大好きなあの場所へ----
鬼灯「何だ・・・。また邪魔が入りやがった。まぁ良い、そこの銀髪。俺を退屈させんなよ?」
銀時「けっ、上等。あとで吼えずらかくんじゃねぇぜ?」
そう言うなり始まってしまった2人の戦い。銀さんはやはり強い。だけどあの鬼灯と言う者も、その銀さんに一歩も引けを取っていない。激しく交わされる木刀と刀のぶつかり合い。そんな時、急に陽炎が連れて来た男達が騒ぎ出した。
チンピラ「やべぇ、誰かが通報したんだ!真選組が来たぞ!!」
鬼灯「ちっ、今日はトコトンついてねぇ・・・。おい、銀髪名前聞いておいてやるよ」
そう言うと刀を納める鬼灯。
銀時「坂田 銀時ってェんだ。てめェの名前も教えろや」
鬼灯「俺は鬼灯ってんだ。そうか・・・。お前が【あの方】が言っていた【白夜叉】かい。くっくっく、楽しくなってきたなぁ。次に会えるの楽しみにしてるぜ?お嬢さん」
そう言いに視線を向けて笑う鬼灯。夜の闇が広がる中、まるで溶け込むように消えていった----
その姿を貫く様に見つめる銀時。そこへ土方を伴った真選組がやって来た。
土方「またてめぇか、万事屋。刀振り回してるって通報があって来たんだが、奴らは?」
銀時「それはこっちの台詞だっつうの。お前らが遅いからもう居ねェよ」
そう言いに近づく銀時。はもう動くことの無い時雨を抱きしめたまま俯いて動こうとしない。そんな彼女を見かねての名前を呼びかける。ビクッと反応すると徐々に顔を上げる彼女。
「銀さん・・・。私、私・・・。護れませんでした・・・。私は・・・、何て・・・、無力なんでしょうか・・・」
そう言ってまた零れだす涙。こんな時に【言葉】とは何と無力なのだろうか。銀時にはただそんな彼女を静かに抱きしめてやるしか出来なかった----

君の悲しみが少しでも癒される様に・・・
何時までも動かない。土方は時雨を銀時はを奥の部屋に移した。
布団に寝かされた時雨。その横に座り込む。銀時はそんな彼女の傍らへ。土方は戸口の入り口に体重をかけて寄りかかっている。
土方「一体、何があった?」
そう聞く土方に、はポツリポツリと静かに語りだした。
「理由はわかりません・・・。ただこの場所が新開発で立ち退きを要求されていて・・・。それを頑なに時雨さんは拒み続けていたんです・・・」
???「その、理由なら私が説明しよう・・・」
そう言って現れた人物は【陽炎】。陽炎は眠る時雨の隣に座って語りだした。すべての【始まり】を。
15年前、時雨がまだ医者をしていた頃。陽炎はある攘夷志士に入っていたのだが己の理想の違いから脱藩を決意し、命を狙われる日々を送っていた。その日は、雨が酷く視界が悪かった。だから油断していたのだ陽炎の後ろに潜んでいる志士が居た事に気づかなかった・・・。とっさに避けたが、気付いたのが遅かった。その怪我は背を大きく切りさっており、とても助かるような怪我ではなかった。そんな時に偶然出会ったのが時雨だった。血で真っ赤に染まる自分を背負い、自分の家まで連れて行って怪我の治療をしてくれたのだ。献身な手当てと世話のおかげで、本来【死】を予感させた傷はだんだん良くなり2人がその中で恋に落ちるのはそう時間がかからなかった・・・。
元々剣術に精通していた陽炎は、小さいながらも道場を開き時雨は腕が良いと評判の医者をしていた。【桜】と言う娘も生まれ小さいながらも幸せだったのだ。一人娘のせいか、陽炎の溺愛ぶりは時雨が呆れるくらいであった。桜は優しく何に対しても真剣で、純粋な心の持ち主だった・・・。
しかし、その幸せも長く続く事は無かった・・・。時雨はその日、急患の処置をしていた。だから知らなかったのだ、自分の娘が【事故】にあったなどと・・・。時雨がその事を知った時には、既に桜の瞳は二度と開く事は無かった。そんな時雨に陽炎は、なぜあの時桜をみてやれなかったのだ?なぜ赤の他人を優先したのだ?と問い詰めた。しかし時雨がその問いに答える事は出来なかった。自分は医者として【どんな命も平等に】扱わなければいけないのだ。あの時、処置をしていた急患を見捨てていたらきっと桜は助かっただろう・・・。しかし、急患は桜と同じ事態に陥っていたかもしれないのだ。どちらかしか助けられない・・・。それ以来、陽炎は時雨を憎むようになり時雨は3人が暮らしていたこの【場所】に朧を建てた。
陽炎「本当は・・・分かっていたんです。あの時もし桜が助かっていたとしても、桜がそれを知ったら絶対悲しむんだと。時雨がした事は決して間違ってはいないんだと・・・。だけど、どうしても許せなかったんです。桜を助けられなかったアイツが・・・。だから邪魔してやるつもりだったんです。桜と私と時雨が住んでいたこの土地を大切にしているアイツを・・・。死なせるつもりなんて・・・、無かった・・・」
時雨が頑なにこの土地を【護った】理由。それは愛しい【家族】が居た大事な思い出の場所だったから。時雨は、時雨なりにずっとあの時の事を後悔していたのだろう。無くしてしまった【大切な人】。せめて思い出だけは無くしたくないのだと、この土地を護り続けていたのだろう。その時、突然は立ち上がった----
