少しでも、貴方の役に立ちたい----
夜も大分更け、私達5人は土方さんが教えてくれたメモの場所にたどり着いた。辺りは人がまるでまったく居ないかのように静まり返っていて、まるで嵐の前の静けさの様だった。初夏の風が吹く風の中に微かに香る潮の香り。静かに漂う波間。空には大きな満月が浮いていて、こんな状況でなければ余りの美しさに心を奪われていたのかもしれない。
「ここが土方さんが教えてくれた場所です」
そう彼女が指したのは港に静かに浮かぶ巨大な【船】。緊張で血が止まってしまうほど握り締めたの手。そこに大好きな温もり。
銀時「大丈夫だ。お前ェは一人じゃないんだからよ」
そう言って、握り締める彼女の手を優しく己の手で包む銀時。あぁ・・・。貴方のこの温もりに、貴方のこの言葉に、私は何度【救われる】のだろう。不安な時、悲しい時、いつも貴方が私を救い上げてくれる----
私は貴方の為に何が出来ますか?この胸に沸いて溢れる安心感と感謝の気持ち。どうやって貴方に伝えれば良いのでしょうか----
「はい、銀さん」
そう言って微笑めば銀さんの笑った顔と万事屋メンバーの2人の笑顔。大丈夫だ、私は【一人】じゃない。
船の入り口には、当然と言えばそうか。見張りが2人居た。銀さんと神楽ちゃんがあっけなく気絶させ、私たちは船の中へと----
中はまるで、私達の来る事を知っていたかのように待ち伏せが大勢居た。
新八「何て数だっ!これじゃキリが・・・!」
神楽「何言ってるアル!こんな時に目立たないでいつ目立つんだよ、ダメガネ」
新八「ちょ!神楽ちゃんこの状況でメガネ関係なくない!?って言うか僕そんなに影薄いのォォォォォ!?」
陽炎「銀時さん、さん。ココは私達3人で何とか食い止めます!貴方方は早く先へ!」
「で、でも!!」
神楽「!心配なんて必要無いアル!私の手にかかればこんな雑魚いちころヨ!」
新八「神楽ちゃんの言う通りですよ!僕達は平気です!銀さん、さんを守って下さいね!」
銀時「・・・。新八のくせに生意気言うじゃねぇか!、ここは大丈夫だ。俺達は先いくぞー」
そう言っての手を引っ張り先に導く。
「新八君!神楽ちゃん!陽炎さん!どうか、どうか怪我しないで下さいね!!」
そう言い残して先に行く。
陽炎「こんな時まで彼女は私達の心配するんですか・・・」
新八「えぇ、さんはそうゆう人なんです」
神楽「の泣き顔なんて見たく無いネ、だから早くこいつら片付けてに安心してもらうアル」
陽炎「ハハハッ、そうですね。私も彼女の泣き顔はもう見たくないですから」
さん、貴女を心配してくれる人がこんなにも居るんですよ。貴女は、貴女が思っているよりずっと皆に必要とされているんです。だから、だからどうか僕達が行くまで無事で・・・。
、私帰ったらまたのご飯が食べたいアル。新八が居て、銀ちゃんが居て、が居る万事屋のご飯はとっても、とっても美味しいアル。だから皆で早く帰るアル。
彼女とは、会って数時間しか経っていないけれど時雨が傍に置いていた理由が何となく分かります。彼女はとても【桜】に似ている。真っ直ぐで何より純粋で・・・。時雨・・・。お前が護った彼女の為に私が出来る事を、今は少しでもやろうと思う。少しずつ、少しずつお前や桜に【償い】たいから・・・。
