傍に居られるだけで・・・  第十四訓  人魚の伝説 



ずっと一緒に居たい、たったそれだけが酷く危うい----



昔、昔、ある所に1人の歌声の美しい人魚がおりました。
人魚はとても、とても、地上に興味がありました。だから毎日、毎日水面から顔を出し地上の様子を眺めるのが好きでした。
そんなある日の月が綺麗な夜、人魚は美しい笛の音色が聞えて水中から顔を出しその音色を探しました。
海辺の岩場に腰を下ろし、静かに笛を吹いていたのは一人の男でした。人魚はその音色がとても気に入りました。
男に見つからないように人魚はその音色に合わせて唄を歌いました。それは、とても美しい幻想的な光景でした。
突然聞えてきた歌声に最初は驚いた男でしたが、その美しい声に一瞬で心を奪われ演奏を中止するような事はしませんでした。
それから、2人は良くこの場所に来て男は笛を人魚は歌を歌いに来ました。そんなある日、男はどうしても歌声の主を姿を見たくて声をかけました。


男「歌声の美しい名前も知らない貴女。どうか私に姿を見せてはくれませんか?」


突然の男の言葉に驚く人魚。


人魚「とても美しい笛の貴方。どうか許して下さい、私は人魚。人間の前に姿を見せる事は出来ないのです」


男「貴女が人では無い事は何となく知っていました。そんな美しい歌声を人は持つ事は出来ないから」


人魚は驚きました。今まで自分の姿を見た人間は【化物】だと逃げていきました。人は人以外の生き物をとても、とても恐れたからです。
人外の生き物だと知りながら、自分に会いたいと言ってくれた男に人魚はとても嬉しくなりました。そして人魚は男の前に姿を現したのです。
そんな2人が恋に落ちるのにそう時間は掛かりませんでした。いつも夜しか会えない時間がとても長く感じられ、人魚はずっと男と一緒に居たいと願うようになりました。人魚はヒレを人間の足にして、男と地上でずっと一緒に暮らしました。それはとても幸せな日々。しかし永遠に続く事はありませんでした。
人魚は人間の数倍の寿命があります。男が歳をとって老いていっても人魚の姿は変わる事はありませんでした。


男「君と出逢えた事は、私の何よりの幸せでした。ずっと共に居られなくてすまない」


そう最後に言い残し、息を引き取った男の顔は穏やかで幸せそうでした。男が居なくなり人魚は大層悲しみました。
愛しい人を失った辛さ。人魚にはとても耐えられませんでした。男の後を追う様に人魚は海に身を投げ泡と消えました。人魚は最後に願いました。どうか他の人達が私達の様に離れ離れにならない様に、ずっと大切な人と共に居られます様にと。その泡から出来た1つの貝殻。それは何時からか人々にこう言われる様になりました。


月の綺麗な晩、本当に大切な者と共に居たいと願う者が男と人魚が出逢った場所に行くと見つける事が出来る貝殻。その貝殻の上蓋を自分が下蓋を共に居たいと願う者に送ると、2人はずっと一緒に居られると----




蒼い空、肌を優しく撫でる潮風。視界一杯に広がる海。そう、私達万事屋メンバーは今海に来ています。と言うのも、先日陽炎さんから頂いた旅館のチケットを手に近くの海辺に遊びに来てます。が万事屋に帰るなり、急に銀時に詰め寄り


「銀さん!一緒に海に行きましょう!」


銀時「あぁ・・・?ちゃんどうしたの行き成り」


「陽炎さんから旅館のチケット頂いたんです!だから、私と一緒に行ってくれませんか?」


そう言って顔を近づけてくる。いつになく真剣な表情で詰め寄る彼女に少しドキドキしながらも銀時は考える。2人で旅館→温泉→色っぽい彼女→泊まり→・・・。


銀時「っ!?う、嬉しいよ!銀さん積極的なちゃんも良いと思うけどねっ!だ、だけど銀さんにも心の準備ってもんがねっ!!」


「1泊2日ですけど、海の近くの旅館で4名様ご招待って書いてあるんですよ。だから新八君と神楽ちゃん誘って行きたいんです」


そう言ってニコニコする


銀時「4名様・・・?えっ、2人で行くんじゃ・・・」


「ち、違いますよ!!そんな・・・、2人で何て・・・」


そう言って顔を赤くする。さっき自分に詰め寄って来ていた彼女の姿は何処にも無い。


神楽「、それ本当アルか!?私達も行っても良いアルか?」


「うん、勿論ですよ。陽炎さんに万事屋の皆さんにお礼だって貰ったチケットですから」


神楽「キャッホーーーイ!と旅行アル!急いで支度するアル!!!!」


新八「さん本当に良いんですか?僕らもついて行っちゃって・・・」


「???勿論だよ新八君。皆で良い思い出作りましょう」


新八の意図に気づかない。彼女の横でなぜか項垂れている銀時。そんな銀時に先ほど仕度をしようとしていた神楽が何やら、ニヤニヤしながら耳打ちをする。


神楽「銀ちゃん、銀ちゃん。さっきが【海の近くの旅館】って言ってたヨ。もしかしたらの水着姿見られるかもヨ」


そう聞くや否や物凄い勢いで仕度をしだした銀時。


神楽「男って・・・、本当に単純アル」


銀時と神楽の会話が聞えていないと新八は疑問符を浮かべるばかり。そんなこんなで話は冒頭に戻るというわけです。長谷川さんから車を借りて銀時が運転をし、旅館に向かう万事屋メンバー。残念な事に定春はお登勢さんの所でお留守番だ。神楽は勿論一緒に行きたいと駄々をこねたがが旅館は動物を連れては入れないと優しく言えば渋々了承してくれた。普段は凶暴な神楽に銀時と新八は手を焼いているが、の前だけは歳相応の子供らしさを見せる神楽。彼女が優しく諭せば素直に聞く。そんなやり取りを車を運転しながら横目で見ていた銀時は、家族ってこうゆう物なんだなっと微笑ましい。隣に座るも何時に無く楽しそうで、そんな彼女を見ていると自分まで楽しい気持ちにさせられてしまうから不思議だ。漸く旅館にたどり着き荷物を置きに行った万事屋メンバー。ここで一つ問題が起きる。