「陽炎さん・・・。私は貴方のした事を許す事が出来ません・・・。でも大切な人を失ってしまった悲しさは分かるつもりです・・・」
【失ってしまった人】。それは母の面影を宿す時雨の姿・・・。自分は護りきれず、あまつさえ命を救われてしまったのだ。まだこの世界に来て助けてもらった恩さえ返せていないのに・・・。そんな自分を悔いる。だけど、下を向いてばかりではいけないのだと・・・。前を向いて歩けと教えてくれた【人】が居る。
「私は・・・、時雨さんを護れませんでした・・・。だから、だからせめて!時雨さんが大切にしていたこの場所だけは、何としてでも護ろうと思います!悔やんで、下を向いていても何も護れないから・・・」
そう言って銀時に微笑む。悔いる事は悪い事ではない。だけど立ち止まっていても大切な者は零れ落ちて行ってしまうのだ。その零れ落ちる者を少しでもこの手で受け止めたい。例え自分の手は小さくても・・・。そんなを見つめて居た銀時だったが、口の端を上げて笑い立ち上がった。
銀時「俺ァ、俺が大事に思っている奴の護りたいモンも護りてェんだわ。悲しむ姿なんざ見たくないんでね」
「銀さん・・・」
???「僕達も忘れないで下さいね?」
???「そうアル!2人が中々帰って来ないから心配して来て見たら、えらい事になってたアルな」
そう言って現れたのは新八と神楽。
新八「水臭いですよ、さん。さんが護りたい物は【僕達】の護りたい物でもあるんです」
神楽「そうアル。は大事な万事屋のメンバー何だからネ!大好きなが困っているなら何時でも力になるヨ!」
「新八君・・・。神楽ちゃん・・・」
陽炎「待って・・・!待ってください!私も、私も連れてって下さい!ずっと、ずっと私は時雨を恨む事で桜の気持ちなんてちっとも考えて無かったんです・・・。時雨を困らせたかっただけだった・・・。死なせるつもりなんて、無かった・・・。悔いるしか出来ない私は、ずっと下を向いてばかりでした・・・。桜を失った辛さを、時雨に当る事で紛らわせて・・・。でもさん、貴女が教えてくれたんです。下を向いてばかりではいけないって。私は・・・、私は2人の為にまだ何かする資格あるでしょうか・・・?」
銀時「アンタもずっと苦しんできたんだろ?アンタのやり方は確かに間違っていたよ。だけどなァ歩き出すって決めたんだろ?2人に報いたいなら前向いてしっかり歩いてるの見せてやれや。それがアンタに出来る【償い】だ」
時雨と出会って15年間、自分は確かに【幸せ】だったのだ。本当は、今でも時雨を愛していた・・・。でもあの事件のあとから歪んでしまった自分の心は、時雨と桜を苦しめるばかりだった・・・。だから、だからせめて今からだけでも戻りたいと思う。純粋に桜と時雨を愛していた【昔の自分】に。もう悲しんで欲しくないから----
土方「ちょっと待ちな・・・。万事屋、これはお前達が手におえる様な案件じゃねぇぞ」
そう言って、タバコを取り出し吸い始めた土方。
新八「土方さん、何か知ってるんですか?」
土方「あぁ・・・。この辺一体地上げしている天人。どうやら【春雨】と関係が有るらしい」
銀時「また春雨スープですかコノヤロー!毎回毎回、どうしてこう縁があんのかねェ・・・。どうせモテルならちゃんにモテ----ぶほっ!!」
神楽「ダ天パは黙るアル!」
そう言うと容赦無い蹴りを銀時にお見舞いする神楽。新八もも顔を引きつらせるばかり・・・。
新八「!?ちょっと待って下さい!春雨が関係してると言う事は・・・【高杉さん】とも関係があるんですか!?」
銀時「・・・」
攘夷派【高杉 晋助】。その過激な行動はもっとも幕府から危険視され、銀時とは攘夷戦争を共にしていた【幼馴染】でもある。
土方「あぁ・・・。恐らく高杉がこの件に絡んでる可能性は高い。お前ら4人でどうにか出来る相手じゃねぇ」
「それでも・・・、それでも行かなければ行けないんです!行ったら後悔するかもしれません・・・。でも行かなければもっと後悔します・・・。でも後悔するなら悔いの無い後悔をしたいんです。ここで大人しく、この場所が無くなるのを見ているなんて出来ません!」
銀時「大串君、そうゆう訳だから〜。時雨の事頼んだわ」
土方「ちっ・・・。どいつもこいつも物好きな【馬鹿】だぜ・・・」
そう言いながらも笑う土方。そんな馬鹿達を嫌いじゃない自分も結局馬鹿なのだ。
土方「悪りぃが今回の件、真選組は大っぴらに動けねぇ・・・」
そう言って紙をに渡す土方。
「これは・・・!」
その紙の内容は場所を示す地図の様な物。
土方「コレくらいしかしてやれねぇ・・・。恐らくそこに高杉が居るはずだ。高杉が居れば必ず首謀者も居るはずだ。、死ぬんじゃねぇぞ」
「土方さん・・・。有難うございます!」
大切な者の大切な物を護りに行く万事屋メンバーと陽炎。
一人ではない、新八も神楽も陽炎も・・・。そして【銀時】も居てくれる。胸に溢れる安心感と、それと同じくらい湧き上がる不安----
私はどうなっても構わない・・・。でもこの人達は・・・この人達だけは傷ついて欲しくない。そう願う心。
共にまた笑顔で戻ろう。あの温かい万事屋へ