それぞれの想いが交錯する中、1つだけ言える事。それは彼女の【為】にと言う想い。皆、形は違えど同じ想いなのだ。
3人を残し、先に進むと銀時。この先に待ち受けるのは一体-----
3人のおかげで、先を進む2人は何事もなく先に進む。暗い通路は果てが無いのではないかと思わせるくらい先が見えない。でも自分の手を握ってくれている銀時の手の温もりが、大丈夫だと言ってくれている様で・・・。は不安を感じさせる事無く前に進めた。
暫く走っていると、明かりが徐々に見えてくる。2人がそこへ向かえばそこには巨大な広間を思わせる様な広い空間が----
???「漸くお出ましかァ銀時。随分遅かったじゃねぇか」
銀時「っ!?やっぱりお前ェが絡んでたのか・・・、高杉よォ」
高杉「そいつが新しい万事屋のメンバーのか。鬼灯から話は聞いてるぜ?女だてらに中々やるらしいじゃねぇか」
そう言って此方を目を細めて見つめる高杉。漆黒の髪は、明かりを受けて艶を放ち左目には包帯。派手な色の着物に舞う蝶の絵柄。見つめてくる瞳には言い知れぬ【恐怖】を思わせる。
「高杉さん、貴方に聞きたい事があります」
高杉「くっくっく。良い目してるじゃねェか。いいぜ?聞いてやるよ」
「新開発が予定されている土地の地上げを辞めて欲しいんです!あそこには・・・、あそこにはどうしても壊して欲しくない物があるんです!!」
高杉「・・・。残念だったな。俺はその件には関わっちゃいねェ」
「えっ!?」
???「お嬢さん、新開発の話なんざ最初から無かったんだよ。全部そこに居る【白夜叉】をおびき寄せる為さ」
「っ!?」
突然後ろから現れたのは鬼灯。
「そ、そんなっ!?それじゃあ・・・!それじゃあ、何の為に時雨さんはっ!?」
鬼灯「時雨?あぁ、店に居たお嬢さんを庇った女の事か?お嬢さんを餌に白夜叉おびき寄せるつもりだったんだがよぉ、思いのほかアンタが強いんで興味が沸いてよぉ。斬りたくなっちまってさ」
「そ、そんな・・・。そんな事の為に時雨さんは・・・」
「興味が沸いた」。たったそれだけの理由でを庇って死んでしまった時雨。苦しみながらも、必死に、必死に朧を護り続けていたのに----
普段、けしては自分から木刀を振るう事はない。なぜならあくまでも【護身】の為だったから。優しい性格の彼女はけして戦いを好みはしない。店で大勢を相手に立ち回ったが、男達の急所は全て外して気絶させただけだった。そんな彼女が気づいた時には木刀を鬼灯に構え斬りかかろうとしていた。悔しかった・・・。情けなかった・・・。自分がもっとしっかりしていたならば、時雨を失う事は無かったかもしれない。そんな思いはに生まれて初めて【怒り】を感じさせていた。
鬼灯に向かって走り出そうとした時----を止めた人物が居た。
銀時「。あんなストーカーヤロウお前が相手する事ねェよ」
「でもっ!でもっっ!!」
銀時「気持ちは分かるけどよ・・・。時雨は・・・、時雨は護ったお前にこんな事望んでると思うか?」
「っ!?」
死ぬ直前まで、に怪我が無いか聞いてくるような優しい人だった時雨。そんな時雨が木刀を自ら振るおうとしている自分を見たらどう思うだろうか・・・?何よりも医者として、人が傷つくのを嫌っていた時雨。そんな時雨の気持ちを自分は少しでも考えていただろうか?
