傍に居られるだけで・・・  第十二訓  温かい場所   



温もりと想い出、それ以上は望んではいけない----



高杉「くっくっくっ。揃いも揃って甘ちゃんだらけだなァ?」


銀時「俺ァ、糖分で出来てるから良いんですぅ〜」


そう言って再び鬼灯に木刀を構える銀時。こいつらに教えてもらった。自分は自分で居て良いのだと。だったら護ってやるさ・・・!昔の自分には無かったこの【温かい場所】。それを護る為、何度だって立ち上がってやろう。
再び始まった銀時と鬼灯の戦い。己の【欲望】の為に戦う者と何よりも大切な者を【護りたい】と言う者の戦い・・・。
新八と神楽とはただ黙って銀時を見つめる。戸惑いや不安、そんな感情は誰一人もう何処にも無かった。銀時なら大丈夫だ。皆そう信じているのだから。


戦いは熾烈を極めている。たが今度押しているのは間違い無く銀時だった。そう時間がかからない内に勝負はあっけなく着いた。銀時の木刀が鬼灯の魔刀を打ち砕いたのだ----


鬼灯「ちっ・・・。まさか俺が負けるとはなぁ。アンタが初めてだぜ?俺の刀折った人間は」


銀時「悪りぃな、早く帰ってジャンプ読まなきゃいけねェんだわ」


鬼灯「・・・。相変わらずふざけた【侍】だぜ。高杉さんよぉ、俺はここらで潮時ですわ」


そう言って歩き出す鬼灯。その時通路から陽炎が出て来て鬼灯とすれ違う。


鬼灯「アンタ・・・、俺に【復讐】しねぇのか?」


陽炎「・・・。許す事なんて出来ませんよ。だけどそれは望まれていないですから。私はもう振り返るのは辞めにしたんです。時雨や桜の為に出来る事をして生きていく。それが私に出来る償いです」


人を殺める。自分は家族や一族に教えてもらったのはたったそれだけ。何かを護ると言う気持ち。護りたいと言う想いだけであの侍は自分に勝ったのだ。そんな感情、自分には無い。だけど、少しだけ羨ましいと思った。


銀時「高杉、あとはテメェだけだぜ?まだやるか?」


高杉「くっくっく。銀時よォ、楽しいもん見せてもらった礼に今日は引いてやるよ。それに・・・【良いモン】見つけたしなァ」


そう言ってに視線を向ける高杉。


銀時「・・・。いくらテメェでもこいつに手ェ出したら許さねェ」


高杉「そりゃァ楽しみにしておくぜぇ?・・・、お前のその【力】必ず手に入れる。その時までせいぜい【家族ごっこ】を楽しむんだなぁ」


そう言って高杉は奥へ続く暗い通路に消えていった。


「っ!?皆、皆怪我はっ!?」


神楽「コレくらい掠り傷ヨ」


「神楽ちゃん、貴女は【女の子】何だから小さい傷でも残したら駄目ですよ」


そう言って神楽に近づいて抱きしめる。そこから溢れる温かい小さな光。それは銀時を包んだ大きな物ではないけれど神楽の傷を癒していく。


新八「っ!?さんソレ・・・」


「理由は分かりません・・・。傷ついている銀さんを助けたいって強く願ったら急に使えるようになって・・・」


神楽「、凄いネ!ラッパー見たいアル!」


新八「それ言うならエスパーだからっ!!!」


銀時「・・・。お前、身体は大丈夫なのか・・・?」


「え?あ、はい。何とも無いですよ。あっ!新八君も怪我してるじゃない!」


新八「えっ?あ、本当ですね・・・。さっき避けきれずに掠っちゃったみたいですね」


そう言って腕を見せる新八。大きくは無いけれど、血がにじみ出て着物を汚してしまっている。それを見たが放っておく筈も無く----


「新八君、こっちに来て。治せると思うから」


そう言って手招きする。お言葉に甘えようと新八がに近づこうとすると----


銀時「新八、ちょっと待て」


そう言って銀時に首根っこを掴まれ身動きが取れなくなる新八。


「銀さん・・・?」


銀時「神楽はまだ良い・・・。だけどお前は駄目だ。銀さん許しません!!」


銀時の言葉の意味が分からず?を浮かべると新八。それを一早く理解した神楽と陽炎。


神楽「銀ちゃん・・・。大人気無いアル・・・」


見かねた陽炎がにそっと耳打ちをする。


陽炎「銀時さん、自分以外の異性を貴女に抱き締めさせたく無かったんですよ・・・」


「っっっ!?」


癒しの力。それを発揮させるのに一番効果が高いのが【抱き締める】事であったから。




「や、やだ陽炎さんっ!?そんな訳、そんな訳ないじゃないですか〜」


銀時がそんな事思うわけが無い。私の様なちっぽけで、何も出来ない自分に銀時が【嫉妬】するなんて事が。分かっているのだ、銀時の周りには自分何て比べようも無い素敵な女性達が沢山居るのだから・・・。分かっている筈なのに痛む己の胸。


