傍に居られるだけで・・・ 外伝 その一  出逢い  



恋に、落ちた瞬間----



「よし、終わりましたね」


は僅かばかり汗ばんだ額の汗を拭うとそう呟いた。ココは銀時が経営している万事屋銀ちゃん。朧での仕事があったせいで今回あった万事屋の依頼に行けなかった彼女。先に仕事から帰って来たが何をしていたかと言うと、珍しい事では無くなってしまった部屋の掃除である。新八が良く手伝うと言ってくれるが、万事屋の皆の為・・・、しいては銀時の為になる事を少しでもしたい。自分を温かく迎え、穏やかでいて幸せで・・・。知らなかった沢山の事を教えてくれた【この世界】。


ソファーに一息つく為には座ると部屋を見渡した。何時もはうるさい位に賑やかな万事屋の一室。依頼に出ている為、今はガランとしている。まるであの白い部屋の様に----




物心付いた頃には、もう病院の白い部屋に居た。外に出る事は一切出来なくて、する事と言えば両親が持って来てくれる本や小さな窓から見える風景を眺める事くらいだった。小さかった私の当時はパソコンなんて高価な物はまだ一般的には復旧されていなくて、出来る事と言えばそれくらいだった。良く外から聞こえてくる鳥を眺めては、自由に飛ぶ鳥を羨ましく思ってた。例え外の世界に飛び出し、命が無くなろうとも自由に飛んで死ねたならきっと幸せなんじゃないだろうか・・・?小さい世界に閉じ込められ、飛べるはずの翼を持っているのに、唯ひたすらに空を飛ぶ仲間達を羨ましく眺める自分。小さい頃はそんな空想を良くしていた。


生きる事、その意味、考えなくて良いマイナス思考が何度も何度も頭の中を支配する。あの頃の私は本当にそんな事ばかりを考えていた気がする。その問いの答えは出る事は無く、時は過ぎていく。両親に生まれて初めて強請ったパソコン。パソコンならば病室に居ても沢山の人と出会えるし、一時でも何時ともしれぬ【死】の恐怖を和らげてくれるんじゃないかと思ったから。そんな中で出来た友達に薦められたのが【銀魂】。何でも少年ジャンプと言う、所謂男の子が読む様なギャグ漫画らしいのだが友達曰く面白いのだと言う。小説を読むのが好きだった私は、そうゆう物を読む機会など殆ど無く半信半疑で読み始めた。けれどいつの間にか時間を忘れる程読みふけっていた自分に驚いた。残念ながらギャグの内容自体は知識の無い私には殆ど分からない物だったけれど、坂田 銀時と言う主人公とその周りを取り巻く人々。喧嘩をし合いながらも確かに存在する【絆】。何時からか分からないけれど、銀時の一言一言が心に沁みるようになって・・・。そんな彼のふと見せる優しさや表情が忘れられなくなっていた。


銀さん、知っていますか?あの頃貴方に出逢えなければ私はずっと前向きには生きようと思えませんでした。貴方に出逢えなければ、後悔とこんな運命に私を導いた神様を恨んでいたと思います・・・。どうすれば伝わりますか?貴方に出逢えて良かったと、貴方に恋出来て良かったと・・・。自分が出来る事と言えば感謝を込めて、料理を作って綺麗な部屋で過ごしてもらって・・・。少しでも日常を苦無く過ごせさせてあげれる様な事しか出来ません。だから、だから・・・、もう少しだけ傍に居させて下さい。悲しませると分かっていても、もうこの幸せな日々を手放したく無いのです・・・。何時か必ず訪れる別れの日。自分の事など忘れて幸せに過ごして欲しいと思う反面、共に過ごした日々を忘れないで居て欲しいと思ってしまうのです。優しいこの世界の人々は、自分が居なくなればきっと悲しんでくれる・・・。思い出す度に暗い顔をさせると分かっていても・・・。頭の片隅に【私】と言う存在が確かに居たのだと、共に笑い、共に泣いて、共に怒った、その日々を忘れないでと願う----



銀時「帰ェったぞ〜」


依頼が終わってが帰っているだろう万事屋に足早に向かう自分に、我ながら呆れちまう。別に夫婦とか恋人とか、俺達は特別な関係では無い。何時かはそうなって欲しいとは思うけれど、中々口に出来ない自分に情けなさを感じる。けれどこの幸せな生活が壊れるのが何よりも怖いから仕方ねェのかもしれない。そんな事を考えながら玄関から声をかければ、必ず笑顔で迎えてくれる彼女が中々現れない。俺は履きっ放しのブーツを脱ぐと彼女が居るであろう居間へと向かう。向かうのは俺一人だけだ。新八と神楽はと言うと、何やらお妙に用があるとかで恒道館に行っちまった。


銀時「ちゃ〜ん?居ねェの?」


そう声をかけながら居間へとたどり着けば、ソファの上で背もたれに体を預けながら眠る彼女。


銀時「・・・。まったく、こんな所で寝てっと風邪引くぞ・・・」


彼女の肩を僅かに揺らし起こそうとするが中々起きない。部屋の周りをよくよく見れば綺麗に掃除されているのが嫌でも分かる。彼女が毎日掃除をしてくれているのは知っているけれど、俺や神楽がすぐにでも汚してしまう。そんな俺達を怒りもせず笑いながら何時も眺めて片付けてくれる彼女。朧での仕事帰りで疲れているだろうに・・・。その内、本当に倒れるんじゃないかと心配しない方が可笑しい。けれどそれを言った所で、気を付けますとまたあの微笑を浮かべて家事をこなすのは目に見えている。それが彼女なんだと思い、俺は苦笑いをすると彼女の体を寝室に運ぼうと抱き上げた。決して小柄では無い彼女だが、己の腕にかかる重みは本当に僅かだ。


「んっ・・・」


銀時「・・・?起きたか・・・?」


が突然の浮遊感に声を漏らした。抱き上げたままの顔を眺めると長い睫に縁取られた瞳は閉じられたままだ。静かに眠る表情からどんな夢を彼女が見ているのかは分からない。けれど良い夢であれば良いなと思う。綺麗な寝顔に僅かに見惚れる俺。白い肌に僅かに開かれた色香が漂う唇。彼女から香る優しい心地良い香り。邪な考えが湧き上がらないと言えば嘘になるが必死に己を戒める。けれど寝室に向かおうとしていた俺の足はソファーに立ち止まったままで、彼女を抱き上げながら座っていた。力が入り過ぎない様に、彼女の体をそっと抱きしめた。


銀時「・・・。何処にも行かねェよな・・・?ずっと・・・ずっと銀さんの傍に居てくれるよな・・・?」


もう少し、寝顔を見ていよう。2人で居られる時間何て本当に僅かだ。眠る彼女に言葉は届く事は無いけれど、何かに祈る様に願っていた----




生きる意味を教えてくれた貴方。

想う気持ちを教えてくれた君。

幸せを教えてくれた貴方。

失う怖さを教えてくれた君。




貴方(君)に出逢って、世界は変わった