神楽ちゃん何処ですかっ!?」
当て所も無く走り回って神楽を探す。何だか神楽が泣いてる様な気がする・・・。桔梗さんの話を聞き終わった後の神楽の暗い顔が頭に過ぎる。一人で泣いて欲しくなんて無い。私にとっては銀時と同じくらい大事な【女の子】。万事屋に住まわせて欲しいと無理を言った自分に
神楽「私は信じるアルヨ。沢山、沢山苦しかったんだヨネ。ココに居れば楽しいアル!」
と言ってくれた神楽。あの言葉にどれだけ救われただろう・・・。慌てて出てきてしまったからビーチサンダルが足に食い込んで痛い。けれど走り続ける。小さな小さな女の子を一人で泣かせない為に。どれくらい探し回っただろうか・・・。走り回ってうるさい位に鳴り響く心臓の鼓動。熱帯夜のせいで噴出す汗は頬を伝う。体力も底をつきかけ身体ももう限界だった。最後にたどり着いた岩場。日中にカニや魚を取った場所だ。その岩場に見える見慣れた赤いチャイナ服。
「はっ、はっ、はっ・・・。やっと、やっと見つけた・・・。神楽ちゃん」
神楽「・・・」
つかれ切った身体に鞭打って神楽の座り込んでいる隣に腰掛ける。
神楽「・・・。貝殻見つからないヨ・・・。ずっと、ずっと探したのに何処にも無いアル・・・」
そう言って岩場に体育座りして膝に顔を埋める神楽。そんな神楽を包み込む温かい温もり。
神楽「私、の事大好きアル・・・。新八も・・・、銀ちゃんも大好きアル・・・。だからずっと、ずっと一緒に居たいネ。だから貝殻探してるのに・・・。見つからないアル」
そう言って泣き出す神楽。そんな神楽をは抱き締める。
「貝殻何て・・・、必要無いですよ。私達はずっと、ずっと【一緒】です。可愛い神楽ちゃん置いて居なくなるはず無いじゃないですか。今日みたいに、沢山、沢山思い出作りましょ・・・?」
初めて神楽についた【嘘】。そのずっとの中に私は居る事は出来ないけれど・・・。でも沢山、沢山思い出を作ろう。何時までも君の中で覚えていて貰える様に・・・。私が居なくなっても君が悲しくならない様に・・・。泣き出す神楽を優しく抱き締めどれ位経っただろう神楽が顔を上げる。
神楽「!コレ!!」
そう言う神楽の手に握られている淡い光を放ち手のひらに乗る小さな貝殻。そこに潮風に乗って聞えた綺麗な女性の声。
???「貴女の気持ち、ずっと、ずっと大切にして下さいね・・・。願わくばあなた達がずっと一緒に居られます様に・・・」
そして一瞬強く光った貝殻。声と共に光は消えてしまった。神楽の手のひらに残った虹色の貝殻。声の主は誰だったのだろうか?もしかしたら、最後の最後まで人の幸せを願って泡になって消えた人魚の声だったのかもしれない。嬉しそうに貝殻を握り締める神楽。そんな神楽に嬉しくなって微笑む。
「きっと、神楽ちゃんの純粋に願う想いが人魚さんに届いたんですね」
神楽「・・・。は貝殻何て無くてもずっと一緒だって言ってくれたアル。も私と同じ気持ちで居てくれたんだよネ?私とっても、とっても嬉しいアル!は居なくならないよネ?ずっと一緒に居てくれるよネ?」
「・・・えぇ。ずっと、ずっと一緒です」
何時か最後の時が来て嘘をついた私を君は怒るだろうか?私を嫌いになってしまうだろうか?そう思うとは胸が痛いのだ。純粋に自分を慕ってくれているこの小さな女の子を裏切ってしまうのが・・・。そんな思いを悟られない様に精一杯神楽に微笑んで言葉を返す。そんなに神楽が渡してくれた貝殻の下蓋。叶う事ならずっと一緒に居たい。ずっと、ずっと・・・。溢れそうな涙と想いを隠す様に笑う。
神楽「あっ!銀ちゃん!」
そう言って指を指す神楽。新八が伝えてくれたのだろう、銀時も僅かに息を切らせていた。神楽が心配で銀時も走って探してくれていたのだろう。そんな彼に嬉しくなる。
神楽「見て見て!この貝殻!とお揃いヨ!羨ましいだろ天パー」
銀時「おィおィ・・・探しに来てやった銀さんに行き成り天パー呼ばわりですかコノヤロー!」
そう言って銀時に走り寄る神楽。そんな神楽の暴言を何時もの如く返す銀時。岩場に1人残されたも銀時達の傍に行こうと座り込んでいた腰を上げた----
銀時「っっっ!?」
銀時の悲痛な叫びが聞えた途端、自分の視界を覆った【水】。岩場に打ち上げられた波がを攫って海へと誘う。まるで嘘をついてしまった自分を咎める様に----
波に攫われたを探して慌てて海に飛び込む銀時。は【泳げない】のだ。いや、泳げないと言うより泳いだ事が無いのだ。その上神楽を探し回ったせいで疲れ果てた身体。水を吸い込む着物は重く身体に纏わりつき、どんどん海の底へと自分を導いていく。必死にもがくけれど疲れ果てた身体に重い着物。動かせない身体に苦しくなる息。こんな所で【死ぬ】訳にはいかない・・・。まだ共に居たいのだ。このまま逢えなくなるなんて、銀時に逢えなくなるなんて嫌だ。薄れゆく意識の中、最後に見えたのは大好きな銀色と自分の身体を包む逞しい腕だった----
君を失う怖さ。君が居ないと世界は色馳せてしまうんだ