「そ、そんな事より!陽炎さんは・・・、これから如何するんですか?」


陽炎「時雨が居た場所を・・・、時雨が護ろうとした朧を私なりに護って行こうかと思っています・・・」


「そうですか・・・。きっと、きっと時雨さんも桜ちゃんも喜んでくれますよ。だって、だってこれからはずっと【一緒】に居られるんですから」


そう言って微笑む。今まで桜を思う陽炎と時雨の気持ちは同じ物だったと思う。だけど、陽炎と時雨の思いはすれ違ってしまっていた。陽炎も時雨もお互いを想っていた気持ちは変わらない筈なのに、自分の気持ちを素直に出せず歪んでこんな形になってしまった。でも今は違う。陽炎は気づいてくれた。時雨を恨む形で想うのではなく、桜を愛していたのは【2人】同じだったって事に。幸せだった想い出はけして消えはしない。時雨が護った朧には今も想い出として残っているはずだから・・・。


陽炎「そ、そうですねっ・・・。有難う・・・、本当に有難うっ・・・!」


そう言って泣く陽炎。泣くなんて何時振りだろう・・・。桜が亡くなって以来かも知れない。ずっと今まで時雨を恨む気持ちだけで生きてきた。そうしなければ自分が生きている理由が見つからなかったから。時雨が斬られて倒れていくのを見た時、まるでスローモーションがかかっていたような気がする・・・。だから、だから一瞬だけ時雨と目が合った気がするんだ。幸せだったあの頃、良く見せてくれた私の大好きな笑顔を向けてくれた様な気がして・・・。亡くして気づいてしまったんだ。時雨を今でも愛してたって。


陽炎「さん・・・」


「はい・・・?」


陽炎「時に、運命と言う物は人に残酷な試練を与えます・・・。それは当たり前の様に傍に居た人を【奪う】物かもしれない・・・。私は、私は・・・、最後に時雨に言えませんでした。弱かった私を許してくれと。今でも愛していたんだと・・・。でも、貴女には私と同じ【思い】はしてほしくない」


「!?」


陽炎「どんな事情があるかは分かりません・・・。私には、貴女が気持ちを抑えてる様に見受けられます。私の様に、伝えられず後悔だけは・・・、どうかしないで下さい・・・」


本当は、本当は・・・、共に歩められたら・・・、ずっと、ずっと一緒に居られたらとずっと望んで居た。貴方が好きですと、愛しているんですと伝えたかった。傍に居られるだけで私は幸せなんですよと。でも今が壊れてしまったら・・・?新八と神楽と・・・銀時と過ごす今。銀時が自分と同じ想いをしてくれてるとは思えない。この想いを否定されるのが怖い。万事屋に居られなくなるのが何よりも怖い。知ってしまったから・・・。ずっと、ずっと病室のベットで過ごしていた【孤独】。この世界に来て、色々な人たちに出会って・・・そして銀時に出逢って・・・。【温かさ】を知ってしまった。それは、とてもとても居心地が良くて・・・。もう手放すことなんて出来ないのだ。それなら、私の想いは封じ込めよう。日に日に大きくなってしまう貴方へのこの【想い】を。


「有難うございます」


には陽炎にそう言う事しか出来なかった。痛む胸をそっと隠して。


神楽「!見て見て!朝日が綺麗アル!」


そう言っての手を引っ張る神楽。長かった戦いが漸く終わった。一人も欠ける事の無い万事屋のメンバー。は銀時に駆け寄り手を繋ぐ。驚く銀時。神楽もの気持ちを分かってくれたのだろうとは別の手を新八と繋ぐ。


「帰りましょ、【万事屋】へ」


そう言って微笑みを浮かべる


銀時「あぁ・・・。そうだな」


そう言って笑う銀時と2人。繋がれた手と手。今は・・・、今はコレだけで良い。この温もりと、想い出があれば・・・。




痛む胸。誤魔化す様に繋がれた