「銀さん・・・。私・・・、私・・・」
【復讐】だ何て格好の良い事並べて、実際自分は時雨に護らせてしまった情けない自分を正当化したかっただけではないのか?何て、何て醜い私の【心】。時雨がそんな事望むはずが無いと分かっているではないか。
銀時「ココは銀さんに任せて、ちゃんは後ろに居なさい。銀さんのカッコいいところ見せちゃうから」
そう言ってにウィンクをして見せる銀時。こんな時まで私の心を軽くしようとしてくれる優しい人。
銀時「待たせたなァ。テメェの腐った根性叩きなおしてやるからかかってきな!!」
始まってしまった銀時と鬼灯の戦い。恐ろしい速さで斬撃を繰り出す鬼灯に一歩も引けを取らない銀時の木刀。
高杉「くっくっく。牙を無くしたテメェがどうやって【鬼哭(きこく)】の鬼灯と戦うのか見ものだな?銀時よォ」
「鬼哭・・・?」
高杉「あぁ・・・。あいつは鬼哭族の生き残りだ」
かつて、夜兎(やと)族に並んで恐れられていた鬼哭族。真っ赤な髪と好戦的な性格が特徴で余りにも人を殺しすぎ、彼らが振るう刀は亡者達の悲痛な声が聞えてくるという。
高杉「鬼哭族はなァ、戦闘能力こそ夜兎には引けを取るが・・・。鬼灯に斬られると傷口が焼かれて2度の苦痛を味わうらしいぜ?斬られた苦痛と傷口を焼かれる苦痛がよォ」
「銀さん・・・」
銀時は鬼灯との戦いに引けを取っていない。けれど、少しづつ押されている。雑魚とは言えココにたどり着く前に相当の数を倒さなければいけなかった。銀時がいくら強くとも彼は【人間】なのだ。
鬼灯「白夜叉さんよぉ、さっきの威勢はどうしたよ?動きがにぶくなってきてんぜ」
銀時「ヘッ。あんまりにもちゃんが銀さん見つめてくるもんだから、銀さん照れちゃってよォ」
鬼灯「減らず口を!」
銀時「ぐっ!?」
一瞬だった。鬼灯が大きく振りかぶった刀を身体を捩って避けた銀時だったが・・・、その行動を待っていたかのように繰り出された斬撃。直撃は免れたものの銀時は壁に大きく吹っ飛んでいき、その衝撃の大きさから大きなクレーターが出来た。
「っっっ!?銀さんっ!!!」
銀時「来るんじゃねェ!!」
「っ!?」
銀時「銀さん、大丈夫だからよォ・・・。だから見ていてくれよ・・・」
傷付き血を流す銀時。今の衝撃でどこか骨を折ったのかもしれない・・・。苦しそうに呼吸を繰り返している。
大好きな・・・、愛しい人が傷ついている・・・。それを私はただ見つめているしか出来ないのだろうか?に突然まだ病室に居る頃の自分の記憶がフラッシュバックする。入院生活で、唯一楽しみだったのが銀時が出てくる【夢小説】だった。アニメを見たり、漫画本を読もうと望めば叶わないことは無かった。ただにはソレをする事が【出来なかった】のだ。
銀魂と言うアニメはギャグで成り立っていると思っても良いだろう。もそんな彼らのやり取りが大好きだった。けれどやはりそれだけではなくて・・・。特別思い入れのある新八や神楽でさえ時には怪我を負うような場面がある。それは勿論銀時だって例外ではない。傷付きながらも必死に護りたい物を護ろうとして血を流す彼等。貴女は馬鹿にするかもしれないが、【大切な人】や【大好きな人】が傷付くのを黙って見ていられるだろうか?例えそれがどうしても必要な事なのだとしても、はそんな彼等を見る事なんて出来なかったのだ。夢小説とはいえ、傷付く場面は有る。そんな場面に幾度涙しただろうか。それががアニメも漫画も読まない理由なのだ。
どうして、彼等が傷付かなければいけないのだろう。どうして苦しまなければいけないのだろう。只、笑って・・・、皆で生活出来ればそれで良いのに----
銀時「カハッ!?」
立ち上がる銀時に鬼灯の容赦ない刀が襲う。大量に舞う血・・・。崩れていく銀時の身体・・・。
「ぎ、銀さァァァァァァァァん!!!」
慌てて傍に駆け寄る。何とか銀時の上半身を抱き起こせば肩から腹部にかけて走る刀の傷----
「銀さん!銀さん!シッカリして下さい!!目を・・・、目を開けて下さい・・・!何時もみたいに大丈夫だって・・・、私に、私に言って下さいよぉ!!」