「えっ!?部屋って大部屋なんですか・・・?」


銀時「・・・」


通された部屋は広い一室。そう言えばチケットに【ご家族様】と書いてあった様な気がする・・・。普段万事屋の家に住んでいる銀時と神楽と自分だが、勿論寝る部屋は別々だ。銀時と同じ部屋で寝ると思うと恥ずかしかったが、何も2人きりな訳ではないし新八も神楽も居るのだから大丈夫だと自分に言い聞かせて無理やり納得させる。こうゆう展開に、真っ先に喜びそうな銀時の反応が無かったのが少し気にかかったけれど・・・。






神楽がさっそく海へ遊びに行こうと言い出し、銀時と新八に先に行ってもらい2人は水着に着替える。


「ふふふっ。神楽ちゃんとっても似合いますよ。それにして本当に良かった」


そう神楽に言う。旅行に来る前に水着を持って居ないと言う神楽の為に、と2人で買いに行ったのだ。


神楽「本当アルか!?が選んでくれた水着ネ。似合って当然ヨ!もとっても綺麗ヨ!」


神楽の水着は淡いオレンジ色のフリルが付いたとても可愛らしいデザインの物。のはと言うと淡い蒼色のビキニのデザイン。白い肌のにとても良く似合っていた。しかし、銀時達に見せるのはやはり恥ずかしくて、上にパーカーを羽織る事にした。そして銀時達が待っているだろう海岸へと向かおうと部屋を出ると前からこの旅館の女将である【桔梗(ききょう)】さんが歩いてきた。


桔梗「あら、海へ行かれるんですか?」


「はい、せっかく良い天気ですしとても綺麗な海なので行かなければ勿体無いと思いまして」


桔梗「ココの海は美しさで有名なんですよ。有名と言えば・・・、人魚の伝説も有名ですけどね」


神楽「人魚の伝説!?聞きたいアル!教えてヨ!」


伝説と言う言葉に目を輝かせる神楽。そんな神楽が微笑ましく思いながらもも興味がありますと伝えれば快く教えてくれた。


神楽「その貝殻があれば本当にずっと・・・、ずっと一緒に居られるアルか・・・?」


桔梗「どうでしょう・・・。実際貝殻を見つけられた人は居ないって聞きますからね。子供を喜ばせる為の昔話かもしれませんね」


神楽「・・・」


「でも・・・、相手の男性は幸せだったんだと思いますよ」


桔梗「あら?なぜそう思うの?」


「だって、大好きな人と最後までずっと一緒に居られたんですよ?死ぬ間際まで傍に居られて・・・、彼は絶対幸せですよ」


そう、少なくとも男は【最後の時】まで人魚と居られたのだ。残されてしまった人魚の気持ちは可哀相だと思う。自分が人魚の立場で、銀時が同じ様な事になったら私は人魚と同じ事をするだろう。銀時の居ない世界など、私にとっては何も無いのと同じだから。だけど、男が幸せだったとと言う事は痛いほど分かるのだ。本来なら銀時と出逢う事は無く自分は死んでいた。だけど不思議な声の主のお陰で私は最後の時を迎えるまで銀時と共に居られるのだ。大好きな人と・・・、愛しい人と最後まで居られるのだから悔いは無い・・・。そう、【悔いてはいけない】のだ。


「神楽ちゃん・・・?大丈夫ですか?顔色がすぐれませんが・・・」


神楽「っ!?だ、大丈夫ヨ!女将さん有難うネ!銀ちゃん達が待っているヨ、早く行くアル」


伝説を聞いて急に黙り込んでしまった神楽が気になったが、神楽が手を引いて走り出すと言葉を紡ぐことが出来なかった。





新八「遅いですね・・・神楽ちゃんとさん」


銀時「あぁ・・・。そうだなぁ〜」


夏も半ばと言うこの季節。やはり海辺には海を楽しむ人達が大勢居て、汗ばむ汗を拭いながらも2人の到着を待つ男2人。からいきなり旅行に一緒に行って欲しいと言われた時は、表に出さずとも叫び出したいほど嬉しかったのだ。もしかしたら彼女も自分を好きでいてくれていたのでは無いかと。しかし、そう事はうまくいくはずも無く頭に浮かんでしまった湯上りの色っぽいとお泊まりだ!などとイケナイ妄想を膨らませていた銀時の耳に4人でと言うの言葉に落胆せざる終えなかった。しかし、そんな気持ちを神楽のの【水着姿】などと言う単純な言葉に乗せられてしまい現在に至る。好きな女の水着姿を見たくないと言う男が居るだろうか?居るなら見てみたいもんだ。


神楽「銀ちゃ〜〜ん!新八〜!」


遠くから走りながら此方に向かってくる神楽。その手を握られながら後ろから走ってくる俺の【待ち人】。


「はぁ、はぁ、ふ、2人ともお待たせしてごめんなさい」


銀時「っっっ!?」


息を切らせながら俺の前に現れた。そんな彼女を見て後悔した。白い肌の彼女にとても似合う蒼色の水着。普段はポニーテールをしている髪は綺麗に一つに纏められてアップにしている。走って少し上気した赤い顔。それはとても綺麗で柄にも無く俺は他の奴らに見せたくないと思った----




眩しい位に美しい君にどうしようもなく
惹かれる