大量に流れる銀時の血。抱き起こしているの着物まで赤く染めていく。徐々に小さくなって止まってしまいそうな心臓の鼓動と呼吸----
私は、私は【また】何も出来ないまま見ている事しか出来ないの?剣術を習ったって、医術を習ったって、こんな時に役に立てれないのでは意味が無いのに・・・。【助けたい】。例え、このまま消えてしまおうとも・・・。例え大好きな皆に・・・、大好きな人にもう逢えないとしても----
零れる涙が銀時の頬を濡らす。その時の周りから溢れる【光】----
神楽「新八・・・」
新八「どうしたの神楽ちゃん?」
神楽「が・・・、が泣いてるアル・・・」
突如、行き成り溢れ出した光に包まれる銀時と。鬼灯と高杉は思いも寄らない光景に唖然としていた----
何だ?雨か?自分の頬を濡らす雫。でもその雫は嫌なものでは無くて・・・。温かく自分を少しずつ包んでいく----
如何してだろう、が泣いている気がする。泣かせたくなんて無いのに。ずっと笑って居て欲しいのに・・・。が泣いているならその涙を自分は拭ってやらないといけない。その悲しみの理由も一緒に無くなる様に----
目を覚ますと零れ落ちてくる光の粒。から溢れ出して来た光は大きく弾け----それはタンポポの綿毛が舞う様に辺りを零れ落ちていた。
それは、この世の物では無いのではないかと言うくらい美しい光景だった。
今だ自分の頬に降って来る雫を辿ればそこには泣きながら笑うが----
「銀さん・・・。こんな所で寝ちゃ・・・・、風邪引いちゃいますよ・・・?早く、早く用事済ませて・・・、一緒に・・・、一緒に【万事屋】へ帰りましょ・・・?」
それは【願いの力】。助けたいと強く、強く願うの想い。強く想う力は奇跡を起こす。傷付き疲労していて動かなかった身体。温かい光に包まれた途端、まるで今までの事が無かったかのように癒えた身体。
銀時「・・・。お前ェ、一体何を・・・」
「私にも分かりません・・・。銀さんを助けたいって思ったら途端に光が溢れ出して来て・・・」
高杉「くっくっく、面白い余興が見れたなァ・・・」
と銀時「!?」
鬼灯「ヘェ〜・・・。面白い事も有るもんだな。お嬢さん、アンタやっぱ気に入ったわ」
そう言って2人に近づく鬼灯。
銀時「に・・・、に汚ねェ手で触るんじゃネェェェェェェ!」
そう言って銀時が鬼灯に木刀を振る。それを難なく避ける鬼灯。
高杉「銀時よォ、傷が治った所で【今の】オメェじゃ鬼灯には勝てねェぜ?くだらねェ意地張って無いで、さっさと【白夜叉】に戻ったらどうだァ?」
銀時「っ!?」
【白夜叉】だった自分に戻る・・・。それは今だ自分が引きずる【過去の自分】。多くの命を奪い、多くの仲間を護れなかった弱い自分・・・。どんなに天人に白夜叉だ何て恐れられても、所詮は自分は大切な者を何一つ護れない小さな自分なのだ。ぎゅっと拳を握り締めたその時----
「銀さん・・・。銀さんは銀さんの【まま】で良いんですよ・・・。もう苦しまなくたって良いじゃないですか・・・。貴方はもう十分苦しみました・・・。言ってくれたじゃないですか。【一人じゃない】って。それは銀さんもですよ?」
そう言って握り締められた銀時の拳を両手で包む。
新八「さんの言う通りですよ、銀さん。僕達は攘夷戦争に居た時の貴方を知りません。でもそれでも、【今の】銀さんで良いじゃないですか」
神楽「そうアル。【白夜叉】何てけったいな名前銀ちゃんには似合わないネ。天パーのマダオで良いアル!」
そう言って現れた新八と神楽。
「新八君も、神楽ちゃんも・・・、そして私も【今の】銀さんが好きなんです」
そう言って微笑む。
あの頃は、何一つ護れず取りこぼしてきていた・・・。でも今は、今は違う。姑の様にうるさいけれど、自分の事を理解してくれて居る新八。大食らいで凶暴だけど、今では自分の娘の様に思っている神楽。そして----
誰よりも、何よりも、【護りたい】存在になってしまった。そんな彼女が【今のまま】で良いと言ってくれた。
銀時「ケッ、マダオは余計だっつのー」
もう【失わせない】。この大事な者達は自分の力で護り抜く。

温かい【家族】と温かい【愛しい人】。
ありがとう、何て照れくさくて言えないけれど